「そろそろ転職しようかな」「今よりいい会社に行くためにスキルを磨かなきゃ」「このままここにいていいのかな」……。
ふとした瞬間に「転職」が頭をよぎること、ありませんか? けれど、これまで積み上げてきた経験や人間関係を思うと、やっぱりためらってしまうもの。
ところが『腸と胃を整える食べるくすり やさい麹』(アスコム)など複数の著書を持ち、「Dr. Miso」としても活動する関由佳さん(36)は、予防内科医として活躍していたにも関わらず、医師をやめてアメリカに移住することを決断。
医師やめちゃうのはもったいなくないですか——? 関さんに大胆な進路変更を決めた理由を聞いたこの連載。全3回の第1回目は、これまでのキャリアと長年悩まされてきた不調について語っていただきました。
15歳、無茶なダイエットで生理が止まって…
——内科医、味噌ソムリエ、野菜ソムリエ、メディカルフード研究家と、さまざまな顔を持っていらっしゃいますが、具体的にはどんな活動をされているのでしょうか?
関 由佳さん(以下、関):医師として、オンライン栄養カウンセリングやクリニックのダイエット外来の監修などするほか、「ハッピーエイジングラボ」というものを2011年に立ち上げて、健康な食生活をおくるための啓蒙活動を行ったり、発酵食品の普及活動であったり、健康に過ごすためのレシピ作りなどを行なっています。健康にまつわる書籍もいくつか出しました。
——医師の仕事だけでも、かなり忙しかったのでは?
関:そうですね。けれど、「食」について知ることは、自分を知ることでもありました。実は、15歳の時に月経が止まってしまったんです。
当時、新体操の部活動をやっていたのですが、過度なダイエットがたたって女性ホルモンのバランスが崩れてしまって。どこの医者にかかっても原因不明。子宮や卵巣は正常だと言われるのに、月経が来ないんです。
生理周期を調節するために、ホルモン剤を飲み始めましたが、副作用で肌は荒れるし、太るし……。多感な時期だったこともあり、すごく人の目を気にしていました。
——原因がわからないのは不安ですね。
関:私は医師家系に生まれたので、大学は当たり前のように医学部に進学しました。しっかり勉強して月経の悩みも解決できたらいいなと思っていたのですが、いくら西洋医学を勉強しても原因はわからない。というのも、西洋医学は対症療法で、薬によるデータの改善や症状をいかに抑えるかを学べますが、今ある健康を維持するための根本的な解決策まではカバーしきれないんです。
そんなあるとき、食に解決のヒントがあるのではないかと思いました。私の月経問題に限らず、高血圧もガンも、食べ物や食べる習慣と少なからず結びついている。だから、食の知識が必要だと考えたのです。
可能性を感じた「味噌」の力
——食の知識を得るために、どんなことをしましたか?
関:研修医時代、入院患者さんと接する時間が長かったので、何を食べているのか聞き取り調査をしました。そこで見えてきたのがビタミンとミネラルの不足でした。
——それはどんな影響が出るのでしょうか。
関:栄養素が足りなくなると細胞が機能できなくなります。なぜ栄養素が足りなくなるのかを考えたら、食べる量だけでなく、「食べ物自体」のビタミンとミネラルが減っていることに気づいたんです。
昔の日本は循環社会で人間や動物が排泄したものを肥料にして野菜を育てていました。でも人口が増えて衛生面から下水処理をするようになった結果、堆肥がつくられなくなり、科学的な肥料を用いるようになりました。そのため、栄養素が偏った土壌で野菜が栽培されるように……。その結果、例えば同じ人参でも、今と昔ではビタミンAの量が減ったりしています。
——そんな変化が。とはいえ、畑を作るにしても土から改善していくのは大変ですよね。
関:はい。そこで私が行き着いたのが味噌です。現在私は「Dr.Miso」として味噌の啓蒙活動を進めています。味噌の素晴らしさに気づいて、広島や、仙台、秋田など、全国の味噌蔵を回っているんです。先日は愛知県の麹屋さんで住み込みで、9日間麹造りと味噌造りの修行もさせてもらいました。
——なぜ、味噌に?
関:味噌には身体に必要な基本的な成分が全て入っているんです。タンパク質も必須アミノ酸まで分解され、吸収されやすい形になっていますし、天日塩を使えばマグネシウム、カリウムなどのミネラルを摂る事もできます。発酵させることでメラノイジンという抗酸化物質も出来ます。人間に必要なものを手っ取り早く、しかも安く摂ることが出来る。ということで、味噌を中心に発酵食品を推すようになりました。
——なるほど。
関:それに味噌って、実は自分で簡単に作れるんですよ。豆と塩と麹だけあればいい。混ぜたらあとは10ヶ月ほど放っておくだけ。ぬか漬けのように定期的に混ぜる必要もありません。
インドで気づいた調和の大切さ
——「味噌推し」になった関さんですが、ご自身の体調に変化は?
関:まず誤解がないようお伝えしておきたいのは、味噌で全てを解決できるという話ではないこと。よくメディアなどで特定の食べ物が“万人に万能”のように伝えられることがありますが、そのような食べ物はありません。それぞれの体調や生活スタイルに合わせ、バランスよく食べることが基本です。
実際のところ私自身、食に気をつけていても体の不調に悩まされることはありました。一時期、銀座で統合医療を行うクリニックの院長を任されていたのですが、院長としてのプレッシャーがストレスになってしまって。
自分がやりたい治療方針で進めると、経営が立ち行かなくなる。収支と理想の板挟みでした。そのストレスから自律神経を乱して、立ちくらみなどの症状が出るようになりました。
私は経営者には向かないとよくわかったので、親会社の事情で閉院が決まったタイミングで、自分が本当は何をしたいのかを模索するようになりました。
——そのときはまだ、医師としてできることを模索するという感じですか?
関:はい。けれど、当時はまだ心のバランスを崩したままだったので、臨床は離れて世界中の様々な自然療法を見て回る旅に出ました。マウイや、モンゴル、スコットランドなどを回り、アーユルヴェーダについても勉強したいと思ってインドにも2回行きました。するとインドに初めて入国した3日目に15歳のときから約20年間止まっていた月経が戻ってきたんです。
——20年ぶり!!
関:20年ぶりに月経が突然戻ってくるなんて、医学的には説明がつきません。けれど、私は「自分がどうしたいか知り、行動していくこと」がよかったのではないかと仮説を持つようになりました。
アーユルヴェーダは、ボティとマインドとスピリットのバランスが取れている状態を「健康」と定義しています。それまでの私は、食べ物を整えて、必要な栄養を摂取することに注力してきました。「そうしたい」からではなく「そうすべき」という理屈でその選択をしてきたのです。キャリアについても同じような感覚を持っていたと思います。
けれど、心と身体が調和する感覚を知って、自分のやりたいことを実現していくことが私の目指す健康法だと考えるようになりました。
——ご自身の経験を通じて健康への理解が変わっていったんですね。次回はついに医師をやめる決断をしたことについてお聞かせください。
第2回は3月25日(水)公開予定です。
(構成:落合絵美、撮影:大澤妹、聞き手・編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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