花粉症の今シーズン(2020年)、スギ花粉症の治療薬として世界初の抗体製剤という「ゾレア」が登場し、注目されています。前編の「重い花粉症に世界初の新治療薬登場…『ゾレア』の効能は?」という記事では、ゾレアとはどういう薬なのか、抗体製剤とは何なのか、どういう働きをするのか、従来の薬とはどう違うのか、ゾレアを使用する際の条件とは、について伝えました。
今回は、医療機関で具体的にどう治療するのか、副作用、費用などについて、ひき続き、耳鼻咽喉科専門医でとおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長に尋ねました。
2週間か4週間ごとに皮下注射を行う
——前編で、ゾレアはスギ花粉症の状態が「重症」「最重症」の場合に使用できると聞きました。その場合の、ゾレアによる具体的な治療法を教えてください。
遠山医師:ゾレアは、1回75~600㎎を2週間か4週間ごとに皮下注射を行います。ただし、その前にまず、従来からある抗ヒスタミン薬(前編参照)で1週間以上の治療を行うことが条件になります。
それでも改善しない場合に、ゾレアによる治療を開始します。患者さんの体内のIgE(アイイージー)抗体(前編参照)の量と体重を計測し、1シーズンあたりに皮下注射で投与する回数、量、期間などを決めます。
原則は4週間に1回の注射です。治療開始の時期によりますが、通常は1シーズンに1~2回の注射ですむと想定されています。治療期間は、「重症」の人でおよそ1~3カ月です。
——ゾレアの効果は実際にはどうなのでしょうか。
遠山医師:くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなど、アレルギー反応のすべてを抑制する効果があると考えられています。実際、当院の患者さんの例では、初回投与後、数日から2週間で効果が現れます。
——ゾレアによる治療中は、ほかの花粉症対策の薬はどうするのでしょうか。
遠山医師:くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった症状の対症療法として、従来から使われていた抗ヒスタミン薬を併用して服薬することが定められています。また、抗ヒスタミン薬以外の内服薬、点鼻薬、点眼薬も使用は可能です。状態によって医師と相談してください。
——妊娠中、授乳中の場合は使用が可能ですか。
遠山医師:「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」とされています。これも、医師とよく相談してください。
——スギ以外の花粉症では適用されないのでしょうか。
遠山医師:スギ以外は、日本ではまだ治療に使われていません。海外では、ブタクサやイネ科などの花粉症にも効果があるという研究結果が報告されていますので、将来的には期待できるでしょう。
ゾレアの薬価は4月から引き下げに
——ゾレアの使用では、どのような副作用が考えられますか。
遠山医師:注射した部位が赤くなる、腫れることがあります。また、まれですが、気管支のけいれんや立ちくらみ、呼吸困難なども報告されています。眠気はありません。
——ゾレアは健康保険適用で、2020年4月から薬の値段が下がるというニュースがありました。具体的な費用を教えてください。
遠山医師:ゾレアの薬価は、3月までよりも37.3%が引き下げられます。例えば、1本150㎎を4週ごとに行った場合の1カ月の費用は、健康保険適用の3割負担で約8,745円になりました。この薬価に初診料や再診料、従来の薬の費用などが加算されます。症状が重いと使用する薬の量が増えて、2週間に1回ごとに600㎎の注射で約7万円になる場合もあります。治療開始前に医師から説明があるので、治療法、副作用、費用などを必ず確認してください。
——症状によって治療費がかさむ場合は、「高額療養費制度」(1カ月の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、超えた分の払い戻しが受けられる制度)などの医療費サポート制度を活用するとよいですね。ゾレアは、患者にとっては朗報と言えるのでしょうか。
遠山医師:長い間スギ花粉症に悩まされてきた重症や最重症の患者さんにとっては、生活のクオリティを改善できるという面で朗報でしょう。ただ、現在のところ、対象となる人が限定されていることと、治療費の面で、実際に治療に取り掛かる患者さんは限定的とみられています。
ほかの治療法には、根治を望める方法として、軽症の人も健康保険が適用されて費用も軽い「舌下免疫療法」※があります。3~5年の治療期間が必要ですが、自宅で薬を飲むだけで手軽です。
また、日帰り手術で鼻づまりを解消する方法もあります。いずれにしても医師とよく相談して、ご自身の生活や仕事と合った、納得がいく方法を選んでください。
※「舌下免疫療法」については次の記事を参考にしてください。
「新薬登場で治療しやすくなった! 耳鼻咽喉科専門医に聞く、花粉症のケア最前線」
——治療を受けるにはどの医療機関に行けばいいのでしょうか。
遠山医師:どこのクリニックでも受けられるわけではありません。耳鼻咽喉科やアレルギー診療科の、治療経験を積んだ医師のもとで受ける必要があります。受診前にホームページや電話で、ゾレアの治療が可能かどうかを確認してください。
ゾレアという花粉症のアレルギー反応を阻止する薬が登場して治療の選択肢が増えたこと、それも重症の人の不快な症状が抑えられるとは、画期的な展開ではないでしょうか。ゾレアには使用条件や費用のハードルはあるものの、その存在を知っておくだけでも、自分に適した治療法を見つけるにあたって有用と言えそうです。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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