歯科医院で2年ぶりに受けた定期検診で、進行しているむし歯を指摘されました。しかし、冷たいものを飲んだときに少し響くだけで、痛みはあまりありません。歯科医師で口腔衛生がご専門の江上歯科(大阪市北区)の江上一郎院長は、「30歳以降ぐらいのむし歯の痛みは、乳歯の感覚とは違います。むし歯ができる場所も違うので、大人のケア法を習得しましょう」と話します。
2回に分けて、大人のむし歯の特徴について紹介します。今回は、むし歯の痛みかたについて聞きました。
加齢とともにむし歯の痛みは鈍くなる
——幼いころのむし歯の痛みは激しかったと記憶に残っています。大人になると変化するのですか。、さらにその中は神経や血管が通る「歯髄(しずい)」などでできています。
江上医師:乳歯と30代以降の歯ではむし歯の進みかたも痛みかたも違います。まずは歯の構造を見てみましょう。表面が白く硬い「エナメル質」、その内側が黄色っぽくてエナメル質よりは軟らかい「象牙(ぞうげ)質」、さらにその中は神経や血管が通る「歯髄(しずい)」などでできています。
むし歯がエナメル質でとどまっている場合は痛みはありませんが、象牙質にいたると冷たいものや熱いものがしみる、むし歯の穴にものが詰まると痛みを感じるようになります。さらに歯髄にまで達すると、神経を直接的に刺激するため、痛みはかなり強くなります。
乳歯や生えたての永久歯は、30代以降の歯に比べてエナメル質の厚みが半分程度なので、一度むし歯になると狭い範囲で奥まで進行します。そのため、神経が通る歯髄に達するのが早く、急にズキズキと痛みやすくなります。これを「急性う蝕(歯髄炎)」と呼びます。「う蝕」とはむし歯が進むことを指し、その結果で生じたむし歯を歯科では「う歯(し)」と言います。歯髄炎とは、歯髄と呼ばれる組織に生じる炎症のことです。
その後、永久歯に生え代わって20歳ぐらいを過ぎると、エナメル質が厚く硬く形成されて象牙質を守るようになり、乳歯や生えたての永久歯のときよりもむし歯になりにくくなります。そして30歳ぐらい以降でむし歯になると、今度は神経が通っている歯髄をかばうかのように、象牙質が増加して厚みが出はじめます。
すると歯髄の空間が圧迫されて狭くなり、機能が低下していきます。よく、「加齢とともに歯の神経が細くなる」と言われるのはそのためです。こうして痛みの伝わりかたが鈍くなるわけです。生体の自然現象とも言えて、年齢とともに誰しもそのようになっていきます。
大人のむし歯の場合は、乳歯に比べると「広く浅く」むしばまれて、進行が遅くなります。これを「非活動性う蝕」と呼んでいます。
むし歯の痛みを、10代の記憶と比較してはいけない
——たとえば、むし歯の進行度を表わす「C2(シーツー。むし歯が象牙質まで及んだ状態)」であった場合、乳歯や生えたての永久歯と30歳以降の大人では、同じC2でも痛みかたが違うということでしょうか。、さらにその中は神経や血管が通る「歯髄(しずい)」などでできています。
江上医師:そうです。先ほど述べた理由で、大人のほうが痛みを感じません。しかし、実はそこに大きな問題があります。
大人のむし歯の患者さんは、「乳歯のときの痛みに比べたら、これぐらいはまだまだ大丈夫」と思い込まれて放置されるケースがよくあるのです。その結果、気づいたらむし歯がかなり進行していて、神経を抜く(歯髄除去)、歯を抜かないといけない場合もあります。
痛みはないけれど、なぜだか歯の黄ばみがひどい、茶色い、黒い、ということはありませんか。それは大人のむし歯が痛みのないままに進行しているサインです。
痛みがなくなったら危険
——中年以降になると、むし歯の痛みを感じにくくなるということですが、「こないだまで冷たいものや熱いものがしみていたけれど、いつの間にか痛みがなくなった」と言う人もいます。自然に治ることがあるのでしょうか。、さらにその中は神経や血管が通る「歯髄(しずい)」などでできています。
江上医師:いいえ、それはかなり危険な思い違いです。痛みを感じる歯髄が、むし歯の細菌に浸潤されて死んでいるケースなのです。
むし歯の進行には、いろいろなケースがあります。「歯の噛む面に穴が空き、食べものが押し込まれてむし歯が広がる」、「歯の側面より徐々に広がって歯内で大きくなって気づく」、「つめ物の内側またはふちからむし歯が進行し、中で広がっていく」などです。
神経が死んでいると痛みは感じませんが、知らない間にむし歯菌は歯の根から骨(歯槽骨。しそうこつ)まで進み、膿(うみ)の袋をつくります。これを「歯槽膿瘍(しそうのうよう)」と言いますが、この膿は周囲の骨や血管を圧迫しはじめ、骨には神経があるため激烈な痛みが襲い、歯ぐきから顔に腫れを生じさせます。つらい状態です。
やがて、歯の頭の「歯冠」の大部分が崩壊してなくなっていきます。むし歯の進行度は、最終段階を表わす「C4(シーフォー)」です。ここで歯を抜けば終わり、というわけではありません。最悪は、歯の膿が原因で鼻の奥の空洞に炎症が及んで副鼻腔炎(ふくびくうえん)になる、また、歯の根から細菌が血管を通して血液に入り込み、全身に回って心筋梗塞や脳梗塞など深刻な病気に発展する可能性があります。
——痛みがないと気づかない、あるいは、薄々感じていても放置しがちです。、さらにその中は神経や血管が通る「歯髄(しずい)」などでできています。
江上医師:放置は危険ということを知っておき、毎日の歯磨きのときに鏡で歯をチェックして、色がおかしい、動くなどに気づけば、早めに歯科医院を受診しましょう。歯科の定期健診を3カ月に1回は受けておくと、発見されてダメージが少ないうちに治療ができます。
子ども時代のあの強烈な痛みは乳歯特有のものだったとは……。大人になるとむし歯だからといって痛むとは限らず、むしろそれが危険であり重篤な症状に発展する場合もあるとのことです。予防には歯科医院での定期検診が最重要ということと合わせて。大人のむし歯の痛みかたを理解しておきたいものです。
後編は、大人のむし歯は「歯と歯ぐきの境目」「根元の溝」にできる…歯科医が教える予防とケアをお届けします。
(構成・取材・文 海野愛子/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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