昔話に登場する女の子とガールズトークを繰り広げる話題作『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』(柏書房)の著者・はらだ有彩さん、『アイドル、やめました。AKB48 のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』が注目を集める大木亜希子さん。
昔話に登場する女の子と、現代を生きる女の子。それぞれに寄り添ってきたふたりの、初対面とは思えないほど盛り上がった対談を全5回にわたってお届けします。
瞬間湯沸かし器の如く怒ります(はらだ)
——前回は、大木さんをもやっとさせた「経験切り売り発言」への抵抗方法をはらださんにご指南いただきました。超ハッピーでいる、許さない、頼る、消えない。抵抗にはいろいろな方法があるのだなと『静かなる抵抗』を読んで感じたんですけれども、それを紹介しようと思ったのは何かきっかけが?
はらだ:怒るとか喚くだけではない、激しくない方法を書き残したいなと思ったことが出発点ですね。私は瞬間湯沸かし器のごとくすぐキレるんですよ。会社でキレてメガネを壊したこともありますし……。
大木:どういうシチュエーションですか?
はらだ:会社のある仕組みについて同僚が上司に少し苦言を交えて提案した時に、「あなたは出産後時短勤務になっていて、実際には作業しないじゃない」と言われて彼女は黙るしかなくなって……。勤務形態については会社と社員の合意のうえで設定されているのに、それで発言権があるとかないとかっておかしいと思って、机バンッ! メガネポキッ! みたいな(苦笑)
一同:激しい……。
はらだ:怒りをすぐ言葉にできる自分の性格は気に入っているのですが、すぐには怒れない人もいますよね。私はそういう人に「どうして言わないの? その時に言えばいいじゃん」とは思わないんですよ。
——怒りの後出しって“なかったこと”にされがちですよね。
はらだ:いま、世の中的にようやく「怒りは表明していいんだ」という風潮になってきた気もしますが、誰でもすぐに怒れるわけじゃないですよね。でも言わないから怒っていないという訳でもない。
私は抵抗のアウトプットはいろんなバリエーションがあっていいと思っているんです。悩んでいるだけでも生きるための抵抗をしていると思うし、大木さんが心療内科の戸を叩いたということだって。そうでなければいま、どうなっていたかわからないですよね。
大木:言葉が優しくて泣きそうです。
はらだ:戸を叩いた時点で生きようとしている。そのアクションだって抵抗と言えるし、何か劇的に激しい動きをしなくても、それぞれに生きるためにしているアクションがあると思うんですよね。
怒りに気づくまで時間がかかります(大木)
——大木さんはすぐ怒れますか?
大木:怒れないです。うんうんって笑顔で聞いて、「あれ?」と思ってもその場はつつがなく乗り切ります。家に帰って一人になったときにズドーンと来るという。
——そのモヤモヤはどうするんですか?
大木:全て文章で落としています。「これはあのとき言えなかった、あれ……」みたいな感じで(笑)。怒りの沸点を超えたらすぐに出力できるはらださんとは対称的に、私はそれを咀嚼するまでの時間が3、4日かかるんです。
——真逆ですね。
大木:そうなんです。私、誕生日に(下北沢にある書店の)B&Bでイベントをしたんですけど、告知を出したときに知り合いに「え、誕生日に仕事あるの? かわいそう」って言われたんです。そこでもやっとして咀嚼が始まって……。
はらだ:誕生日に引っ張りだこなんて羨ましいじゃないですか。
大木:ありがとうございます。「大切な日に仕事が入ってとっても嬉しい」これが私の本当の気持ちなんですけど、その人のマインドでは「誕生日なのに彼氏と過ごせないなんてかわいそう」なんですよね。
一同:(眉をひそめて)んん?
大木:そうやってみなさんみたいにすぐ反応できるのは素晴らしいと思うんですけど、私はアイドル時代も経て、出力のタイミングが遅いと自分でも理解していて。でもだからこそ物書きになれたといまは思うんですよ。「はーい、一回持ち帰りまーす。後日原稿のネタにさせていただきまーす!」って(笑)。
「何かを成し遂げなければ」は一旦おいておく
大木:いろんな方法といろんな武器で、みんなそれぞれの戦い方、抵抗の仕方があっていいですよね。私のように「持ち帰ります」って抱えている女の子たちもごまんといると思いますし。
はらだ:そうですね。「必ず戦って、何かを成し遂げないといけない」と思いつめててしまうと苦しいですよね。そういう風に追い詰められている自分や誰かをみると私は、「所詮、人間ごときが……」って思ってしまうんですよね。
大木:神話に登場する神様目線!? 原田有彩宮尊(はらだありさのみやのみこと)降臨??
はらだ:名前がついちゃった(笑)。言葉は悪いんですけれど、なんていうか……一周回って「所詮人間ごときが何をたいそうなことを成し遂げられるつもりでおんねん」みたいな気持ちをどこかに持っておきたいなって思うんです。
大木:どういうことですか?
はらだ:それは抵抗することがムダという訳ではなくて、自分の行動をムダにしないために「何かいい感じの状況に変えなければ失敗」だと思わなくてもいいんじゃないかなと。現実は変えられないかもしれないけれど、自分のいる環境の中で自分ができる最適なソリューションを見つけられたら儲けものだな、と。だから、出力に時間がかかるから物書きになるという大木さんの解決法はすごくいいなと思いました。
大木:見つけるまでに15年くらいかかっちゃいましたけどね。
はらだ:生きているうちに見つかったことが素晴らしいと思います。ただ、大木さんみたいに解決法を見つけられなくても、どうせ人間が生きて死ぬまでの間わちゃわちゃしているだけなのだから、「こうじゃなきゃだめ」って深刻に考えなくてもいいかなって。
大木:はらださんの本を読んでいるとその自分なりの解決法を見つけられそうな気がします。時代も種族も超えたいろんな女の子のサンプルケースをたくさん知ることができるし、「やらかしちゃっても生きていけるよ」って。たとえ明日からもヤバい上司はそのままだったとしても、せめてこの本を読んでいる時だけは、新しい武器を手にした気持ちになれると思います。
最終回は2月19日(水)公開予定です。
(構成:安次富陽子、撮影:面川雄大)
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情報元リンク: ウートピ
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