映画『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』などの作品を手がける今泉力哉監督の最新作『his』が1月24日(金)より全国公開されました。今作で描かれるのは、同性愛のその先。
自分がゲイだと周囲に知られることを恐れ、ひっそりと田舎暮らしをしていた迅(宮沢氷魚)と、自分を偽り女性と結婚し子どもをもうけたものの苦悩する、迅のかつての恋人・渚(藤原季節)。再び愛し合うふたりと、彼らを取り巻く人間関係の行き着く先は——?
主演を務めた宮沢氷魚さんと、藤原季節さんにお話を伺いました。
氷魚くんのシンプルな言葉に感動
——実に雰囲気のいいおふたりですが、お互いの好きなところは?
藤原季節さん(以下、藤原):直球を投げてくるところ。本人は自覚していないところもすごくいいなと思っています。たとえば、この前クリスマスカードをもらったのですが、「この映画を広めよう!」ってシンプルなメッセージ。そういう風に直球で言える人、伝えてくれる人に僕はこれまで会ったことがなかったような気がしたので、嬉しくなりましたね。
宮沢氷魚さん(以下、宮沢):そうかな? いるでしょ(笑)。
藤原:いや、なんていうのかな。座長とかになると「言葉にしなくてもわかるよね」ってドンと構えているタイプの人が多いのが僕の中のイメージ。だから氷魚くんの直球の投げ方はすごいなって思うし、グッとくるんですよ。
宮沢:特に意識していなかったけど……。確かにシンプルに直球だね。僕は基本的にそういう性格かも。
藤原:「この映画が愛されるといいね」とか。僕はもじもじしちゃうタイプだから「この映画はちゃんと愛されるかなぁ」とか考えてしまって、素直に口に出せないところがあるんですよ。だから氷魚くんのまっすぐな言葉に毎回感動しています。
宮沢:嬉しいな。季節くんの好きなところは、計算のないところですね。まだ今作でしか一緒に芝居をしていないので、それが俳優・藤原季節のやり方なのか、この作品だからその方法だったのかわからないのですけれど。『his』の中では、そのとき思ったことや感じたことをぶつけてきてくれました。それがすごくよかった。
藤原:そうなんだ。
宮沢:中には緻密に計算された芝居をなさるベテランの先輩もいて、それはとても素晴らしいし、身につけたいスキルでもあるのですが、今作のような作品だと、そのときに自分の中から出てくるものも大切になると思っていて。季節くんはそれを毎回やってくれるし、テイクを重ねるごとにまた変わるんです。舞台のお芝居に近いというか。普段の映像の現場でしているお芝居とは違う感覚だったのですごく楽しかったんですよね。
好きが大きければ、嫌いの反動も大きくなる
——私が作中で気になったのは、渚の妻の玲奈です。結婚して子どももいて、ある日突然夫にゲイだと言われたら……。怒りもあるだろうし、でもいつかは許したいという気持ちも芽生えるのかなと。おふたりは、いつか許せたらいいなと思うことはありますか?
藤原:玲奈が渚を許すのは難しいですよね。裁判のシーンや、玲奈のことを思うのは本当に苦しかったです。僕自身が許せないこと……なんだろう。許したいと思うことはあるんですけど、許すってものすごく労力を要するじゃないですか。だからなおざりにしている問題がいっぱいあります。
——心をざわつかせることと距離を置くのは大事だと思います。この先関係もまた変わるかもしれないですしね。
宮沢:僕も簡単には許せないかな。許すのって本当に難しいし、どこかで許したほうが負けみたいな感覚もあって。本当はそんな自分が嫌いなんですけどね。早く許しちゃえばいいのに、って。許せないことって滅多にないんですけど、裏切りは許せないです。
あるとき、信頼していた人に「絶対誰にも言わないで」と打ち明け話をしたら周囲にバラされてしまって。普段なら「しょうがないな」って言えたと思うのですが、そのときはどうしても許せなくて。それ以来、その人とは距離をおいています。
——それは罪深い……。
宮沢:ってトーンで話していますけど、内容は全然大したことじゃないんですよ(笑)。ただ、ずっと信頼していた人だったから、その1度の裏切りが僕の中ではとても大きくて。今もそのことを考えるとしんどいんですよね。
藤原:わかる。好きとか嫌いって、振り子のようだよね。ものすごく好きなぶん、大嫌いになるのも一瞬というか。反動も大きい。
宮沢:好きが嫌いになるのは簡単だけど、嫌いが好きになるのは難しくない?
藤原:難しい!
誰かと一緒にいるって、違うところがあるからいい
——誰とどこで、どう生きるか考えされられる作品でしたが、一緒に生きていくパートナーに求めるものは何かありますか?
宮沢:価値観が共有できることですね。全部ぴったり合うなんてことはないだろうけど、何か一つでも一緒だったらなんとかなると思うんです。……ってテレビ番組でイチロー選手が。
藤原:おお(笑)
宮沢:その通りだなと思ったんですよね。
藤原:僕は自分にないものを相手に求めるところがあります。その興味が入り口となって好きに変わっていることが多いですね。自分にないものを持っている人に出会うと、惚れ込んでしまうんです。
本当にすごい人って会うたびに発見があるんですよ。会うたびに自分にないものを見せてくれる。そういう新鮮さを常に与えてくれる人は、何年付き合おうと、何年一緒にいようと、何年友達でいても、ずっと好きでいられると思います。
——お話を聞いていると、基本的に真逆なおふたりですよね。
藤原:(宮沢さんを見て)そうかもしれないね。
宮沢:ね。でも真逆っていいですよね。
藤原:そうだね。完全に自分にないものを持っているわけだし。
宮沢:そういえば所ジョージさんがある番組で……ってなんか人の言葉に影響されすぎなんだけど(笑)。
藤原:そういう時期あるよね(笑)。
宮沢:所さんと奥さんは趣味も性格も全然違うらしくて、「なんでそんなに全然違う人と結婚したんですか」と聞かれていて。そのときに所さんが「だって自分は自分と結婚しないでしょ。自分と違うから好きなんじゃん」とおっしゃっていたんです。それがカッコよかった。確かに自分と結婚したくないなって(笑)。誰かと一緒にいるって、違うところがあるからいいんだと思います。
■映画情報
『his』
2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
宮沢氷魚 藤原季節
監督:今泉力哉
企画・脚本:アサダアツシ
音楽:渡邊崇
配給:ファントム・フィルム
©2020映画「his」製作委員
(取材・文:安次富陽子、撮影:青木勇太)
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情報元リンク: ウートピ
藤原季節さん、宮沢氷魚さんに聞く、互いの好きなところ