30年ほど前、「主人在宅ストレス症候群」という言葉が話題になりましたが、ここ数年では、女性が心身に不調を来たすのは夫やパートナーの言動が原因かもしれないという意味合いの「夫源病(ふげんびょう)」が注目されています。その名づけ親であり、内科専門医・循環器専門医の石蔵文信医師に、夫源病とはどういう状態でどのような症状が現れるのか、どうすればいいのかなど、詳しいお話を聞いてみました。
夫の言動、存在が強いストレスとなって発症する
石蔵医師は2001年に全国でも先駆けとなる男性更年期障害の外来クリニックを開院し、『定年不調』(集英社)をはじめ、多くの著書で知られるドクターです。「多くの男性の患者さんを診察するうちに、女性の不調である夫源病に気づいた」と話し、その経緯についてこう説明します。
「男性の不調を診察するにあたり、私は可能な限り、患者さんの妻やパートナーといっしょに受診してもらうことにしています。その過程で、妻やパートナーも男性の患者さんと同じように体もメンタルも不調に悩むケースが多いことがわかりました。
『夫源病』は医学的な病名ではありませんが、言葉のとおり、夫が原因、源となって妻が病を発することを指します。夫の行動、発言、また存在が、妻にとって強いストレスとなって起こります」
不定愁訴は夫源病のサインかも
具体的に、どのような症状が現れるのでしょうか。石蔵医師は、
「めまい、頭痛、動悸(どうき)、耳鳴り、胃重感や胃痛、不眠、腰痛、けん怠感、気分の落ち込みなど、不定愁訴(しゅうそ)と言われる多様な症状です。ストレスから自律神経やホルモンのバランスが崩れて発症します。これらが高血圧や動脈硬化、うつ病など、生活習慣病の引き金になることもあります」と説明を続けます。
更年期障害の症状と類似しているようですが、「更年期障害にも夫源病が関わっていることは大いにありえます。逆に考えれば、これらの症状があって夫やパートナーとの関係にストレスを覚える場合は、夫源病のサインと言えるでしょう」と石蔵医師。
マイホームを購入、妻の在宅勤務を機に夫が豹変
夫源病になりやすい環境、年代はあるのでしょうか。石蔵医師は、「夫が定年後に自宅で過ごすようになると患者さんが急増しますが、近ごろは結婚後すぐや育児中の30代、プチ更年期と自覚される40歳前後の女性にも起きています。つまり、どの環境や年代でも起こりえると言えます」と話し、次のケースを紹介します。
<Tさん 32歳・IT業で在宅勤務>
結婚3年目、いずれ子供ができることを前提に、首都圏近郊にマイホームを購入。システムエンジニアのTさんは、それを機にテレワークに切り換え、おもに在宅で仕事を続けている。ただ、業務量が増え、締め切りに追われて毎日忙しく時間の余裕はない。
夫は大企業の専門職で、生来、几帳面で仕事にも部下にも家庭でもあれこれ細かく指示するタイプ。引っ越し前は家事を手伝っていたが、通勤に往復3時間超かかるようになったこと、昇進したこと、Tさんが在宅勤務になったことで、まったく家事をしなくなった。イライラしながら、食事に「またテイクアウト総菜か」、掃除や洗濯に「不十分すぎる」と常に文句を言い、「一日家にいるのに、なんだこれは」、「気楽なもんだ!」と怒鳴るように。
さらには「子供もできないくせに」と言い捨てる。休日は終日ダラダラして、Tさんが出かけるときには、「どこへ行かれるのですか。けっこうなご身分ですね」と必ず嫌味を言う。
無口でおとなしいタイプのTさんはできるだけ聞き流すようにしていたが、毎日責め立てられる生活が2年ほど続いたころ、心身に異変を感じ、「耳の奥でセミが鳴いている」というほどの耳鳴りや耳痛、頭痛が強くなった。また、「動悸、吐き気、胃痛、胸がふさがる感覚、憂うつ感から逃れられない。とくに夫が家にいるときに強くなる。ただ、夫が出張で不在のときには症状は治まっている」と証言する。
石蔵医師は、Tさん夫婦にどう診断したのかについて、次のように説明をします。
「当院を受診されたのは夫のほうが先で、おもに職場環境が原因と思われる、うつ病の前段階の抑うつ状態と不安障害がありました。カウンセリング中に妻のTさんもつらい症状があるのではと察し、同伴してもらいました。案の定、Tさんも、抑うつ状態と先のつらい痛みが出ていました。
そこで、ふたりに夫源病について説明したうえで、それぞれに適した精神安定剤、睡眠導入剤・抗うつ剤を処方しました。まず睡眠をとるとイライラや憂うつ感が鎮まりやすいこと、同時に、自分で毎日できる自律訓練法や、夫婦で距離をとりながらのコミュニケーションの方法について紹介し、実践してもらいました。
Tさんには睡眠状態が改善するまで、実家で過ごすことを勧めました。すると2週間ほどで回復しはじめ、3カ月めには耳鳴りや耳痛、吐き気がかなり治まりました。Tさんの不調はいくつかの検査をしても原因が特定されませんでしたが、夫と接触しているときに激しく起こること、離れると回復したことにより、夫源病の可能性は高かったのです。
症状が軽快したのを機に帰宅してもらうも、家庭内別居を続け、週末はどちらかが実家に帰ること、つまりできるだけ距離を保つようにアドバイスをしました。すると夫も徐々に抑うつ状態や不安障害が軽快し、1年後には薬が不要になりました。
Tさん夫婦はまず夫源病を自覚し、同時に不調の回復に取り組んで関係性を維持した例です。受診してお互いがストレスで心身に支障を来たしていることを認識し、実際に一定の距離を置きながら回復を目指したことが功を奏しました」
原因がわからずにふせっていた数々の不調の実態は、夫へのストレスによるものだった……。そう医師に説明してもらって受け入れ、回復への道すじが見えた例でしょう。次回は、夫源病のきっかけとなりやすい「お金のトラブル」についてご紹介します。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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