残暑と呼ぶには厳しい暑さと湿度の高い日々が続きます。先だって、「熱中症は自宅で起きている…内科医が答える傾向と対策」という記事を配信したところ、とても多くの方に読まれています。そこで引き続き、とくにひとり暮らしで気を付けたい「残暑に自宅熱中症」の症例と、医師によるアドバイスをお伝えします。
内科医で泉岡(いずおか)医院(大阪市都島区)の泉岡利於(としお)院長によると、「9月に入っても、暑さのピークが過ぎただろうという気のゆるみか、冷房を切る、水分補給をしなくなる、紫外線カットをしない、お酒を飲みすぎるなどで、熱中症を発症する人は多いのです」ということです。詳しく聞いてみましょう。
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不意に発症する熱中症…意識障害も起こる
前回もお伝えしたように、熱中症の発症場所は、「住居(敷地内含む)」の割合が例年約40~50%。道路や交通施設、公園、会社などに比べてもっとも多い」ことが消防庁の報告によって明らかになっています。泉岡医師はまず、ひとり暮らしでの熱中症に注意を呼びかけます。
「熱中症は重症になると意識障害を起こします。ひとり暮らしの場合、そうなると命に危険が及びます。なによりもまず、熱中症にならないようにケアすることが重要ですが、実際には、用心をしていても不意をつかれて急に発症するのが熱中症の特徴でもあります。日本の都心部では10月中旬ぐらいまでは暑さが続きますから、むしろ、『自分も熱中症になる』と想定して予防を続けるのが得策です」
昼からずっとビールを飲んで夜中に熱中症に
次に、女性読者による「残暑の時期の自宅熱中症」の体験談をご紹介し、泉岡医師にアドバイスをしてもらいましょう。
Cさん 34歳 会社員・営業
お酒が好きで強いほうなので、週末は昼から飲むことを楽しみに1週間、働いています。去年の9月の連休の初日、都内のバーベキュースポットに友人と繰り出して、昼から冷たい缶ビールを数本と、ワインを1本開けて楽しんでいました。19時ごろには帰宅したのですが、翌日も翌々日も休みだったので、続けて「ひとり家飲み」をしました。
23時ごろでしょうか、頭が痛く重くなってきたので、飲みすぎか夏バテかなと思って、冷房にタイマーを数時間(記憶にない)かけて、ベッドに入りました。すると24時ごろには吐き気で目が覚め、頭も何かでたたかれているようにガンガンと痛く、なぜか寒気もしてきました。これまで二日酔いはしたことがないので、これはおかしいと思って、クレジットカードの健康相談窓口に初めて電話をして尋ねると、「熱中症だろう」と言われました。
近所に住むいとこに電話をするとすぐに保冷剤と経口保水液を持って来てくれて、車で夜間救急病院へ連れて行ってもらいました。吐き気で経口保水液は口に含む程度が精いっぱいでした。いつも、水分補給になると思ってビールを飲んでいたのですが、医師には「とんでもない間違い。それがアダになった」と言われました。もう9月だし、熱中症シーズンは終わったと思っていましたが、よく考えたら7月下旬並みに暑く、油断していたと思います。とても苦しい体験でした。
ビールを1リットル飲むと、1.2リットルの体内水分を失う
泉岡医師のアドバイス
お酒は熱中症にとって大敵です。とくに野外でのレジャーやスポーツ観戦時に冷たいビールを飲むとのどの渇きをいやすように感じて、何杯も飲むことがあるかもしれません。しかし、実際にはアルコールには利尿作用があって尿量が増加し、また、体内でアルコールを分解するために水分を消費します。その相乗の作用で、1リットルのビールを飲むと1~1.2リットルの水分が失われると言われます。お酒を飲むほどに、水分補給どころか、体内では水分が不足する「脱水」が進んでいます。
Cさんの場合は、昼から寝る前までビールやワインを飲み続けたことで大量の飲酒になったことと、昼間の高温下での活動で体力を消耗していること、また夜間に冷房が切れたタイミングで体温が上昇したことが原因で、脱水症状から熱中症をまねいたと考えられます。
ビールの量と同じ水を飲む。水分とミネラルが豊富なおつまみを
ビールを飲む量の上限の目安はあるのでしょうか。また、熱中症予防になる飲み方について、泉岡医師は次のように説明を続けます。
夏はとくにお酒のなかでもビールをたくさん飲みがちなので、量を減らしてください。1日の適正な量は、カロリー過多も考え合わせて500ミリリットルまでです。
対策として、ビールを飲んだ量と同じ量の水を飲むことが理想です。「そんなに水を飲めない」「水を飲むと酒がまずくなる」という患者さんは多くいらしゃいますが、命には変えられません。最低でもビールの合間に水を飲みながら、水分とミネラルが豊富なおつまみ、例えばトマトやキュウリのサラダ、ナスの浅漬け、枝まめなどを選んで食べてください。
枕元に水を置き、目が覚めると飲む
さらに泉岡医師は、日々の生活での水分補給について、こうアドバイスを加えます。
ひとり暮らしの場合、夏場に大量にお酒を飲んで、冷房や扇風機を使わずにばたんと寝てしまうのは危険です。寝る前と起床後や入浴の前後には必ず、スポーツドリンクをコップ1杯~ペットボトル500ミリリットル1本程度を飲みましょう。また、寝るときには枕元にスポーツドリンクや水を置いておき、夜中に目が覚めたときに飲むことを習慣にしてください。これらは二日酔いの予防にもなります。
また、吐き気がする、おう吐した、頭が異様に痛い、めまいがするなど異変を自覚した場合は、飲めるようなら経口補水液を少しずつ飲んでください。
さらに、残暑のころは体も気分的にも暑さに慣れただけで、実際には高温、高湿度の環境にあります。それを念頭に、日ごろから水分をとる、日ざしを避ける、冷房をつけるようにして熱中症予防を心がけてください。
昼間の野外飲みから続いての「ひとり家飲み」…。お酒に強いという自覚は、熱中症の危険と背中合わせかもしれません。アルコールは水分補給にならないことを肝に命じておきたいものです。もう9月だし大丈夫だろう、という油断もあったという経験談、また、何がどう悪かったのかの指摘とその改善法のアドバイス、ひとり暮らしの家飲み派にはとても参考になるのではないでしょうか。
(構成・文 品川 緑 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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