車も電車も(もちろん飛行機も)ないなかで、突然、徒歩で都道府県を越えて引っ越しをすることになったら——? そんな今では考えられないようなことが行われていた江戸前期。
その引っ越し(国替え)をテーマにした映画『引っ越し大名!』(犬童一心監督)が8月30日(金)に全国公開されます。
劇中で実存した人物・松平直矩(まつだいら・なおのり)を演じた及川光博さんに、本作についてお話を聞きました。直矩との共通点について聞いた前編に引き続き、後編では50歳を迎える現在のことについて伺いました。
50代、目前ですね
——美しいお殿様、直矩を演じた及川さんですが、50代を目前にして、何か健康や美容で気をつけていることはありますか?
及川光博さん(以下、及川):これがあんまり……。いよいよ気をつけなければという意識はあるのですけれども、忙しさを理由に手を抜きがちですね。でも、エステには行くようにしています。リンパが流れるように、プロにグイグイやってもらっているんですけど、これって努力と言えるのかな。
——プロの手をかりるのは大事だと思います。
及川:笑顔は常に意識していますけどね。表情筋のためにも、心のあり方のためにも。というのも、表情フィードバックという言葉がありまして。心理学の話なのですけれども、怒っている顔をしていたら怒っている気持ちになってしまう。逆も然りで、無理にでも笑っていれば楽しい気持ちになるそうです。だから、読者の皆さんにお伝えしたいのは「笑顔だよ♡」ってこと。だよ、の後にハートマークつけてください!
——はい。ハートマークとともに、及川さんの笑顔も一緒に読者にお届けしたいですね。アンチエイジングについてはどう考えますか?
及川:無理せず可能な範囲でやったらいいんじゃないかな。日常の中で楽しく取り組めるのなら素晴らしいと思います。無理ってさ、文字通り無理ですから。すごい機械を買うとか、生活費を大幅に削るほど高い化粧水じゃなくてもいい。老いていくことの良さを探すのも大事かなと思います。
RPGにハマったアラサー時代
——これまでを振り返って、ご自身が一番成長したと思ったのは?
及川:30歳前後かな。それこそ引きこもりのようにずっとゲームをしていた時期があるんですよ。家でRPGを。仕事も忙しいっていうのに、睡眠時間を削ってでも熱中していて。トータルで70時間くらいかけてクリアして、エンディングでは涙をボロボロ流した。それくらいの感動があったのですけれど、エンドロールを見終わった直後に、「で?」と思ってしまって。
——「ミッチーハ、我ニ返ッタ!」みたいな。
及川:そう。ゲームの中のキャラクターはめちゃくちゃレベルアップしたけれども、僕自身はレベルアップも何もない。そこでゲームはやめました。睡眠時間を削った分を友人との語らいや、楽しい思い出作り、お勉強に費やそうと思ったんです。
——ゲーム、ハマっちゃいますよね。
及川:どうしてあんなに夢中になっていたのかな。他人とコミュニケーションを取らなくても楽しくなってしまうと、いろいろと感覚がマヒしてしまうのだと思います。
——これから先のこと。70歳になる頃にはどうありたいと思いますか?
及川:インテリエロじじいになっていたい。例えば、石坂浩二さんのような容貌で、高田純次さんのような軽やかさを併せ持つような。素敵じゃない?
——いいですね。そういえば、直矩にもコミカルな表現が多く見られましたね。
及川:うん。カッコつけることはできるんですけれども、あえて己を軽くしていく作業は、年数を重ねた人間じゃないと……ね。
守り抜かなければならないものを守る
——仕事でもプライベートでも、重さと軽さのバランスを意識されている?
及川:そうですね。「気合いだ!ド根性だ!」って、一辺倒だとちょっと暑苦しいでしょう? それは結果で出せばいいことなので。なるべくユーモアを意識して、楽しいひと時を続けて行きたいですよね。楽しいひと時の連続は、すなわち最高の人生ですから。マグロの美味しいところを食べてうっとりしたいじゃない?
——……マグロ?
及川:ちょっといいお寿司屋さんに行ってさ。常連になってくると、ケースからじゃなくてどこからか出てくるのよ。マグロの美味しいところが。それってうっとりするよね。そのためには、まじめに働いて、お寿司屋さんに行ける経済力も必要。
——なるほど。及川さん、著書の『この宇宙にあなたは一人しかいない』でも名言を連発されています。ウートピ読者のお悩みもいくつか聞いてもいいですか?
及川:どうぞ。
——頑張りすぎて、すり減っている感じがあります。自分をすり減らさずに頑張るにはどうしたらいいと思いますか?
及川:うん。例えばダイヤモンド。原石を傷つけて削って、キラキラと輝くのだ。
——え、結局、すり減る?
及川:人生の経験として、他者とのコミュニケーションの中で悲しいことや苦しいことはどうしたってあるでしょう? それを避けようとするのは難しいと思う。でも、周りがどんなに傷ついてすり減っても、自分の核となっている部分は守り抜くと決める。その結果として輝いて見えるのではないかな。すり減らしてはいけないものは何か。まずはそれを見つけることだよね。
——及川さんの場合は、どうやってそれを見つけましたか?
及川:僕は基本的にエゴイスティックなところがありますが、一方で多くの人と関わってショービズを成立させなければならないという使命感もある。だから、できる我慢とできない我慢を分けて考えるようにしています。全部苦しみだと思ってしまうと、守るべきものさえ見えなくなってしまうから。
大人のみなさんにだけお伝えしたいこと
——産めとか働けとか、いい妻とか母とか……。女の人の人生って、全部が100点じゃないとどこか負い目を感じることもあります。
及川:それは苦しいよ。だからこその優先順位だと思うし、僕の場合は逆算するようにしています。未来はどんな自分になっていたいか。「本当にほしいものは上から3つで十分」だと考えたほうがいいと思います。100の可能性の扉がある中で、一つを選ぶということは99の可能性を捨てるわけですから。
——選択肢がありすぎて、どんな覚悟でどの扉を開けていいかわからない……。
及川:そうだね。一つの解決法としては「運命」という言葉で片付けてしまうこと。何らかの縁があって人と出会うわけだし。仕事でも恋愛関係でもそうですが、今回の人生はこういう流れだなって、逆らわず乗ってみるというのも手だと思う。これは大人の皆さんにだけお伝えしますけど、「諦める」ことも大事にしたほうがいい。多くを手に入れようとするから苦しみや憎しみが増大する。どうしても欲しいものがあるのなら、関わる全ての人間やコミューンを納得させないとね。
——そのために究極的には「愛される人」になる、と。
及川:そうなったらベストだと思います。たいていの喜びや充足感って一人じゃきっと生み出せないからね。
■作品紹介
『引っ越し大名!』
監督:犬童一心
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦 濱田岳 西村まさ彦 松重豊 及川光博 ほか
配給:松竹 クレジット:ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
公式サイト:http://hikkoshi-movie.jp
公式Twitter:@hikkoshi_movie
(取材・文:安次富陽子、撮影:大澤妹)
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情報元リンク: ウートピ
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