沖縄出身で、26歳のときのパリ留学中のトラブルをきっかけに、広報の世界に入った吉戸三貴さん(42)。美ら海水族館広報、東京のPR会社をへて起業し、PRプランナーとして活動しています。「東京で働き、沖縄で休む」というワークスタイルを見直し、今春から沖縄で、働く女性のためのPRゼミを始めました。2つの場所に、自分なりの小さな居場所をつくろうとしている女性の「現在進行形」のおはなしです。
地元でゼミを開いて気づいたこと
ジュッ。大きく「ENERGY 10秒チャージ」と書かれた銀色のパウチから、ゼリー飲料をしぼり切りました。授業開始前のルーティン。もうすぐ、私のゼミが始まります。運動は大の苦手ですが、このときばかりは2時間走り続けるアスリートのような気分です。
今年の春、地元の沖縄で、PRとブランディングを教える講座を始めました。通称「吉戸ゼミ」(と、呼んでほしくて絶賛お願い中)。県内の企業で働く20人の女性が参加してくれています。会場は、新聞社が運営するコワーキングプレイス。月に1回、平日の夜に授業をしています。
PRプランナーとして東京を拠点に活動している私が、地元でゼミを始めたいと思った理由はいくつかありますが、特に大きかったのは、長期療養をきっかけに働き方を見直したことと、沖縄でPRを学びたいという女性の声に背中を押されたことでした。
18時30分、授業スタート。この時点の出席率は7割くらい。社会人なので、遅刻、早退、欠席は自由。毎回出す課題も義務ではありません。授業中のもぐもぐタイム(これ、まだ使って大丈夫?)も、カレーやラーメンなど匂いが広がるもの以外なら何でもOKです。
最初の25分は講義形式。テーマに合わせてPRの基本を学びます。スロー再生したい……と言われる早口で進行したら、5分休憩。ふぅ~。カサカサカサッ。深呼吸と、お菓子の袋を開ける音が響き渡ります。その後も30分ずつ区切りながら、議論やグループワークを行います。
始まったばかりで、まだ2~3回しか会っていませんが、ゼミ生たちを見ていて、あることに気が付きました。それは、内側に隠し持っている(本人たちはそんなつもりないと思いますが)エネルギーのすごさ。
例えば、県内の有名企業に勤めるAさん。スーツ姿でハキハキと受け答えするさまは敏腕広報そのものです。そんな彼女の最初のスピーチが、「ノラ(野良)広報を、卒業しますっ!」でした。しっかり学び直したいという意味ですが、マイクを握りしめ声高らかに宣言する様子があまりにチャーミングで、思わず吹き出しました。
しっかり者の印象があるBさんは、言葉選びが印象的な女性。ゼミに参加してくれた理由を聞いたら、「女性限定なのに、授業の内容がまったく女性らしくなかったから」(たぶん、ほめてくれている)と、ココナッツをナタで割るようにスパッと答えてくれました。朝ドラを見て、衝動的に馬に乗りに行った(3分1080円)話も面白かった。
Cさんは一見クールなタイプ。授業中も静かなことが多いのですが、個別課題やディスカッションになると、活火山のようなパワーを発揮します。「みんな、200字は書いてね」と伝えた課題を2000字(10倍!)で提出してくれたり、誰よりも早く来てグループワークの準備をしたり。その姿はエネルギーにあふれています。
あれ。この感覚どこかで……。
記憶をたどり、女性向けの講演会や研修で講師を務めた時にも同じような印象を持ったことを思い出しました。北は岩手から南は沖縄まで、各地でお話する機会をいただいてきましたが、参加者から圧倒的な熱量を感じるのは、決まって東京以外の場所でした。講演中ずっと無表情だった方から熱烈な感想メールが届いたり、ワークで一言も発しなかった方が懇親会で泣きながら語りだしたり……。
東京と地元では「フタ」の種類が違う?
都会がクールという話ではなくて、なんていうか、「フタ」の種類が違う、みたいな感覚。
私たちは、どこかで暮らし働くとき、無意識に、その場所の様式に合わせているのだと思います。ICカードをチャージする頻度とか、職場で許されるかりゆしウェアの色や柄とか。そういうものをいくつも身に付けて仕事をしている。
ひとつひとつは小さいことでも、積み重なると、それが、気持ちの「フタ」のようになることがある気がしています。ごく個人的な感覚ですが、東京のフタには空気穴がある。守るべき共通ルールがたくさんある一方で、雑踏に紛れてすぐに匿名の誰かになれる気軽さもあって、内側にこもった熱を逃がせるんです。
でも、人間関係が密な地元では、なかなかそうはいかない。那覇に一つしかない百貨店に行けば必ず誰かに会うし、打ち合わせでは「先週の土曜日、〇〇書店で買い物してましたよね?」と言われます。つながる安心感は素晴らしいものですが、たまに、全力で油断したい! 息抜きしたい! と思ってしまうこともあります。
空気穴のない「フタ」でギュッとされていた気持ちや個性が、わずかな刺激で吹きこぼれることがある。それが、面白い発言や、ひたむきな行動として表れるのかもしれません。
吉戸ゼミにも、フタを投げる人、盛大にこぼす人、誰にも分からないくらい少し横にずらす人……いろいろなタイプがいます。彼女たちが、好きなだけ個性を発揮できるような場をつくっていけたらと願っています。
東京じゃなきゃって、思ってた。
頑張るなら、仕事をするなら、絶対にそうだと決めつけていました。でも、こぼれイクラ並みに生命力があふれている彼女たちと一緒にいると、こんなふうに思えるんです。
どこでどんなふうに働くことを選んでも、だいじょうぶ(たぶん)。
まだ、最後に(たぶん)を付けてしまうけど、カッコが取れる日もそう遠くない気がしています。
20時30分、今日のゼミはこれで終わりです。この続きは、いつかまた、別のおはなしで。
(吉戸三貴)
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情報元リンク: ウートピ
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