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男と女の間のあれこれ…#MeTooよりファミレスの空気感で伝えたい【鈴木涼美】

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恋愛、結婚、不倫、ハラスメント、フェミニズム、メンヘラ、おじさん……をテーマに、男と女の間のあれこれをつづった、鈴木涼美さんによるエッセイ『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 〜愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』(集英社)が6月に発売されました。

同書に登場するのは「女は30歳過ぎてからのほうが実は魅力的だよ?」と言ってくる年上おじさんや「大事なのは君の意思だから」と、とことん責任を回避しようとする“イマドキ”の男子など、思わず「こういう男いるよねー」とうなずきたくなる男ばかり。

と、同時にそんな男についてああだこうだと言いながらも、結局は男のことばかり考えちゃう女の矛盾もあぶり出されています。

世の中にはびこる「男の勘違い」から世の中にあふれる「正しさ」まで、鈴木さんに3回にわたってお話を伺いました。

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30代になった途端「君のこと理解してるよ」おじさんが増えた

——「よみタイ」での連載から楽しみに読んでいました。連載のきっかけは?

鈴木涼美さん(以下、鈴木):もともとは「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」っていうタイトルで連載していました。30代になった時、おじさんに「20代の子って底が浅くてあんまり面白くない、僕は30代くらいの女性が好きだな」とか「女は30代からだよ」とかそんなことを言われる機会が増えたんです。

なんか、「20代に比べて魅力はないと思われがちだけど、僕は君の魅力を理解してるよ」みたいなスタンスが透けて見えてんなぁと思って、いやいや私が20代の頃はお前ら若い子サイコーって言って口説いてきただろ! 30代ならチョロいとか思うなよ! そもそも50代の男が何で30代をちょっと婆さん扱いしてくるんだ! 納得いかないぞ! という気持ちを込めてTwitterで何気なくポロっとつぶやいた一言だったんです。

集英社の今の担当編集者さんに連載のお声掛けをいただいたとき時に、その担当さんが「あの投稿のスタンスが好き」と覚えてくださっていて、連載タイトルが決まりました。

最初は、男の人が女についていまいち分かってないとか、特に私くらいの年になると、若いってだけでちやほやされる年でもなくなるじゃないですか。そうすると、男の言動がいまいち的外れだったり、喜ばそうとしてるのが、実に失礼だったりする。そういう男の勘違いをグチっぽく書き始めたんですね。でも書いているうちに、そんなバカな男たちに振り回されて、愛したり憎んだりしてる自分たちも相当救いようがないな、という自分ツッコミにも発展していきました。

恋愛ネタが多いですけど、それ以外にも、ファッションとか美容とか、男絡みにはなるけど、30代女子の不満とか不安と喜びというか、両方詰まっています。

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フェアだからこそ “女の悪口”も…

——男の人の勘違いと同時に私たちの中にある“矛盾”もあぶり出されますよね。

鈴木:純粋に女同士で集まると、男への不満として「こういう男ってうちらすごく嫌いだけどハマっちゃうよね」とか「こういうことすると男になめられるのは分かってるけど、でもしちゃうんだよ、でもそれでなめてくる男がひどいんだよ、いやでもなめられるって分かっててやっちゃう女もバカなんだよ」って絶対出てきますよね。

——話が尽きないですよね。それこそ一晩中語れちゃう……。そういえば「よみタイ」は30代の男性が多く読んでいるサイトだそうですね。

鈴木:私と同じ年か、ちょっと上の男たち、つまり私たちがムカついたり夢中になったり愛したり憎んだりしてる対象の男性たちに、正座をして聞いてもらいたい! と思って書き始めたので、ターゲット層としてもすごく合ってましたね。今はちょっと変わって、女性の話を書いています。

——「○○○な女〜オンナはそれを我慢している」ですね。

鈴木:一昨年から昨年にかけて、「#MeToo」やパワハラ報道が日本でもはやり、世の中にはこんなクソな男がいる、という申し立ては随分しやすくなりましたよね。

私は何というか、性格は悪いけどフェアであることは大事にしているので、確かにクソ男はたくさんいる、しかし! クソ女も結構いるぜ、という思いを抱えて見ていました。

で、最近メディアでは男の悪口がずっと続いていたので、そろそろ女の悪口も言っていいんじゃないか、と思って今年からは女の悪口も言ってるんですけど(笑)。ただもちろん、女の悪口はダイレクトに自分にも向けられるので、男に対してよりさらに愛のある悪口ですけどね。

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#MeTooより女同士のおしゃべりの空気感で伝えたい

——第2章の「社会とかフェミニズムとかハラスメントとか」で鈴木さんが「あまりにも便利な言葉には多くの意味を包括しすぎる暴力性というのがあって〜」(P145)と書かれていました。

鈴木:大まかな概念としてはうなずけることであっても、この本に出てくる女の子たちと私がご飯を食べながら話してる空気感とはすごく離れてる感じがしますね。

結局、いろいろなことに不満だったり、会社員の友達なんかも含めて飲んでると、実力がない男のほうが給料が上だったり、仕事ができない新入社員の男の子が、会社を辞める可能性が低いってだけで、会社に大事にされてたりするじゃないですか。

そういう愚痴ってどこの会社や職場にもあるけれど、それって#MeToo運動をやっている人たちが持ってる空気感で伝えるというよりも、私らのおしゃべりの中で培っていった空気感で伝えたいというか、生きてたり働いていたりしているといろいろと不満はあって、でも結構楽しくて、みたいなリアルなオンナとしての意見にしか、あんまり興味が持てないんです。

女性差別が憎いとはいえ、女性差別と戦うことに人生ささげるほど苦しかったかって言うと、結構オンナって楽しいし、男になりたいなんて思わない。死ぬほど幸福な気分にしてくれる男もいるし、死ぬほど嫌いな男もいる。私もすごく男の悪口を書いてるんですけど、実体のないイメージとしての「男」を敵視して戦うだけじゃつまらないなみたいな思いはありますね。

男の人たちの嫌な部分ってあるけれど、でも私たちがハマっちゃうのも男みたいな。そういうのって「#MeToo」のような単純な対立構図だと出てこないし、もっと複雑な男女の関係みたいなものがあると思って。オンナが生きていくのは大変だから、被害者意識が強くなっちゃうのも分かるんですけどね。被害者意識に苛(さいな)まれていると、彩り豊かな人生も世界もよく見えなくなっちゃう気はする。

だから、本全体としてのスタンスとしても、「女がそういうことで喜ぶと思うなよ」って、捉え方によっては対男で“敵”なんだけど、何かもうちょっと複雑な感じが出せたらいいなっていうのは意識していました。

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世の中や男女の複雑さを大事にしたい

——誰かがこの本のことを「港区のファミレス文学」っておっしゃっていましたが、まさにそうだなって。

鈴木:そうそう、麻布十番のファミレスの話なんですよ(笑)。私たちが、仕事の後とかデートの後に集合して、デザート食べながらグダグダ話して、明日のエネルギーをチャージする場所。そういうところに流れる、マジむかつくけどデザート最高、女子トーク最高、みたいな空気。みんな結構リアルに生きてるので、生活、日常は続いていくし、「男はクソだな」と思いながらも、明日も一緒にいなきゃいけないじゃないですか。

——そうですね、#MeTooも大事だけど、まずは目の前のおじさん上司や隣の男とどう付き合っていくかを何とかしなくちゃいけない。

鈴木:理論や歴史を勉強するのは大切なことです。私自身、社会学の人文書でデビューした人間だし、そういう先人たちの研究の上でしか見えないものもあると信じています。ただ、もう少し、リアルで自分らの時間のもとにある言葉というのを探したいなとも常に思っているんです。それは、プラカードや運動のキャッチフレーズではないかな。

この世界は残酷だから、何でこんなにうまくいかないんだろう、という気持ちになることはきっと誰にでもありますよね。女でも男でも。で、ファミレスで「私がイラついてるのは男がバカなせいだ! あいつがサイテーなせいだ! ガオー」とか言ったりもしますよね(笑)。

でもそれを短絡的に「男性の意識の低さの原因で女性が不幸になっている」と文字にしてしまうと、何か違和感があります。確かにそう言ったんだけど、世の中ってもう少し複雑で、何でもかんでも「女性だから差別されてるから不利だから」という問題設定って嘘くさく感じてしまうんです。

「イライラの原因は何?」って考えると単に「男が連絡くれない」とかってこともあるじゃないですか。この不便さや不条理さの原因は何だろうって考えたときに、便利すぎるワードがあると、世の中の細部に気付かなくなる。

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——主語が大きくなっちゃうと思考停止の危うさはあるなと思います。もっと個別案件で丁寧に見ていかなければいけないのに。

鈴木:私はやっぱり、女同士が3人集まった時の真ん中にできる空気みたいな、そういうものをなるべく言語化して残したいっていうのはあったので、「誰々がこう言った、けしからん!」というよりは、そこで生まれた会話でできた空気感を切り取りたいなと思いますね。ネットニュースで情報を仕入れる人が多い世の中では、言葉尻が問題になるけど、重要なのは言葉尻ではなく、文脈や空気なんだと思うんです。

——「よみタイ」の連載で意識されているのもその部分ですか?

鈴木:そうですね、「セクハラおやじが許せない」というのを、デモでやってるのと、居酒屋でしゃべってるのと、全然ニュアンスが違うし、結構笑い話になってたりする。私にとっては、その空気感のほうが身近に感じられる。文字にしちゃうとデモで言うのもファミレスで言うのも同じなんですが、私はこの本はファミレスで言ってるほうの空気感で書いていますね。

(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)

情報元リンク: ウートピ
男と女の間のあれこれ…#MeTooよりファミレスの空気感で伝えたい【鈴木涼美】

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