数々の話題の映画・ドラマを手がけてきた脚本家・岡田恵和さんと、銀杏BOYZの峯田和伸さんが異色のタッグを組んだ青春映画『いちごの唄』。
不器用だけど優しい青年コウタはある七夕の日、中学の頃「天の川の女神」と崇めていた千日(ちか)と再会します。奇しくも七夕は、二人の同級生だった伸二の命日。その日以来、毎年七夕の日に会うことを約束する二人でしたが、ある年千日はコウタに「もう会うのは終わりにしたい」と告げ、姿を消してしまい——。
7月5日の公開を控え、コウタ役の古舘佑太郎さんと千日役の石橋静河さんに、青春を駆け抜ける二人のキャラクターと物語の魅力について伺いました。
誰の中にも眠っている、大人の中に棲む“少年”の純粋性
——お二人がお会いするのは、映画の撮影終了以来ですか?
古舘佑太郎さん(以下、古舘):試写以来です。会うとやっぱりコウタとあーちゃん*に戻っちゃいますね。*コウタが呼ぶ千日のあだ名
石橋静河さん(以下、石橋):そうですね。私はずっと“コウタくん”じゃない古舘さんが、本当はどういう人なんだろうっていうのが気になっていて……。
古舘:「どういう人間なのかわからなくて怖い」って撮影中いつも言ってましたもんね(笑)。そんなには変わらないんですけどね。もちろんコウタにはない面もたくさん持っていますけど。
石橋:私の中では、初めてお会いした衣装合わせの時から古舘さん=コウタくんだったんです。それは撮影が終わって試写で久しぶりに会った時も変わらなくて。だからこれから先どこで会っても、ずっとコウタくんと会うことになるんだなって思うとすごく面白いなって。
古舘:まったく真逆の役柄で共演したらどうなっちゃうんだろう……。
石橋:きっと吹き出しちゃう気がします(笑)。
——仲の良さが伝わってきます。お二人が演じられたコウタと千日、それぞれどんなキャラクターだと感じましたか?
古舘:コウタは捉えどころのない役でしたね。知れば知るほど底が知れないし、演じれば演じるほどわからなくなっていく。「なんでこんなにいい奴なんだよ」「どうやったらこんな風に生きられるんだ」って。
——たしかに見ている私たちもちょっと戸惑うようなキャラクターでした。あまりにもピュアというか破天荒というか。
古舘:ですよね。ただ今になって思い返してみると、男の人は誰しもコウタみたいな一面を持っているんじゃないかなって。大人になるにつれて、その面をなくしてしまう人もいれば、こっそり隠し持っている人もいる。実生活であそこまで新鮮な状態で純粋性を保存しておくのは難しいとは思いますけど……。男の人の中にいる“男の子”が持っている純粋性の塊みたいな人ですね、コウタは。
優しく柔らかい物語の中で、重みのあるヒロインを演じて
——一方、石橋さんの演じられた千日。陰と陽をあわせ持つミステリアスな女性だったように感じましたが、いかがでしょうか。
石橋:あーちゃんは、「一人の人間の形にならない」という感じがずっとしていました。こういう人です、と説明しにくいというか。本当にリアルな一人の人間というより、いろいろな体験をした人たちの思いとか心の叫びを集めて描かれているようなイメージなんです。そこがまさに岡田さんの描く人物の魅力なんですけど……。
——演じるには難しそうな役ですね。
石橋:一人のキャラクターとして小さくまとめようとすると、なかなかうまくできなくて。岡田さんのあーちゃん像に応えるためには、私の中のキャパシティとか技術が試されるような気がずっとしていましたね。
——なるほど。それぞれ、原作は読まれてから撮影に臨まれたのですか?
古舘:僕は読みました。「銀杏BOYZの名曲たちから紡がれる物語」だと知って、峯田さんの作品特有の暴力性とか青春のドロドロが描かれた男臭い作品なのかな、と最初は思って。でも読み進めてみたら、いい意味で裏切られましたね。ちょっと違った解釈の銀杏BOYZで、どちらかというと“純粋性”というチャンネルが表に出てきているな、と。
石橋:原作はあえて読みませんでした。最初に岡田さんにお会いしてお話をして、この役が決まって。いただいた脚本がすごく面白くて完成されたものだったので、原作を読んでしまうと私は混乱してしまう気がしたんです。岡田さんの脚本に書かれたことがすべてだと思って撮影に臨みました。
——古舘さんにとっては、同じミュージシャンとしてリスペクトのある銀杏BOYZの世界観を体現する作品の主演ということで、プレッシャーはなかったですか?
古舘:嬉しさ半分、プレッシャー半分でしたね。岡田さんと峯田さんの愛のこもった結晶体を、果たして僕が演じきることができるのかと。挑戦でした。でも石橋さんや共演者の方々が僕を支えてくれて。皆さんの人柄や表現力の凄さに後押しされる形で、最終的にコウタが自分のものになったのかなと感じています。試写で銀杏BOYZの新曲「いちごの唄」をBGMに、僕と共演者の皆さんの名前がエンドロールで流れてきたときには、「ああ、やってよかったな」と実感しましたね。
——石橋さんはいかがでしたか?
石橋:これまでにも、心の中に問題を抱えている人を演じることは多かったので、あーちゃんもそういう意味では近い役柄ではありました。ただ、脚本を読んで「すごく開かれているな」という感覚を覚えて……。
——開かれている。どういうことでしょうか。
石橋:脚本のベースにあるのは、キャラクターが心に抱えている苦しみとか葛藤だったりするんですけど、それとは別のテンションで物語がもっと軽快というか。峯田さんの音楽と一緒に、優しくて柔らかい空気がずっと流れていると感じたんです。だから、私が重い役柄に没頭するだけではいけないな、と。そういう意味では、私にとっても新しい挑戦だったと思います。
(構成:波多野友子、撮影:面川雄大、編集:安次富陽子)
『いちごの唄』
出演:古舘佑太郎、石橋静河
監督:菅原伸太郎
脚本:岡田惠和
原作:岡田惠和・峯田和伸(朝日新聞出版)
製作:『いちごの唄』製作委員会
配給・宣伝:ファントム・フィルム
(c)2019『いちごの唄』製作委員会
7月5日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
- 「このまま彼と結婚していいの?」私が婚約破棄を決めた理由
- 穐山監督、会社員と映画制作の両立は大変じゃないですか?
- 人に頼るのが苦手な貴女へ 私は『信用貯金』を使いました【穐山茉由】
- 「怒りに気づくのは希望」角田光代と売春宿に売られた女の子たち
- 70歳、フルタイム勤務はじめました。京都祇園で新たな挑戦をした理由
- 「女子の人間関係=モヤモヤ」はもう古い ストレスフリーな“ごきげん”生活のススメ
情報元リンク: ウートピ
「会うとコウタとあーちゃんに戻る」古舘祐太郎・石橋静河 映画『いちごの唄』で主演