口の奥に歯らしき白いものが少し見えている、急に奥歯が痛みだした……それは「親知らず」が原因かもしれません。抜くべきか、抜かなくてすむ方法はあるのか、悩む人は多いでしょう。
歯科・口腔(こうくう)外科の江上歯科(大阪市北区)の江上一郎院長によると、「痛みがないので存在すら気づかなかったという人もいらっしゃいます。ですが、埋もれている親知らずと手前の歯のすき間に食べ物が溜まり、むし歯になって痛み出すケースも多くあります」ということです。いったいどうすればいいのでしょうか。
詳しいお話を聞きました。
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歯ぐきの下の骨に埋まっているケースが多い
はじめに江上医師は、親知らずについてこう説明します。
「ヒトの歯は、上下に左右7本ずつ、合計28本生えますが、思春期以降に上下左右の一番奥に1本ずつ生えてきます。これが親知らずです。呼称は、15歳~40歳の間に生えるので、親がその歯を見ることがないから、と言われます。
歯科学での名称は、『智歯(ちし)』や、前から8番目に生える歯と言う意味で『8番』、大人の奥歯を指す『大臼歯(だいきゅうし)』のうちもっとも後ろの3番目に位置するので、『第3大臼歯』とも呼ばれます。
一般に上下左右で合計4本ありますが、近ごろでは、あごが小さくて生えるスペースが確保できずに、歯ぐきの下の骨の中に埋まっている例が多い傾向にあります。その状態を歯科では、『埋伏(まいふく)している』と言います。また、もともと1本もないケースや生えてこないなどで1~3本の場合もあります」
埋もれている場合は、「むし歯の治療時や定期検診でレントゲンを撮って発見することが多い」(江上医師)ということです。
横向きに生えてほかの歯を押し倒すことも
次に、親知らずが痛み出したときや、痛くはないけれど妙な生え方が気になる場合、どうすればいいのでしょうか。
江上医師は、「親知らずを抜いた方がいいと言われるのは、それが大きなむし歯になったとき、生える方向によって歯ぐきや歯に炎症を及ぼしているとき、あごのうずく痛みが続くときなどです」と答えます。
そこで、「抜かなくてもよいケース」、「抜いたほうがよいケース」についてそれぞれ、次のように症状を挙げてもらいました。
<抜かなくてもよいケース>
・ほかの歯と同じようにまっすぐに生えていて、むし歯や歯ぐきの炎症など、トラブルがない、また上下の歯が噛み合っている場合。8番目の歯としての役割を果たす可能性があります。
・レントゲンで見つかるケースで、あごの骨の中に埋まっていて、炎症や痛みがない場合。とくに問題はありません。
・親知らずが生える方向が歪みなどでよくなくても、矯正治療によって上下の歯の噛み合わせがうまくいく場合。
<抜いたほうがよいケース>
・親知らずがむし歯になった場合。奥まで歯磨きが難しく、治療をしても再発しやすい、また、手前の歯にむし歯が広がる可能性も高いため、治療をせずに抜くことが多くなります。
・親知らずの手前の歯がむし歯になった場合。親知らずが治療をはばむときには、親知らずを抜いて、手前の歯の治療を行います。
・親知らずが歯ぐきに埋まっている、また歯ぐきから一部出ているなどで、歯ぐきが炎症を起こしている場合。歯ぐきが腫れる、ズキズキと痛むといった症状があります。
・横向きに生えていて(水平埋伏智歯・すいへいまいふくちし)、ほかの歯とおしくらまんじゅうをしている場合。ドミノ倒しのように手前の複数の歯を押して、やがて歯並びが屏風のようにガタガタになる可能性があります。歯並びが変わり、噛み合せに支障をきたすことも多々あります。
・横向きに生えているなどの場合、周囲に風船のような袋(嚢胞・のうほう。液状の内容物が入っている病的な状態)が見られることがあります。あごの周囲が腫れぼったい感覚がある、神経を圧迫して痛むなどの症状が出てきます。これを、「濾胞性歯嚢胞」(しほうせいしのうほう)と呼び、手術をして親知らずと嚢胞を取り除くことになる例です。
・親知らずが2本、あごの骨の中に埋伏している場合。炎症、痛みに発展します。
・妊娠の予定や可能性がある場合は、妊娠中(とくに初期)に親知らずの影響で歯ぐきが腫れるなどしても、抗生物質や鎮痛剤などの薬を飲むことや、安定期に入るまで抜歯(ばっし)はできません。そのため、妊娠前に抜いておく方がよいと考えられます。
親知らずを抜くときは口腔外科の医師を探す
抜いたほうがよいケースの場合、「最初に痛みを覚えた時点で抜くのが賢明でしょう」と言う江上医師は、抜く際の歯科の選びかたについて、こうアドバイスをします。
「先に紹介した例のように、下の親知らずが歯ぐきに埋没している、横向きに生えているなどの場合、歯ぐきの下の骨を切削(せっさく)する手術になるため、一般歯科では処置が難しく、大学病院や総合病院を紹介されることが多いでしょう。
かかりつけの歯科がない場合は、歯科口腔外科の医師は親知らずの抜歯経験が多いと考えられるので、ウェブサイトなどで探してください」
親知らずを抜くときは空腹、睡眠不足はNG
また、親知らずを抜く際に気をつけたいこととして、江上医師は次の指摘をします。
「麻酔をしてから抜歯を終えるまでの所要時間は約30分~1時間ほどです。出血があり、あごや体への負担、痛みや抜歯に対する精神的なストレスを想定しておきましょう。
抜歯後、麻酔が切れるまで食事はできません。そのため、抜歯の日は、空腹や睡眠不足、風邪をひくなど体調不良にならないようにして臨みましょう。
術後は出血しないように、お酒を飲む、入浴をする、運動をするなど、血行を促す行為は禁止になります。安静にして、できるだけ早く炎症や傷口を回復させるように心がけましょう」
親知らずを抜くにあたっての治療費については、
「上の歯など軽微なケースは健康保険適用の3割負担で約2,000円、下の歯など埋伏している難しいケースは約5,000円です。またこれとは別に、初診料や再診料、レントゲンやCT撮影料、薬の処方料が必要です」と江上医師。
親知らずは何も問題がなければ抜かずにすむようですが、いったん痛みや炎症が生じると、抜くほうが、ほかの歯や歯ぐきなど、口の中の健康によいということです。いざ痛みが出たときに慌てないように、定期検診などで自分の親知らずの状態を知っておくことが重要と言えるでしょう。
(画像提供:江上歯科 取材・文 品川 緑 /ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
あごに埋まる、ドミノ倒し…親知らずは抜いたほうがいい?【歯科医に聞く】