1月29日、「八重洲ブックセンター(東京都中央区)で、『中年男ルネッサンス』(イースト・プレス)の刊行記念イベントが開催され、著者の田中俊之さん、山田ルイ53世さん、そしてゲストには小島慶子さんが登壇。「中年男のゆくえ」について語り合いました。
「中年男」というタイトルですが、そのトーク内容は現代を生きる女性たちにも知ってほしいポイントが盛りだくさん。ユーモアと笑いに包まれながらも示唆に富む発言が盛りだくさんだったイベントの一部を編集してお届けします。
私も『中年男ルネッサンス』に共感
小島慶子さん(以下、小島):『中年男ルネッサンス』、大変勉強になりました。
山田ルイ53世さん(以下、山田):ありがとうございます。実は僕今日、緊張しているんです。ここに来る前に小島さんの最新の記事を読んで、「もう“おばさんいじり”はうんざりだ」と。
小島:うんざりですね。
山田:お会いしたら、『中年男ルネッサンス』に折り目がたくさんついていたから、何か気にくわない表現があって、怒られるのではないかと……。
小島:いえいえ、共感ですよ(笑)。
山田:共感でよかった!
小島:私も、44歳くらいから、ミッドライフクライシス(中年の危機)というものを漠然と感じていて。「自分の生き方はこれでいいのだろうか」とか、いろんな不安を経験したので、わかる!と頷きながら読みました。
山田:ありがとうございます。それで、小島さんがうんざりとおっしゃっていた“おばさんいじり”とは?
小島:例えば職場に20代と40代の女性がいるとしますよね。その時に周囲の人が「ほらほら、若い子を見てお姉さまが怒ってるよ」とか、良かれと思ってるのかどうか知らないけど、からかうじゃないですか。巻き込まれた20代の女性もかわいそうだし、中年女性は若い人を見ただけで、キリキリ・ピリピリするという思い込みがもう……。うんざりだわ。
山田:たしかにそうですね。男性にも似たようなことは起こります。例えば、番組収録で、セクシー系とか、グラビアアイドルの方が来た時に、横に座られたら「うわぁ~お♡」みたいな喜びのリアクションをせざるを得ない。でも、実際は、そうでもない。盛っていることが多々ある。
小島:「どうせオヤジは若い子が好きなんだろう」というステレオタイプを演じさせられているということですよね。
山田:自分の中では、必要悪だと思っている部分もありますけどね。
おじさん接待におじさん的に応えるしんどさ
小島:田中さんはどうですか?
田中俊之さん(以下、田中):さすがに僕は研究者なので、講演の帰りに「キャバクラ用意しました!」というシチュエーションはないですね。
山田:ないんですか?
田中:ないですよ。男女共同参画の話をした流れで「キャバクラ行きましょう!」って、おかしいじゃないですか(苦笑)。男爵はありますか?
山田:ここ何年かはないですね。ただ、地方営業で、1泊するような仕事の時は、イベンターや呼んでくださった企業の方が何かしらの“おもてなし”をしようとしてくれることはあります。中にはその方々が日頃懇意にしているスナックや女性がいるお店に行こうと誘ってくださる方もいます。それは純粋に彼らの厚意だと思いますが、僕は正直「そういうのしんどいな」と思ってしまうタイプで。
小島:その気持ちは伝えられますか?
山田:はい今は。昔は付き合わないと悪いなと思っていましたが、最近は言うようにしています。「僕はそういうことが本当に面倒だと思っているので、行っても場は盛り上がらないと思います」と。
小島:無理して「おじさん接待に対しておじさん的に乗らなくちゃ」というのはしんどいですよね。
山田:ええ。ただ、年に1、2回本当に行きたいときもあります(笑)。
小島:それはどうぞ行ってください(笑)。
一廉の人物にならねばという思い込み
小島:自分で自分を縛るところもありませんか? 自らおじさん枠組みの中に入ろうとするというか。それが、「俺ももういい年齢だから、一廉(ひとかど)の人物になっているべきである」という思考に繋がっていくのでしょう?
田中:ええ。『中年男ルネッサンス』でも話しましたが、3年前に出した小島さんとの対談本(『不自由な男たち その生きづらさは、どこからくるのか』・祥伝社新書)を出した時にも話しましたよね。どちらでも、「もうそろそろ、身の丈で生きたらいいんじゃないか」という話をしています。
山田:『中年男ルネッサンス』では腕時計の話ですよね。田中先生が、高級腕時計ではなく、G-SHOCKをつけているという。
田中:ええ。今日も1万5千円の……。
山田:値段は言わなくていいです!
小島:私も「チープカシオ」ですよ。目に見えないくらい小さな粒ダイヤが入っているんだけど、8千円で……。
山田:だから、値段言わんでええって(笑)。でも、身につけるものとか持ち物に対して、なんでもいいというわけではないですよね?
小島:そうですね。けれど、今よりも30代の頃のほうが「もう大人なんだから高いものを身につけなきゃ」という思い込みが強かったです。会社を辞めた時も、会社の肩書きが外れて自由になった反面、不安もあって。それを隠すために「いい時計とかしていないとまずいんじゃないか」と。
女の人生に現れる分かれ道
田中:小島さんとの対談では、そう感じる年代に男女の違いがあるのではないかと話しているんですよね。要するに、女性は30歳を過ぎた頃に、自分の足で立って生きることを問われる場面がくるのではないかと。
小島:女性の30代って急に、人生の分岐点がいくつも現れるんですよね。それまでは、同じように学校に通って、会社に入ってと、なんとなく同じコースを歩んでいるように思える。ところが、結婚する/しない、産む/産まない、仕事復帰する/しない、子どもの学校は公立にするか私立にするか、復帰するにも正規か非正規か……。分かれ道が多くなるので隣にいる女性のことを急に意識するんです。
山田:あの人はどうしているのかなぁ、と?
小島:そう。それを見て、「自分の選んだものは正解なのかな。彼女が正解だったらどうしよう、ヤバ……」とかグルグル考えて。
山田:しんどいですね。
小島:「私はちゃんとしている。成功している。……ように見せなきゃ」という思考に陥ると、ルックスにも焦ってしまうんですよね。それでついローンを組んで、高級な服やジュエリーを買ってしまう。
田中:僕らは40代になった時に急に踏み切り台がくる感じがしますよね。急に線がきちゃったから飛ばなきゃいけないのだけれども、用意してないからバタバタバタ……と。
山田:この歳になったら、経済的な余裕も仕事のスキルもこのくらいないとマズいだろうと、漠然と思いますが、女性のように、「ここが踏切の線やで、リミットやで」と意識できていない。というそもそもの違いはあるかもしれませんね。
おじテル、入ってる。
小島:私、男の人には四十熱(しじゅうねつ)と五十熱(ごじゅうねつ)があると思っています。これは私が勝手に名付けたのですけれども。例えば、37歳くらいで、「俺は何者でもないまま40歳になっていいのか」と突然、今まで書いたことのない小説を書いてみたり、仕事を辞めてみたりするわけですよ。と、いうのは私の夫の話なのですが(苦笑)。
山田:それを見てどう思ったんですか?
小島:ある朝起きたら、机の上に書きなぐったメモがあるんですよ。どうやら小説の筋書きっぽくて、最後にキター!って感じで、「しかし!全ては夢だった!!!」と書いてあって……。
山田:まさかの夢オチ!
小島:その瞬間、「ああ、ダメだ。この人はいま熱病にかかっている……」と思いましたね。まあ、なんとか四十熱は乗り越えたのですが。でもね、周りの人たちからも似た話はありました。大きなバイクを買って転んで肋骨を折ったとか。
そうそう、オーストラリアでもありました。タクシーの運転手さんが、ニコニコ笑いながら、「僕は車が好きなんだよ」と言うんです。「でも、ミッドライフクライシスが起こって、えいや!っと特注のBMWを買っちゃったんだ。借金で大変なんだよねー。ははは」って。
山田:万国共通なんですね。
田中:小島さん、夫が会社を辞めた時に思ったことがあると話していましたね。
小島:はい。彼の場合は、「会社と家庭とその往復だけで、俺の人生が終わっていいのか」という葛藤があって、働くことから距離を置く選択をしました。私はその時、自分は話のわかる女で、その選択を受け入れることができると思っていたんです。けれど、いざ生活が始まると全然受け入れられなかった。
「男のくせに仕事を辞めた」とか、彼の髭剃りを買うにしても、「はい、買ってあげますよ」とかね。すごく、恩着せがましく、私の大嫌いだった、「誰のおかげで暮らせると思っているんだオヤジ」になっちゃったんですよ。おじさんというOSが私の中にもインストールされていたんだと気づきました。
山田:おじテル、入ってる。
小島:入ってた(苦笑)。アンインストールするのに3、4年かかりましたね。
山田:データ重いな!
小島:そう。だから『中年男ルネッサンス』を読むとわかるのですが、男性たちに男性的であれと強いるOSの罪深さみたいなのは、身のうちにもあるし、自分が女性の立場でそれを男性にやったこともあるから……。
山田:男性に限らず、女性にもこういうスピリットはあるんだという。
小島:ええ。最近はもう共働きですから。女の人にもそろそろ、キャリアや会社での立ち位置など、これまでの男性と同じ悩みがあるのではないかと思います。
(構成:ウートピ編集部 安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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