ベルギーで創業100年の歴史を誇る、老舗のショコラティエ「Mary(マリー)」が今年2月、「Madame Delluc(マダム ドリュック)」として京都祇園に日本第1号店をオープンしました。その店長を務めるのは、70歳の岡本和子(おかもと・かずこ)さんです。開店前から閉店までフルタイムで働いています。
“家事手伝い”を経て専業主婦になった岡本さんは、就職した経験はなかったものの、PTAの役員になった時に「もしかしたら、私、外で働けるかも?」と思ったそうです。
岡本さんに、マダム ドリュックの店長になるまでの道のりを聞きました。
きっかけは「頼まれた」から
——マリーといえば、「死ぬまでに行きたい1000の場所」(N.Y.タイムズ)や、「世界で幸せになれる場所15」(CNN)にも選ばれるなど、世界中に注目されるチョコレートブランドです。その第1号店の店長を任された経緯とは?
岡本和子さん(以下、岡本):これまで15年ほど友人のチョコレートショップのお手伝いをしていたのですけれど、昨年の3月に東京で会社を経営している甥から「京都でチョコレートショップを出店したいので力を貸してほしい」と頼まれまして。
その時は、チョコレートショップを出すという以外は何も決まっていなかったので、「それならば一度本場のベルギーチョコレートを見てみよう」と、彼と私と彼の会社の社員の数人でベルギーへ行きました。そこで「ここだ」と全員の意見が一致したのがマリーでした。
——その時に初めてマリーを知ったのですか?
岡本:いいえ。マリーの存在はもちろん以前から知っていました。けれど、本店に入ったときの空気が……なんというか「あ、ここしかないな」と感じて。私もみんなも同じ気持ちだったような気がします。そこから、甥の会社が窓口となり、日本へ出店する交渉をはじめました。
——マリーと契約ができるという確証とか、何かツテはあったのですか?
岡本:いいえ。正面から扉をノックしただけです。けれど、運も味方してくれたように思いますね。マリーでも100周年を目前にして、より世界的に展開したいと思っていたらしく、日本もその候補に入っていたのです。交渉も進み、話が現実的になるにつれ、正直、私に店長なんてできるのかなという不安はありました。けれど、甥が私を頼ってくれたので、できることがあるなら助けてあげたいと思うようになり「やるしかない」と決めました。昔から、頼まれると断れない性格なんです(笑)。
PTA役員を経験して「私もきっと働ける」と思った
——岡本さんは、ずっと専業主婦で子育てにひと段落ついてから「何か新しいことを始めたい」と思われて、友人のお店のお手伝いを始めたそうですね。
岡本:はい。でも実は、その前に銀行のパートもしていました。パートで働こうと思ったきっかけは、PTAの役員に選ばれたことなのですが……。
——PTAの役員ですか?
岡本:そう。それまでは短大の卒業後に実家で“家事見習い”をしていて、結婚してからはずっと専業主婦をしていました。PTA役員に選ばれたのは、長男が小学生のときです。
PTAの仕事は、会長が男性で彼は平日のお昼は仕事があるから、細々としたことを副会長以下、役員でこなすことになっていて。この用事がかなり多かったんです。
子どもたちが学校に行っている間限定ですけれども、毎日のように家を空けていましたね。スケジュールを調整したり、約束を取り付けて訪問したり、毎日バタバタ。「こんなに大変なら、私にも何かお仕事ができそうだわ」と思ったんです。
——確かに仕事みたいです。もともと働きたいという気持ちは持っていたのですか?
岡本:いいえ、全然ありませんでした。結婚したのは28歳でしたが、それまでは実家暮らし。結婚後は、わりと早くに出産をしたので、就職の経験はなくずっと子育てをしてきました。それが普通だと思っていたので、外で働くなんて考えもしませんでした。
——そこから銀行のパートをはじめたのはどのようなきっかけで?
岡本:44歳か5歳のときに、近所に住む友人が「銀行のパートで、短い時間で働けるよ。月に13日でいいのよ」と紹介してくれたんです。PTAの仕事で外で働くという選択肢もあるかもなと思っていたので、やってみることにしました。
義理の父母と家庭優先と約束をして
——ご家族の反対はありませんでしたか?
岡本:夫も子どもたちも「好きにしたらいい」という感じでした。夫の両親と同居していたのですが、義父母はちょっと「えっ?」と思ったみたい。けれど、家事と子どもたちには影響がないということを説明して理解してもらいました。
——理解してもらう、なんですね。
岡本:家庭優先のお家だったので。一生懸命主婦業をしていましたよ。家事をちゃんとして、子どもの塾の送り迎えもして。息子たちにとっては結構厳しいお母さんをしていました。
——お仕事はいかがでしたか?
岡本:10時から15時までロビーでご案内をする係をしていました。最初は緊張しましたけど、楽しく働いていましたね。人とお話しすることが嫌いではないので、短い時間ではありましたがみなさんにかわいがってもらってありがたかったです。働いてみて、主婦業って仕事をするより大変かもしれないと思うこともありました。
——例えば?
岡本:主婦って家にいるだけのことでしょうと言われがちなのですが、家のこと、子どものこと、ご近所づきあいのこと……。結構広い視野が必要だったんだなと外に出て気づいたんです。仕事のことは働いている時間だけ集中していればいいけれど、家庭のことってあまり境目がないじゃないですか。子どものことや家族のことで悩みはじめたら際限がないというか(苦笑)。
——確かに。パートで働いてみて、世界が広がると同時に、自分が今までやってきたことに対して自信が持てたんですね。
岡本:ええ。専業主婦をしている人たちはもっと自信を持っていいと思いますね。
【店舗情報】
Madame Delluc 京都祇園店
場所:京都府京都市東山区上弁天町435-1
電話番号:075-531-2755
営業時間:10:00~19:00
定休日:不定休
公式サイト:http://madamedelluc.jp/
(取材・写真:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
70歳ではじめたフルタイム勤務。きっかけは「頼まれて」