どうしてその仕事を選んだのだろう……。ときどき、すごく聞いてみたくなる人と出会いませんか?
異業種へ大胆な転職をした人とか、前例の少ないことに挑んでいる人とか。いわゆる“女の園”みたいな場所で働く男性とか。
今回、ウートピ編集部が会いに行ったのは、34歳でホテル業界から航空会社ジェットスター・ジャパンに客室乗務員として転職した庭本太郎さん(41)です。
女性の職種というイメージが強い客室乗務員になろうと思ったのはどうして? 大胆な転身にかける思いを聞きました。前後編にわたってお届けします。
「男性も大歓迎」に背中を押された気がした
——客室乗務員になる前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
庭本太郎さん(以下、庭本):まず新卒でアパレルのラグジュアリーブランドに就職し、接客や販売をしていました。その後は別ブランドへの転職を経て、ホテルに就職。引き続き接客業務に従事しました。ジェットスター・ジャパンには就航する少し前の2012年に入社しました。34歳のときでした。
——新卒で客室乗務員の試験を受けるという選択肢はなかった?
庭本:そうですね。客室乗務員になりたいという思いは持っていたのですが、情報が少なくて。男性である自分には無理だろうと諦めて、アパレル業界に進みました。けれど、ジェットスター・ジャパンがスタートする少し前、池袋を歩いていたら採用も兼ねたイベントが行われていて……。パンフレットを手渡されたときに採用試験を受けようと決めました。
——ジェットスターに呼ばれている気がした?
庭本:そうかもしれません(笑)。受け取るときに、「男性も応募をお待ちしています」と言ってもらえて。「自分にもチャンスがあるんだ」と目の前の可能性が開いた気がしたんです。
——追い風が吹いている感じがしますね。
庭本:けれど、いざ採用試験の会場に行くと、60人の応募者のうち、男性は私を含めてたったの2人。追い風どころか、向かい風に圧倒されたことをよく覚えています。
——割合にして約3%。心が折れそうな比率ですね。
庭本:試験自体は笑顔も飛び交うような和やかな雰囲気だったのですが、「やっぱり男だから落とされるかもしれない」という不安が頭から離れず、なかなか緊張がとけませんでした。
でも、最終面談のときに女性面接官が「男性からのご応募、うれしいです。ありがとうございます」と言ってくださって。ジェットスターは本当に男性も受け入れてくれるのだと、うれしく思いました。
また、ジェットスターではキャビンアテンダント(客室乗務員)のことを「キャビンクルー」と呼ぶのですが、男女が平等であるというメッセージがその呼び名にも込められているのかなと感じましたね。
学生時代、海外の男性クルーに憧れて
——キャビンクルーはジェットスター独自の呼び名なのですね。そもそも、なぜ客室乗務員になりたいと思ったのですか?
庭本:学生時代にアメリカの航空会社を利用したとき、複数の男性客室乗務員が乗っていたのを見て、素敵だなと思ったからです。はじめは「男性が客室乗務員?」と驚きました。けれど、みなさんがとてもスマートに、かつホスピタリティーのあるサービスを提供しているのを見て、素直に「かっこいいな」と感じました。私も彼らのようになりたいと思ったんです。
——学生時代からの憧れの職業だったんですね。
庭本:はい。でも、先ほども言いましたが、新卒での就活では性別を理由にと諦めてしまいました。当時は今よりもさらに「客室乗務員=女性の仕事」という印象が強くて、自分には無理だろうと。
そんななかで出会ったチャンスだったので、「できるかな」よりも「入りたい」と、思い切ってチャレンジすることにしました。「空を飛びたい」という気持ちが勝りました。
34歳で転職、またこんなに勉強するとは
——念願の客室乗務員として働き始めて、苦労したことはありましたか?
庭本:はい。最初の難関は入社直後の研修でした。ジェットスター・ジャパンでは、まずは1ヶ月間、みっちりグランドスクール(地上訓練)をします。緊急時の対応からお客様との接し方、身だしなみ……乗務に必要なさまざまな知識を徹底的に学ぶのです。
さらに、項目ごとに厳しいテストがあり、合格できないと次の講習に進めない。落ちたらその場で帰るしかない、という緊張感もありました。「何年ぶりにこんなに勉強したかな」と思うくらい、必死な日々を過ごしました。
「社会人としてある程度キャリアを積んできた自負」と「新人としてスタートすること」の葛藤もありましたね。
——「これくらいできて当たり前」と「こんなこともできないのか」のジレンマですね。未経験の業界に飛び込んだ大きなキャリアチェンジですもんね。
庭本:でも、決してゼロからのスタートではなかったと思います。もちろん、航空業界のことは知らないことだらけでした。けれども、職業は変わっても、お客様と接することはずっと続けてきました。
ラグジュアリーブランドとホテルで培った接客スキルや相手のリクエストを察する力は今の仕事でも活きていて、自分の強みだと思っています。
性別はひとつの特徴に過ぎなかった
——「好きなこと」を大切にしてきたから、今があるんですね。これから女性の職場といわれる環境に飛び込もうとしている男性、もしくはその逆の状況にある女性に何か言葉をかけるなら?
庭本:挑戦をする時に、不安なことがあると諦めたくなりますよね。私も一度は性別を理由に採用試験を受けることさえ諦めました。けれど、勇気を出して飛び込んでしまえば、不安は思い込みに過ぎなかったと気づくかもしれません。
私の場合は、男性であり、34歳という年齢でも転職できました。そのことが今は自信になっている部分があるので、性別や年齢で諦めるのではなく、やりたいことがあるのなら諦めずにチャレンジしてほしいです。私はキャビンクルーとして7年目になりますが、今も仕事が楽しいです。
また、社会や世間の空気も少しずつ変わってきているように感じます。私はメディアなどで「まだ珍しい男性客室乗務員」として紹介していただくことがあるのですが……。
——本当は「紅一点」「黒一点」みたいなフックがなくなるのが社会の理想ですよね……この企画も「どうして男性が?」なので、なんかすみません。
庭本:いえいえ。その記事を読んで、キャビンクルーになってくれた男性の後輩もいるんですよ。ちょっと大きなことを言うと、日本の航空業界を変えていくために、客室乗務員を目指す男性を増やしたいというのが私の目標。なので、彼らにいい影響を与えることができるよう頑張ります。
後編は8月23日(金)公開予定です。
(聞き手:安次富陽子、撮影:面川雄大)
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情報元リンク: ウートピ
34歳で僕がジェットスターのキャビンクルーに転身した理由