寒い屋外に出たときに、鼻水やくしゃみが出て止まらないことがあります。耳鼻咽喉科専門医でとおやま耳鼻咽喉科(大阪市都島区)の遠山祐司院長に尋ねると、「気温の差が激しいと、急に鼻水が出る、くしゃみを連発することがあるでしょう。アレルギー性鼻炎か花粉症か、それとも風邪なのかと、どきっとするかもしれませんが、そのどれでもなく、『寒暖差アレルギー』と呼ぶ症状も考えられます」とのことです。
その理由やセルフケアの方法を聞いてみました。
気温の差が大きいと風邪のような症状が現れる
遠山医師はまず、「寒暖差アレルギー」とはどういったことなのかについて、次のように説明をします。
「寒暖差アレルギーとは文字通り、気温の差が原因となって、鼻水やくしゃみ、鼻づまり、咳(せき)、頭痛、じんましんなど、アレルギー性鼻炎や花粉症、風邪と同じような症状が現れる現象を言います。ホコリやダニ、花粉などアレルギーのもととなるアレルゲンが原因ではないので、医学的には『血管運動性鼻炎』と呼びます。
これらの症状は、暖房のきいた室内から気温の低い屋外へ移動したとき、暖かい布団から寒い部屋に出た直後などに現れます。また、寒い場所から暖かいところへ移ったときや、夏に暑い屋外から冷房がきいた涼しい場所に入ったときも同じように起こります」
自律神経のバランスが乱れて鼻水、くしゃみが出る
どれも思いあたります。なぜ、寒暖差でアレルギーや風邪のような症状が現れるのでしょうか。遠山医師はこう説明を続けます。
「気温の変化によって自律神経のバランスが乱れることが原因と考えられています。自律神経には、心身の活動が活発なときに優位に働く『交感神経』と、安静時に働く『副交感神経』があります。この2つのバランスが保たれていると、生理的機能をはじめ、健康の状態は安定的に維持されます。
環境が急に変化した場合、緊張して交感神経が優位になります。そうすると、血管は収縮して心拍数や血圧、体温が上がり、鼻水やくしゃみを抑えます。一方、リラックスしているときは副交感神経が優位になり、血管は拡張して鼻水の分泌を促します。
激しい寒暖差を感じると、この2つの神経のバランスが乱れて、鼻の粘膜の血管の動きがコントロールできなくなり、鼻水やくしゃみが出るようになります。
自律神経は、気温の差が5~6度までだと適応できると言われますが、それを超えると負荷が大きくなって寒暖差アレルギーの症状が現れるというわけです」
寒暖差アレルギーは女性に多い
ちょっとした外出時でもくしゃみや鼻水がひどいことがありますが、症状は続くのでしょうか。遠山医師はこう伝えます。
「寒暖差が激しい場所に出て、1・2時間してその気温に心身が順応すると症状が治まることがあります。一方、悪化すると長引き、倦怠感や眠気、不眠、食欲不振、イライラ、憂うつ感などを伴う場合もあるので、順応しているかどうかを見つめましょう。
寒暖差アレルギーは、とくに、花粉症やダニなどにアレルギーがある人に多い傾向にあります。また、女性は男性より症状が大きく現れやすいことが知られています。当クリニックの患者さんでも、8割が女性です」
それは驚きの数字です。なぜ女性の方が多いのでしょうか。
「女性は男性に比べて筋肉の量が少ないため、体が冷えやすく、体温が低いからと考えられます。また、自律神経のバランスが乱れやすいこともあります」と遠山医師。
暖房の設定温度は20度、体を温めてマスクをする
寒暖差アレルギーのメカニズムや特徴がわかったところで、次に、その症状である鼻水やくしゃみ、鼻づまりに対処する方法を遠山医師に教えてもらいましょう。
(1)エアコンの設定温度の調節をする
環境省では、暖房での室内温度の設定は20度、冷房では28度が適切な目安であると推奨しています。これはあくまで参考ですが、屋外に出たときに気温の変化による刺激を受けにくくするために、暖かすぎる室内温度は避けましょう。
(2)症状がひどいときは屋内に戻る
鼻水やくしゃみ、鼻づまり以外に、倦怠感や頭痛などの症状があるときは、無理をせずに元いた場所に戻りましょう。寒暖差を避けるようにしてください。
(3)マスクを着用する
暖かい部屋から気温の低い屋外に出るときには、マスクを着用してください。急に冷たい空気が鼻に入ってくるのを抑えることができます。また、マスクの中が自分の呼気で温度と湿度が高くなるので、冷気による鼻の粘膜への刺激も抑えます。
(4)手袋やハンカチで鼻と口を覆う
マスクがないときは、屋外に出たときの応急処置として、手袋やハンカチでそっと鼻と口を覆ってみてください。マスクの働きと同じように、呼気が温まり、冷気が急に鼻から入ることを抑えることができるでしょう。
(5)体を温める
体温が低下すると、寒暖差アレルギーが出やすくなります。日ごろから体を冷やさないように、外出時はコートやマフラー、手袋を着用する、カイロを貼る、レッグウオーマーやタイツを履くなどしておきましょう。とくに、首、手首、足首は皮膚が薄く、太い血管が通っているので気温の変化に敏感です。これらの部位は常に温めておきましょう。
(6)体を動かす
屋外で寒いと感じたら、速足で歩く、ウォーキングやストレッチを行うなどして体を動かしましょう。寒さでこわばり気味の体の緊張がほぐれ、自律神経のバランスを整えて血管の拡張と収縮を正常にすることにつながります。
普段から通勤時や休み時間に歩く、デスクワーク中なら背伸びや肩、腰、手足を動かすなどを試みてください。
(7)睡眠、食事、ストレスを見直す
睡眠不足や栄養のバランスが偏った食事、ストレスは自律神経のバランスを乱す原因となります。寒暖差アレルギーがひどいなと感じたときは、それらの状態を見直し、質と量とも適切な睡眠や食事、ストレスをためない生活を心がけましょう。自律神経のバランスが整ってきます。
さらに遠山医師は、風邪と寒暖差アレルギーの見分け方について、こうアドバイスを加えます。
「風邪なのか寒暖差アレルギーなのかがわからない場合は、鼻水の状態をチェックしてください。風邪の場合の鼻水は、最初は透明でサラサラとしていますが、約1週間後には黄色くドロドロとした状態に変わっていき、しばらくすると止まります。
寒暖差アレルギーの場合は、アレルギー性鼻炎と同じような透明でサラサラとした鼻水が出ます。先ほど紹介した方法での対処を継続すると改善が望めるでしょう。
しかし、寒暖差アレルギーの症状が継続して3日以上ある場合や、咳や痰(たん)、頭痛を伴う、目の奥が痛いなど違和感がある場合は、アレルギー性鼻炎、花粉症、風邪、副鼻腔(びくう)炎(ちくのう症)、または何らかの病気である可能性が考えられるので、耳鼻咽喉科や内科を受診してください」
あの急な鼻水ズルズルやくしゃみ、鼻づまりの原因は、風邪やアレルギーかもと思い込んでいましたが、寒暖差による自律神経のバランスの乱れで起きるということです。対策として、エアコンの設定温度やマスク・手袋の着用、軽い運動など、すぐにできることが多いので、普段から体を冷やさないように実践しておきたいものです。
(取材・文 藤原 椋/ ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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