9月10日(金)に全国公開された、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(堀江貴大監督)。「不倫」を題材に、黒木華さんと柄本佑さんが結婚5年目の漫画家夫婦を演じます。
夫・俊夫(柄本さん)の不倫を見抜いた佐和子(黒木さん)の、驚きの行動と展開に目が離せない本作。佐和子を演じた黒木華さんにお話を伺いました。
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本当か嘘かわからないところが面白い
——「復讐」なのか「愛」なのか、佐和子の行動にずっと振り回されました。現実と佐和子が描く漫画の世界が行き来するのが特徴的ですが、台本を読んだときの感想はいかがでしたか?
黒木華さん(以下、黒木):ストーリーも、登場人物も魅力的で面白い作品だなと思いました。不倫が題材になっていますが、エンターテインメントとして楽しめる作品だと思ったのが最初の感想です。どんな映像になるか、あまりイメージできていませんでしたが、そこは撮影してからの楽しみだなと思って撮影に臨みました。
——リアルな佐和子と漫画のキャラクターとしての佐和子の演じ分けは、何か意識されていましたか?
黒木:いえ、区別することなく一人の「佐和子」という人間として演じました。現実に起こったことなのか佐和子が描く漫画の中の出来事なのか、わかりにくいほど面白くなると思いましたので。新谷さん(金子大地さん)といる時は感情を出したり、衣装もスカートをはいたり、揺れるピアスをつけたりと変化をつけましたが、別人というよりは、それも佐和子の持つ一面だと思って演じました。
佐和子にアクセルを踏む勇気を与えたもの
——漫画家夫婦ではありますが、俊夫は長いこと漫画を描けずにいるので、佐和子が一家の大黒柱的存在です。でも、免許を持っていない佐和子は「夫が運転する車の助手席に乗る」しかできないわけで。免許を取ることに、自由や自立を求める気持ちも感じました。
黒木:そうだと思います。何かからの解放だったり、成長だったり。今まで家庭という小さいコミュニティーの中で過ごしてきた佐和子が、教習所に通いはじめてその世界を広げていく。小さな世界からの解放という部分もあるのではないかと感じました。
——最初はアクセルすら踏めなかったのに……。そんな佐和子にアクセルを踏む勇気を与えたものはなんだったと思いますか?
黒木:新谷さんの存在が大きいと思います。彼が理解者になり、背中を押してくれた。もちろん、自分自身でアクセルを踏まなきゃという気持ちや、何かから抜け出そうとあがく気持ちもあったと思います。そんな気持ちを抱えて踏み出せないでいる中で新谷さんという理解者がいてくれる。それは佐和子にとって心強いことだったと思います。
共感はできないけれど、理解はできる
——俊夫の不倫相手の千佳(奈緒さん)は、佐和子の担当編集者です。千佳の遠慮のない姿勢というか、仕事も好きな男性もただ欲しいものは手に入れたい!というパワーに圧倒されました。どこか爽快さすら感じる不倫相手でしたね。
黒木:千佳って、すごく気持ちのいい役ですよね。佐和子と俊夫さんを引っ掻きまわして……夫婦が壊れる原因を作った人物ですが、あっけらかんとした明るさがあって。あの明るさは逆に怖い部分だと思います。佐和子が千佳さんをどう思っていたかはあまり描かれていませんが、編集者としての実力を認めている部分と、夫を奪われたという部分が半分ずつだったのではないかなと思っています。
——作品に対して、共感できる部分はありましたか?
黒木:共感できる部分と、共感できない部分の半々ですね。私は結婚していないので、同じ仕事をしているパートナーを仕事相手に取られるという状況がよくわかりませんが、そんな近いところで揉め事の種を撒くなんて、私にはちょっと考えられないことです。面倒なことになるのは明らかなのに。
——たしかに。
黒木:でも、魅力的な男性が目の前にいたら、仕事とは関係なく仲良くなりたいと思ったり、その延長線上で一線を超えてしまっても、仕方ないのかな……という千佳さん側の気持ちも理解できます。なので、半々です。
私ならできないけれど…
——佐和子のような復讐のやり方はどう思いますか?
黒木:面倒臭いですよね(苦笑)。私は、自分の労力を使いたくないです。でも、いざ起こったら、自分がどうなるか想像できないです。ただ、佐和子には俊夫さんにもう一度漫画を描いてほしいという愛情もある。だからあんなに手のかかることができたのかなと思います。
——俊夫との空気感もいいですよね。
黒木:柄本さんとがっつり一緒にお芝居をするのは初めてでしたが、改めて素敵な役者さんだと思いました。どの役を演じても観る人を納得させられる役者さんですし、今作もそうだと思います。撮影中は、私が少し間を変えてもそれに合わせてどんどん芝居を変化させてくださるので、それが本当に楽しくて充実した撮影になりました。そんな柄本さんとだからこそ、あの夫婦の雰囲気が出せたと思います。
忙しさの中で感じていた葛藤
——新谷さんを演じた金子大地さんの印象はいかがでしたか?
黒木:いろいろな作品に出続けている方なので勢いを感じました。フレッシュで、お芝居に対して実直で、こちらも新鮮な気持ちでいられましたね。
——黒木さんは役者デビューしてから11年目です。異業種ですが、私もキャリアでは同じくらいの年数で。このごろ、停滞している気持ちになることがあって……。新しい挑戦が足りていないんじゃないか、とか。黒木さんにも何か中堅と言われる段階に入って感じる悩みはありますか? 差し支えなければ伺いたいです。
黒木:新鮮なものを出せているか、監督や皆さんが求めるものをちゃんと提供できているか……という自己点検の感覚は常に持つようにしています。20代後半でいろいろなお仕事をさせてもらえる機会が増え、忙しくなった時期がありました。その時は、おざなりでやっつけで仕事をしていないかという悩みがありました。
——全力を尽くしたい自分と、準備が不十分でも限られた時間の中で打ち返さなきゃいけない葛藤はありますよね。
黒木:中途半端なものは提供できないので、常にその時にできる100点満点を出せるようにしたいと思っています。でも、結果として100点ではないこともあるので、そういう時は悩みます。
——気持ちにどう折り合いをつけますか?
黒木:そうなってしまった時は、次回どうするか考えるしかできないですね。その積み重ねが大事なのかなと思います。
エンタメの力を信じたい
——コロナ禍で、いろんなことが変わりました。黒木さんも、お仕事に対する向き合い方に変化はありましたか?
黒木:改めてお仕事があることがありがたいと思ったのと、この仕事が好きだなと実感しました。パンデミック直後は、スケジュールが空白になったりと、このまま仕事ができなくなったら私はどうしていけばいいのだろうと大きな不安を感じました。
——さぞ不安だったと思います。
黒木:はい。けれど、徐々に状況が戻ってきて。今作も昨年撮影したので、この大変な時代の中でも、作品を作ることができ、観てくださる人がいる。そのことにとても感謝した作品になりました。
今、楽しむことに対してどこか罪悪感を抱いてしまう雰囲気もありますが、エンタメ作品は観る人にとって息抜きや癒しになると思うんです。私自身、映画や舞台に救われてきたのでエンターテインメントの力を信じたい。そのための一つのパーツに私がなれていたらいいなと思います。
■作品情報
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
9月10日(金)より新宿ピカデリー他全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
(スタイリスト:申谷弘美、ヘアメイク:新井克英)
(取材・文:安次富陽子、撮影:西田優太)
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情報元リンク: ウートピ
黒木華、俳優生活11年目の今思うこと。映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』インタビュー