仕事の疲れを癒そうと、週末に1泊の温泉旅行に行くことがよくあります。ところが、疲労医学の第一人者でベストセラー『すべての疲労は脳が原因』(集英社)シリーズの著者の梶本修身医師によると、「ドタバタと1・2泊の旅行に出かけることは、実は日ごろの疲れを増幅するだけです。とくに温泉ではヒートショックやそれに近い症状も起こりやすい」とのことです。詳しいお話を聞いてみました。
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移動、暴飲暴食、温泉、観光で自律神経に強い負担がかかる
そう言えば、旅から帰るといつも疲れがどっと出ます。はじめに梶本医師は、疲労の正体について、「自律神経のバランスが乱れることにあります。仕事でも運動でも旅でも同じことで、もっとも疲れているのは自律神経の中枢(ちゅうすう)がある脳です」と説明をします。
次に、週末の短い旅行で疲れる具体的な理由について、梶本医師はこう指摘をします。
「まず、旅先までの移動で疲れます。長距離ドライブでは渋滞にイライラしながら緊張していること、また目から入る情報量が膨大になるため、自律神経に大きな負荷がかかります。自分で運転をしなくても、狭い車中や飛行機、列車で長時間じっとすることは、血流を悪化させて体内の水分量が低下するなどで、同じように疲れます。
また、宿に着いたら、館内や周辺の散策に出かけるでしょう。あれは実は、今夜の自分の寝床が安全かどうかを確認する行為です。つまり、知らない場所では本能的に危険を感じていて、疲労を募らせているのです。
さらに、おなかいっぱいに食べる、お酒をたくさん飲む、買いものをする、観光地を歩き回る、温泉にくり返し入るなどして興奮が続くため、自律神経への負荷は高まるばかりです」
旅先ではとくに1泊目は寝つきが悪くなりますが、それについても、「未知の場所での興奮や刺激の影響と、危険性を察知しているからです」と梶本医師。
温泉でめまいや吐き気などのプチヒートショックに
ここで梶本医師は、温泉旅行での疲れの要因として、「とくに温泉でのヒートショック」を挙げます。
「ヒートショックとは、暖かい場所から寒い場所への移動による温度の急な変化で、血圧や心拍が大きく変動して体がダメージを受けることを言います。重症の場合は、心臓発作、不整脈、脳卒中、失神、またそれらが原因となって風呂で溺れるなどで死に至ることもあります。
重症でなくても、入浴中や湯上り後に、めまい、吐き気、おう吐、頭痛、寒気、倦怠感、胃痛、下痢などを経験したことがある人は多いでしょう。『湯あたり』『湯疲れ』という表現がありますが、これらは、プチヒートショックとも呼べる症状です」
筆者の知人に、「満腹に食べた直後に露天風呂で気を失いかけた」、「露天風呂で吐いて、その夜の胃痛はひどかった」という人が複数います。誰にでも起こりうることでしょう。
「旅先では、食べすぎ飲みすぎで胃腸が疲れていること、また、食後は血圧が下がるので、食後すぐの入浴は危険性が高いことを覚えておいてください」と梶本医師。
露天風呂では、血圧、心拍が激しく変動する
温泉でプチヒートショックが起こりやすい理由について、梶本医師は次のように解説をします。
「温泉では普段より熱いお湯で、普段より長い時間、1日に数回入ることがあるでしょう。とくに露天風呂の湯の温度は、外気で冷めやすいために高温に設定されています。源泉かけ流しの湯も、高温であることが多いでしょう。
まず、暖房が効いた脱衣所から寒い屋外に出る際には体の表面温度が急降下し、血管が収縮して血圧は一気に上昇します。そこで熱いお湯に飛び込むと、今度は血管が拡張して血圧は急激に下がります。この変動のショックが危険なのです」
たしかに冬はもちろん、春でも寒い地域の温泉に出向くと、予想外の寒さに驚くことがあります。
「入浴中は、血圧や体温、心拍などを調節する自律神経に負担がかかっていることをイメージしてください。リラックスしていると思い込んでいるだけで、かえって脳疲労は蓄積しています」と梶本医師。
高温湯・長湯・全身浴・サウナ・何回も入浴はNG
では、温泉でのプチヒートショックや疲労はどのようにして回避すればよいのでしょうか。梶本医師に気を付けるべき点を教えてもらいました。
(1)熱いお湯に入らない
高温の湯につかるときと上がるときに、血圧と体温の変動幅が急激に大きくなり、自律神経の負担が非常に高くなります。42度以上の湯につかることは避けましょう。
(2)長時間、お湯につからない
長時間の入浴は、血圧が急降下しやすくて心臓に負担がかかります。立ち上がったときに、めまいやふらつきを引き起こす原因となります。お湯につかるのは、肩までなら38度~40度のお湯に5分程度まで、半身浴なら10分程度までとしましょう。
(3)何回も入浴をしない
1日に何回も入浴をすると、血圧の変動をくり返してプチヒートショックを起こしやすく、疲労は蓄積します。入浴は1日に2回までにしましょう。
(4)半身浴をする
我々の実験や研究で、全身浴よりも半身浴のほうが疲労の度合いが少ないことが分かっています。肩までつかると心臓に負担がかかるため、みぞおちまでの半身浴がよいでしょう。
(5)サウナは避ける
大量の汗をかいて水風呂に入ることをくり返すサウナは、脳にとっては、過激な運動を続けているのと同じです。(1)と同様に、疲労度は非常に高くなります。
最後に梶本医師は、リフレッシュのために温泉旅行に出かけるコツについて、こうアドバイスをします。
「まず、旅とは疲れる行為ですから、疲労を回復したいときは家で寝ているほうがよいということを伝えておきます。そのうえで、旅に出るならばスケジュールに余裕を持たせて、睡眠時間を8時間はキープしてください。できれば3泊以上で出かけましょう。1・2泊ならばできるだけ近場に設定し、刺激が強いレジャーや観光地を歩き回ること、食べすぎ飲みすぎは避けて、休息しながら自律神経を休ませる時間を持ちましょう」
これまで心身の癒しのためにと、忙しくても週末に時間をつくって温泉旅行に出かけていました。しかしそれは、わざわざ疲れることをしていたのだと気づきました。次は日程や行き先を見直し、旅先では温泉の入り方を改めて、少しでも疲れを回避するように無理のない旅行をプランしたいものです。
(取材・文 藤原 椋 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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