家族やカップルのかたちはさまざま。選択的夫婦別姓導入に関する議論もあり、事実婚にも注目が集まっています。
婚姻届を提出するいわゆる「法律婚」と「事実婚」の違いは? それぞれのメリットとデメリットは?
そこで、銀座さいとう法律事務所(東京都中央区)の齋藤健博(さいとう・たけひろ)弁護士にお話を伺いました。前後編。
事実婚のパートナーの車は私のもの?
——前回は法律婚と事実婚の違いについて伺いました。パートナーと離婚ではなく死別というパターンも考えられると思うのですが、事実婚のパートナーに相続権はあるのでしょうか?
齋藤健博さん(以下、齋藤):遺言状があったとしても、実際のところは事実婚のパートナーに相続権はありません。本来、遺言とは「相続権がある人間たちで、財産をこのように分けてくれ」という性質のもの。そのため、事実婚のパートナーに財産を分けるということは、「本当は相続人ではないのに、お金がもらえる」という関係になってしまいます。法律婚であれば、配偶者は正式な相続人になりますが、事実婚だと、遺言状があったとしても「正式な相続人ではない」という前提があるので、トラブルになりやすいんです。
——そもそも事実婚のパートナーは「相続人」にカウントされてないのですね。
齋藤:そうです。また、税金のお話をすると、通常の相続であれば「本人が望んでいないのに、勝手に相続されてしまう」という性質を持っているので、相続税は低く設定されています。しかし、事実婚のパートナーが財産を相続した場合、「正式な相続人ではない」ので、贈与扱いになってしまいます。贈与は、「一方的にもらえる」という性質になるので、相続税よりも贈与税のほうが高く設定されているんです。遺言がある場合の贈与を、“遺贈”と呼びますが、「本当はもらえないものをもらった」「いらなければ破棄すればいい」という立場に立ってしまうので、税務署も税金をかけやすいんです。
——結構、人間の感情や事情をベースに設定されているのですね。所有している自動車や不動産はいかがでしょうか? 例えば事実婚のパートナーが所有している車は自動的に私のものになりますか?
齋藤:自動的にはならないですね。自動車や不動産も贈与対象となるので、贈与税を払う必要があります。ちなみに、社会システムのお話をすると、ロシアなど社会主義国家では、亡くなった人の私的財産は国有財産になってしまいます。一方、日本は資本主義国家のはずなのですが、私的財産が国有財産に近いんですよ。そのため、自動車や不動産などの所有物はいちいち登記をしなければなりません。資本主義国家なのに、私的財産を登記で把握されているわけです。ポリシーのお話をすると、「国に財産や戸籍を把握されたくない」という考えを持っている方は、戸籍を入れずに事実婚を選ぶことも、一つの手だと思います。
——面白いですね。
事実婚における「共有財産」の考え方
——財産についてもう少しお聞きしたいのですが、事実婚の場合は「共有財産が発生していない」ということでしょうか?
齋藤:法律婚であれば、共有財産が100%認められますが、事実婚の場合、パートナーによっては、「共有財産はない」と主張されかねません。ただ、前回も申し上げたように、“準婚理論”を立証できれば、共有財産という形が認められます。ちなみに、個人で入った保険や投資で得た利益なども、すべて共有財産になります。
——ということは病気になって保険金が下りた場合は?
齋藤:法律婚では共有財産になりますが、事実婚でも準婚理論を噛(か)ませると共有財産という体に持っていけます。
——犬や猫などのペットは?
齋藤:ペットも共有財産になりますが、半分にはできませんよね。法律婚であれば、「ペットはもらっていくけど、お金は払って」という話がしやすいですが、事実婚だと、「俺がお金を払ったから、もらっていく」という一方的な話になりかねません。ペットだけではなく、自動車や不動産、家具、家電など、半分に分けることができない財産は、「離婚する時にどちらの所有物になるか」という点で、トラブルになりがちです。
——配偶者控除と、パートナーや子供に関する扶養手当についても教えていただけますか?
齋藤:配偶者控除は法律婚の配偶者のみに適用される制度です。事実婚は法律上の配偶者ではないので、関係ありません。ただ、所得税法上の配偶者という概念は、「民法の規定による配偶者であること(内縁の人は該当しない)」「納税者と生計を同一にしていること」とされています。事実婚でも納税者と生計を同一にしており、“準婚理論”を立証できれば、適用されることもあります。
また、扶養手当についてですが、事実婚のパートナーが「何らかの事情で働けなくなった」場合、扶養手当の対象にしたいところですよね。“準婚理論”を立証できれば条件によって社会保険の扶養に入ることが可能です。ちなみに、児童扶養手当は、ひとり親でもふたり親でも関係なく支給される手当なので、事実婚でも法律婚でも関係なく受給することができます。
——今までのお話をまとめると、「法律婚でも事実婚でも義務や権利にそれほど差異はないが、法律婚のほうが楽なことが多い」ということでしょうか?
齋藤:日本は法治国家ですので、法律婚のほうが楽だとも言えますが、今は女性も外で働く時代です。社会情勢が変わっているのに、昔と同じ制度を使っているので、正直、どちらのほうが良いとは一概には言えません。財産分与請求権についても、「自分で稼いでるから権利はいらない」という女性はたくさんいますから。
——自分のほうが相手よりも収入が高かったり、今回のモデルケースのように同じくらいの場合は法律婚にするメリットはあまりないということでしょうか?
齋藤:それはないですね。
ただ、私の経験から申し上げると、女性にとっては、法律に守ってもらえるという点で、法律婚を選んだほうがいいという局面が多々あると感じています。
——「女性にとっては」というのは総じて女性の賃金のほうが男性に比べて低く*、格差があるからということでしょうか?
齋藤:そうですね。例えば、婚姻費用といって、「双方が同じレベルの生活ができるように、収入が高いほうが低いほうに生活費を払いなさい」という法律が定められています。法律婚であれば、そういった経済的な恩恵を受けられる要素があるんです。もちろん事実婚でもよいのですが、あえて法律による保護を選んでいるわけですから、デメリットは経済的観点からは少ないのではないかと。もちろん、不貞行為などの貞操義務を負うのは事実ですが。
*https://www.oecd.org/tokyo/statistics/gender-wage-gap-japanese-version.htm
——法律婚のデメリットは何でしょうか?
齋藤:やっぱり、離婚がしにくいことですね。事実婚であれば、戸籍が入っているわけでもないので、「別れたい」と言ってしまえば、一方的に別れることができます。しかし、法律婚だと、「離婚したい」と言っても、相手に拒否されれば、裁判所に行って調停を起こさなければなりません。
——確かにそうですね。一方、事実婚の場合は、何かトラブルがあるたびに、“準婚理論”をきちんと立証しなければならない手間があるということですね。
齋藤:そうです。例えば、相手が不貞行為をした場合、法律婚の場合は自動的に慰謝料を請求することができます。しかし、事実婚の場合は、“準婚理論”を立証して、内縁関係が認められてから初めて、慰謝料を請求することができます。事実婚は、そういった手間がどうしても発生してしまう。法律婚にしても、事実婚にしても、それぞれメリット・デメリットはあるので、トラブルをなるべく避けたい方は法律婚、トラブルよりも自分のポリシーを貫きたい方は事実婚が合っているのかなと思います。
(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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