300円の立ち食いそばから3万円のフレンチまで食事がもっとおいしくなるヒントが詰まった『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』(ポプラ社)が7月に発売されました。同書では、『dancyu(ダンチュウ)』の植野広生(うえの・こうせい)編集長によるひとりメシの極意やお店との付き合い方、ナポリタンやカツカレー、うな重を味わう方法などが明かされています。
自他共に認める“食いしん坊”の植野編集長に「ひとりメシ」の魅力について伺いました。
何も考えずにボーッとする「一人反省会」の時間
——コロナ禍によって複数人で外食をする機会がめっきり減りました。飲食店も営業時間の短縮や外食自粛で厳しい状況にあります。そんな状況にあって『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』は今の時代にもぴったりだなと思いました。
植野広生編集長(以下、植野):本の発売のタイミングがたまたまこの時期になったのですが、特にこういう時代だからというわけではなく、単純にひとりで飲みに行ったりご飯に行ったりするのが好きなんです。ラーメン屋や居酒屋、イタリアンのカウンターでひとりで飲み食いしてひとり反省会をする。とは言っても反省なんてしないでボーッとするだけなのですが(笑)。
——ボーッとするんですね。
植野:今の人って、何もしない時間がないじゃないですか。「休みの日はボーッとしています」と言うけれど、よく振り返ってみるとテレビ見たり音楽を聞いたり何かしらしているんです。一人でご飯を食べに行っている人もずっとスマホを見ていますよね。でも僕は本当にボーッとして、くだらないことを考えたり、お店の前を通り過ぎる人や街の風景を見たり……。特に今は忙しく過ごしているので、日々のいろいろなことや仕事から解放される時間は僕にとってすごく貴重なんです。
——本に「会食が嫌い」と書かれていて意外でした。『dancyu』の編集長だから何となく、グルメ業界の人と毎晩のように会食をしているイメージがありました。
植野:僕は食いしん坊なので食べ物に集中しつついろいろなことを楽しみたいのですが、食業界の人たちとの食事はどうしても会話がメインになるのでそれができないんですよね。本当は食業界のいろいろな方と食事をして、「最近良い店ないですか?」とかやらなきゃいけないと思うんですけど、それが苦手なんです。食事をしているときに食の話しかしないのって健全じゃないなと。もちろん何か出てくれば、「これおいしいですね。どこのですか?」とか「鮎がもう出てるんですね」とか話はするんですけれど、ずっと「鮎と言えば、あそこの店が……」「いやいやあそこの店はいまひとつだ」なんていう話が延々と続くのは僕は耐えられない。
ひとり反省会も安い居酒屋やラーメン屋さんに行くんですが、2時間2000円くらいでこんなに貴重な時間が持てるのは最高の贅沢(ぜいたく)です。だから仕事が遅くなってどんなに疲れていてもふとラーメン屋さんに寄ってラーメンを食べないでつまみとレモンサワーを飲んで帰るということをよくしています。「そんな余計なことするんだったら、早く帰ればいいじゃん」って言われるかもしれないのですが……。
——この機会にひとりでいろいろなお店に行ってひとり反省会をやってみるのもいいかもしれませんね。
植野:数年前から「ひとりメシ」やおひとりさまがブームになりましたが、正直無理やりひとりを楽しまなきゃという空気もあったと思うんです。『孤独のグルメ』を真似するみたいな。でも今はだいぶ世の中の空気も変わって自然体でひとりを楽しむことができる人が多くなってきた印象ですね。
ひとりで居心地のいいお店は良いお店
——とはいえ個人でやっているようなお店にひとりで入るのは勇気がいります。常連さんばかりだと入りづらいなとか。
植野:常連さんばかりの初めての店に2人で入るのと1人で入るんだったら、1人で入ったほうが慣れます。店にもよりますけど、ひとりで入ると常連さんが「初めて? ここ焼き魚おいしいから」といろいろお節介を焼いてくれる。2人で入って、「どうしよう?」と言ってると他の人が入りにくいですよね。
——確かにそうですね。旅行もそうですよね。ひとり旅のほうが話しかけられやすいし、人の輪も広がる気がします。
植野:そうです、旅行と一緒です。それに、ひとりのほうが店も気を使ってくれるんです。気の使い方でその店の価値が分かると言っても過言ではありません。せっかくひとりで来ているのに気を使われすぎても疲れるじゃないですか。
逆に言えば、店側もひとり客に対するサービスはすごく難しいはずなんです。特に居酒屋や個人店はどのくらい気を使って、どのくらい気を使わないかの加減ができる分、難しい。どの程度気を使ってほしいかはお客さん一人一人によって違うわけですよね。ひとりで行っても構ってほしい人もいるし、放っておいてほしい人もいる。その気配を察して気を使えるのがプロなのですが、それを自然にできる人たちが世の中にはいるんです。
——ひとり客に対しての対応が絶妙なお店っていうのが、良い店ということですか?
植野:絶対に良い店だと思います。ひとり客に対して心地の良い対応ができればグループだろうが何だろうができるはずなんです。団体客にちゃんとできる人がひとり客にちゃんと対応できるとは限らないけれど、ひとり客にちゃんとできる店であれば団体客にもちゃんとできます。
ひとりで楽しめればみんなでも楽しめる
——改めてひとりメシの魅力を教えてください。
植野:ひとりメシが時代的にハマっているのかもしれないのですが、僕としては「今だから」ということではなくて、ずっと一人でやってきたことなんです。ひとりメシやひとり飲みのような自分の楽しみ方や、周りや他人に左右されない楽しみ方をもっていればコロナだろうと何だろうと関係なく楽しめるんですよね。それにひとりメシを楽しめる人はみんなで食べても飲んでも楽しめます。ひとりメシは「今だから」ということではなくて、普遍的な食やお酒の楽しみ方のベースなのかなと思っています。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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