「ちゃんと、自炊してます!」と声高に言える人って、どのくらいいるのでしょうか? そもそも、パスタをゆでて出来合いのパスタソースをからめるだけでも、自炊と言ってもいいの?
いや、そんなことを言ったら「パスタソースから作るのが当たり前でしょ」「出来合いのものだと具も栄養も足りない」「っていうか、副菜は?」などなど、厳しいツッコミが飛んできそう……。でも、「自炊って本当はそんなに構えなくていいんです」と話すのは、フードライターの白央篤司(はくおう・あつし)さん。
『自炊力 料理以前の食生活改善スキル』(光文社新書)の著者でもある白央さんに、3回にわたって自炊をめぐるお話をうかがいます。
「買う」ことだって自炊
白央篤司さん(以下、白央):まず、質問してもいいですか? ウートピの読者さんの「自炊のハードル高いよね」と言う時のハードルって、どの程度なんでしょう。
——個人差はあると思いますが「一日一食ぐらいは手料理を」という感じだと思います。
白央:その料理は、一汁三菜ですか? それともワンプレートとか?
——うーん……三菜とまではいかなくても、主菜と副菜はほしいです。
白央:その主菜と副菜を、スーパーやコンビニで買ってくるとしたら?
——自炊と言えるのかなぁと思っちゃいます。手抜きしちゃったなぁ、って。
白央:なるほど、わかりました。そうなると「自炊ってハードル高いよね」となりますよね。でも、コンビニのパスタに冷凍のブロッコリーを加えるだけでも「自炊」だと私は考えているんです。むしろ、「買う」ことからだって自炊の第一歩。
作ることにハードルの高さを感じている人が多い時代ですから、「どう買うか」「どう組み合わせたらよりよいバランスになるか」を考えられることが、私は自炊力を上げる最初のステップだと思っているんです。
——本では、週に何回かは切って並べるだけのチーズ・ハム・パンで夕飯を済ませるという、ドイツの「カルテス・エッセン」についても触れられていましたね。忙しい家庭にぴったりな、すごく合理的な食文化だと思いました。でも、日本だとそれを「手抜きだ」って罪悪感を持つ人も多いですよね。
白央:その罪悪感は、手のこんだおかずまで家庭で作ろうとするからだと思うんですよね。だから私は、「主菜は買ってきたっていい」という考え方がもっと浸透すればいいと思っているんです。主菜は買ってきて、主食の白米はできる時にまとめ炊きして冷凍しておいたのをチン。作るのは汁ものだけにする。それだけで、いい献立になりますよ。もちろん、作りたい人は作ればいいんだし。
まずは、「自分が何を買える状況にあるか」というところから自炊を考えるとわかりやすいですよ。近くにおいしいパン屋さんがあるなら、パンを買って目玉焼きとベーコンを焼くだけで立派な朝ごはんができるわけです。徒歩圏内に何軒もスーパーがある人と、車を出して大型スーパーに行く人と、まわりにコンビニしかない人とでは、できる自炊が変わってくるのは当然です。経済状況も含めて、自分の「買える状況」から目標を作れるといいですよね。
——買う、付け足すだけでも自炊、という考え方は目からウロコです。
白央:「手抜き」じゃなくて「手を加えている」んだから、それで十分です。そもそも「手抜き」という言葉、私は苦手なんです。「本来はこうしなければいけないけど、今回は手を抜きましょう」というネガティブな感じもちょっとするというかね。私の生活なんだから、誰かに「本当はこうやるんですよ」なんて言われる必要はない。「自分はこのやり方でじゅうぶん」でいいじゃないですか。
——自炊に対する肩の力が、ふっと抜けますね。
白央:メディアや広告が打ち出す「これができないと負け組」「あれできるようにならないとダメ」というのは、ちょっと脅迫的に感じてしまうんです。私はね。そのようなプロモーションに囲まれて暮らしているのも、どうにも窮屈で。だから「料理ができない=ダメ、なわけじゃない」「今、自分に納得がいってないかもしれないけど、実はあなたは少数派じゃないんだ」ということを本に詰め込みたかったんです。読んだ方が「私だけじゃないんだ!」と思えたらいいな、と。そこを目標にして書きました。
実際、ツイッターで料理に関する質問をしてみたところ、「好き」以外(「好きでも嫌いでもない。生活に必要だからやる」「できればしたくない」「苦手」)を選んだ人が56パーセントもいました。半数以上です(※)。
※回答総数1万11票*2019年1月原稿作成時点
今日は自炊しないで癒しの時間を取った
——約半数が料理が好きじゃないという結果があるとはいえ、インスタとかにはきれいな料理写真がずらりと並んでいて。それを見ると「あー……もうちょっと頑張ったほうがいいのかなぁ」と凹んでしまうんです。
白央:ですよね(笑)。でも、気にしなくていいと思いますよ。ただインスタやSNSで「いいね!」されると嬉しいと感じる気持ちも事実だと思うんです。モチベーションアップにもつながりますよね。実際、それで自炊習慣がついた、励みになったという人は結構多いんです。けれどそう簡単にSNSで注目を集められるわけもない。自炊って「自分のために料理を作ること」ですから、自分をアゲていくのは自分しかいない。うまいこと、自分で自分を褒めてあげてほしいと思います。
——なるほど。私、白央さんの本を読んだ後、けんちん汁みたいなのを作ったんですよ。野菜をゴロゴロ入れて。そうしたら、「私、ちゃんとしてる!」みたいな、なんというか豊かな気持ちになりまして。でもその一方で、自炊できなかった日には自分を責めてしまったりするんです。
白央:できなかった時は、「今日は自炊しないというラクさをとった! そのおかげで私、癒されてる!」って考えてみるのはどうですか。翌日また自炊できなかったとしても、「よく考えたら今日は会社でイヤなことがあったよね。自分に無理させることはないよね」って自分を元気づけるのもいい。毎日自炊をしなきゃいけないという制約はないんですから、したくない時はラクしましょうよ。
——そうですよね。できた時だけ褒めてあげればいい。
白央:みんな自分の頭の中に自炊の理想形があるんですよね。私の場合、母が前日の残り物とか冷凍食品をまったく使わない人だったので、日々の自炊とはそういうものだと思い込んでいたんです。でも、ある日、夕飯にパートナーの好きなメニューを出したら、「残ったら明日のお弁当にも入れて」と言われまして。「明日も同じだと飽きるでしょ」って答えたんですけど、「飽きないよ。食べたいから入れてよ」と返されたことで、「へえ…そんなんでも、いいのか」とラクになったんです。
今思えば、自分自身で勝手に「食事とはそうあるべきだ」と思い込んでいたんですよね。そういうことってたくさんあるけど、なかなか自分では気づけない。それに気づかず、「できない自分はダメだ」なんて自分を責め続けていたとしたら、それはとても悲しいことですよね。
——ラクをしていいんだ、が自炊を続けるための合言葉なんですね。次回は料理とジェンダーロールをテーマにお届けします。
(取材、文・須田奈津妃、撮影:大澤妹、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
自炊のハードルってこんな低くてもいいの? 『自炊力』著者に聞いてみた