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自己責任論は誰も救わない…コロナ禍の今こそ見たい映画『パブリック 図書館の奇跡』

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アメリカのシンシナティを舞台に、行き場をなくしたホームレスたちとひとりの図書館員の奮闘を描いた映画『パブリック 図書館の奇跡』が、7月17日(金)より全国順次公開されます。

記録的な大寒波の到来によって、命の危険を感じたホームレスの集団が図書館のワンフロアを占拠。それは、市の緊急シェルターが満杯だったため、代わりの避難場所を求めるという“平和的デモ”だったのだが、政治やメディアといった社会的な問題もはらみながら、大騒動に発展していく――というストーリーです。

そして、日本での公開を前にした6月28日(日)、配信イベント「映画『パブリック 図書館の奇跡』から考える、いま日本の公共に求められること」が開催され、日本における“パブリック”の問題、“声をあげること”の意味について、熱いトークを繰り広げました。

6月28日開催Choose Life Project × 映画『パブリック 図書館の奇跡』配信イベント_画面のコピー

<参加者>

司会:安田菜津紀/フォトジャーナリスト
稲葉剛/一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事
上西充子/法政大学キャリアデザイン学部教授・国会パブリックビューイング代表
西谷修/東京外国語大学名誉教授・哲学者

台風、コロナ禍…災害のたびに発生する「行政による排除」

稲葉剛さん(以下、稲葉):日本でも図書館とホームレスの関係は、しばしば議論になっています。今回、コロナ禍の影響で緊急事態宣言が発令されたときには、「図書館が閉まって困っている」という話を路上生活者の方々から聞きました。東京の街では、お金を払わずにいてもいい場所というのが、どんどん無くなってきていて……。図書館は、最後に残された“聖域”のような場所なんです。

安田菜津紀さん(以下、安田):昨年の台風19号では、台東区の避難所で、ホームレスの被災者が受け入れを拒否されるという出来事もありましたよね。

稲葉:ホームレスの方たちに、「台風などの災害時に、避難所に行きますか?」というアンケートをしたところ、やっぱり行くのが怖いと。「行政の対応も冷たいし、一般の方々の目線も気になるので、行かないと思う」と答える方が多かったです。受け入れる側が、受け入れるという気持ちを強く持っていただかないと、なかなか難しいと思いますね。

また、最近では、都庁の下で十数年行ってきた炊き出しが、コロナ禍の影響なのか、東京都から突然の中止要請を受けました。都は「無理やりには排除しない」と言っていますが、行政の姿勢には、公共の場からの排除が垣間見える傾向が続いています。ほかにも、コロナ禍で住まいを失う方が急増した際、劣悪な住環境に送り込むということをやっていて、ホームレスの方々の人権が守られていないと感じています。

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公共施設との違いは? そもそも「公共の場」って何?

安田:そもそも公共の場とは、どのような概念なのでしょうか?

上西充子さん(以下、上西):公共の空間と公的施設はちょっと違うのかなと。公共の場所というのは、国や県や区が作るのではなく、私たちがお互いにどのように利用するかということ。例えば、図書館には、受験勉強をしている人もいるし、涼みに来てる人もいる。「図書館は本を読む場所だから、来てはダメだ」ではなく、「本当にそうなの?」と考えなければいけないのが、公共の概念だと思います。ところが、一般的な常識では、「公共の空間=管理された空間」だと思ってしまいがちですよね。

安田:管理されていると思っていると、「公共の空間を、私たちがどのような空間にしていきたいか?」という議論ができなくなってしまいますよね。

西谷修さん(以下、西谷):そうですね。映画のタイトルにもなっている“パブリック”を原理的に考えてみると、西洋では、私的な自由が権利として認められる空間を“プライベート”、誰にも属さないけどみんなが関わる空間を“パブリック”と呼んでいました。この言葉を日本に導入したときに、“パブリック”を“公”と訳したんですね。つまり、“公”とは朝廷のことを指し、下々の民に属するものではないと。お上という意味合いが強くなり、本来の意味との乖離(かいり)が生まれてしまったんです。

私は、“パブリック”をきちんと訳すなら、“共”という訳語で言い表すことが適切だと思います。個人とは別の一般的な空間という意味ではなく、私たちがそこに成立することを支えている、私をすべてフォローする、さらに誰にも属していないのが“パブリック”なんです。

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ネオリベラリズムにおける「自己責任論」の弊害

安田:映画の中では、ちょっとしたことで逮捕されてしまうホームレスたちのエピソードがありました。日本では、自己責任論が非常に強く、「自己責任=自業自得」という意味で使われがちですよね。

西谷:近代の社会では、私権を軸に法体系が作られています。私有がない者には、あらゆる権利が認められず、「それはお前のせいだ」と言われる社会なんです。ところが、私有を捨ててしまった人たちは、公の場で生きざるを得ません。路上生活者は、プライベート領域を持たない、権利を主張しない、公共性そのものを生き場とする人たちなのですが、私権を軸にした法体系の中では、公の場にも私権に基づくルールがあるため、あらゆる行動がいわゆる違法性を帯びてしまうんです。

上西:「お前のせいだ」「嫌ならやめればいい」という自己責任論は、自分の中に問題を押し込ませて、人に相談できなくしてしまう。だけど、お互いに関係性が生まれるような公共の空間があれば、「これは自分だけの問題ではない」という話し合いができます。ところが、日本では、公共の空間をどんどんなくして、お互いの関係性ができるだけ生まれないよう、個々に分断しようとする意図を感じます。

西谷:今のネオリベラリズム(新自由主義)では、個人の自由が最大限に認められていて公共がない。英・サッチャー元首相が「社会などというものはない」と発言しましたが、「私の自由があり、私の所有があり、そして社会はない。持たない者は自己責任、持たないのはお前が悪い」というのは、封建社会と同じですよね。だから、「公共=お上」というメンタリティが、非常にアクチュアルになっているんです。

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「みんな我慢してるんだからお前も我慢しろ」は何も生まない

安田:自己責任論で問題を矮小(わいしょう)化するのではなく、「一部の人だけの問題ではない」ということを共有するには、集まって声をあげることが必要になってくると思います。

稲葉:ただ、日本社会でマイノリティの人たちが声をあげても、マジョリティの人たちは、なかなか自分たちの問題だと捉えてくれません。「あなたたちの問題だよね? 大変だね」と捉えてくれるとまだ良い方で、ときには排除されることも……。特にコロナ禍の今、「どうしたら自分たちという意識を再建できるのか?」ということを、常々考えています。

上西:声をあげると、「自分たちは我慢しているのに自分勝手だ」と言ってつぶそうとする人がいますよね。本来は、我慢しなくてもいいはずで、日ごろから言いたいことが言えるような社会であれば、自分は我慢しているのにという抑圧が軽くなるはず。他人が声をあげることに対しても、許容性が出てくるのではないかと思います。

安田:「自分が不幸だから、相手も不幸になれ」という考え方は、何も生み出さないですよね。

西谷:私的財産を持つ者が正当性の根拠を持っていて、持たない者は自己責任という構造があることが一番の問題だと思います。声をあげるときは、直接被害を受ける人たちと一緒に声をあげることが重要で、「パブリックこそがノーマルだ」と強く言うことが必要なんです。「自分は直接被害を受けていないけど、被害を作る社会に関与しているから、声をあげるんだ」という形で共和していくと、声も大きくなるんだろうなと思います。

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“声をあげる”から考える「メディアの役割」とは?

安田:問題を抱えてる人だけが声をあげるのではなく、当事者の定義を広義に解釈することが重要になってくる。問題に関与しているという感覚を、どれだけ取り戻されるかが大事になってくるかもしれませんね。

西谷:声をあげるというと「共鳴」という言葉も思い浮かぶけど、「メディアとは何か」ということですよね。元々、メディアとはつなぐものという意味で、つながりや関係性を表現するための媒体がメディアなんです。そのメディアは、信号を発しないといけない。意味を持たなくてもいい、理解を拒まれたりもする。けれども、そのノイズを受け止める人がいるということが、社会に現れてくるんですね。

上西:最近では、NHKが、米国の抗議デモ「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」を黒人の暴動のように伝えてしまった問題もありました。いかに伝えるかというときに、当事者たちが思っている通りに伝わらなかった場合は、また別の形で別の人たちに伝え直す。解釈をどんどん上書きして、本来のあり方に近づけることも、多様なメディアの役割だと思います。この映画自身も、文化でありメディアですよね。

稲葉:この映画は2018年の作品ですが、今の日本で見ると、コロナ禍のメタファーのように見ることができます。どうやって私たちが公共を、そして私たちという意識を取り戻すことができるのか。それを考えるきっかけに、この映画がなってくれればと思います。

■映画情報

『パブリック 図書館の奇跡』
7/17(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(C)EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ロングライド

情報元リンク: ウートピ
自己責任論は誰も救わない…コロナ禍の今こそ見たい映画『パブリック 図書館の奇跡』

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