世界中で起きている“働き方問題”と、時代の波に翻弄される“現代の家族の姿”を描いた映画『家族を想うとき』が、12月13日から全国順次公開されます。
家族を幸せにするはずの仕事が、家族との時間を奪っていく――という、現代社会に問いかけるストーリーを、イギリスの名匠・ケン・ローチ監督が描き出した作品です。
本作の公開を前に、特別試写会トークイベントがこのほど、アキバシアター(東京都千代田区)で開催。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)の代表理事として、「誰もが自分らしく働ける社会」を目指して活動する平田麻莉さんが登壇し、映画のテーマや現代社会の問題について語りました。トークイベントの模様をお届けします。
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フリーランスで働く女性の約5割弱が、産後1カ月以内に仕事復帰
——本作は、フリーランスや(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負う)ギグワーカーといった働き方が、家族を追い詰めていくというテーマが描かれています。まずは、映画の感想をお聞かせください。
平田麻莉さん(以下、平田):本当にずっしりと重い気持ちになりました。最後まで救いがなかったので、いろいろと考えさせられましたね。描かれていたテーマは、フィクションではなく、世界中で今後、実際に起こっていく問題だと思います。
——「救いがなかった」のはなぜでしょうか?
平田:ケン・ローチ監督のコメントを読むと、ネオリベラリズム(新自由主義)に対する疑問が非常に色濃く出ていました。ネオリベラリズムには、前提として人間平等主義があります。「人は機会さえ平等に与えられれば、あとはそれぞれが活動する。そして、市場原理に神の見えざる手が働き、うまく調整される」という考え方が背景にあるんです。
でも私は、人間平等主義は幻想だと思っていて。人間は、いろいろな能力や才能を持っているので、画一的に評価が決まるわけではありません。ホワイトカラーで成果を上げて稼ぐことに関して言うと、どうしても差が出てくるのは仕方がないんです。それなのに、「すべて市場原理に委ねて、社会保障やサポートはまったくいらない」という話はとても乱暴ですよね。
——フリーランスといった働き方には、具体的にどのような問題があるのでしょうか?
平田:「ビジネストラブル」で言うと、フリーランスは労働法の対象外なので、仕事は全て業務委託契約です。その契約が一方的に不利な条件だったり、支払いが不履行になったりすることがあります。そして、ハラスメント問題に関しても、企業の相談窓口を利用することができないので、泣き寝入りせざるを得ないんですね。
「ライフリスク」に関しては、雇用保険に加入していないので、失業保険はもちろん、職業訓練給付金などの助成金もありません。本来は一番、自己研鑽(けんさん)しなければならないフリーランスに、スキルアップやキャリアアップのためのサポートがないんです。さらに、傷病手当金や出産手当金の給付が任意だったり、年金保険が一階建てだったり、さまざまな問題があります。
——フリーランスにとっては、家族を持つこともすごく贅沢(ぜいたく)品のように思えます。
平田:そうですね。昨年の調査では、会社員とフリーランスで出産の前後にかかるお金に、300万円の差がありました。会社員の場合は、出産手当金と育児休業給付金という所得補償や、社会保険料の納付も免除されます。
一方で、フリーランスの場合は、所得補償はありませんし、年金保険以外の保険料は払い続けなければならない。そういった経済的な負担があるせいか、フリーランスで働く女性の約5割弱が、産後1カ月以内に仕事復帰しているのが現状です。
労働人口の約20人に1人がフリーランス……「自己裁量」の有無がカギ
——数多くの問題がありながら、そういった働き方が増えているのはなぜでしょうか?
平田:“人生100年時代”と言われ、労働人口も減っている現代において、女性やシニアも働かなければならない状況になっています。そこで、フレキシブルな働き方として、フリーランスやギグワーカーという働き方が増えているわけです。最近では、クラウドソーシングやシェアリングエコノミーを利用して、“すきまワーカー”として働いている方が非常に増えていますね。
ただ、フリーランスとして働くことは、非常にシビアです。究極の成果主義ですし、仕事の獲得や社会保障の面においても、大変なことが多々あります。一昔前のように「フリーランスは自己責任だ」という論調ではなく、サポートをする仕組みを作っていかなければ、みんなが長く幸せに働ける世の中にはならないだろうと思います。
——現在、日本のフリーランス人口は、どのくらいいるのでしょうか?
平田:厚生労働省の推計だと390万人、内閣府の推計だと341万人という数値が発表されていて、労働人口の約20人に1人がフリーランスとして働いているということになります。
いわゆるフリーランスとは、「自分のスキルや知見、労働力を提供して対価を得る」という働き方です。その中で、プロフェッショナルとして「自己裁量を持って働く人」と、企業にとって安価で融通の利く「労働力として搾取されてしまう人」というのは、しっかりと分けて議論するべきだと思います。
——両者を分ける基準は、何でしょうか?
平田:私の考えですが、「値決めをする権利」と「仕事のボリュームを決める権利」がないと、自己裁量があるとは言えないと思います。「この仕事は大変だから、倍の報酬をもらいたい」とか、「今日は疲れたから、仕事はここまでにしよう」とか、そういう自己裁量がないと自営的就労者とは言えないと思います。
「値決めができない」「ノルマがある」という状況だと、ほとんど労働者に近いですよね。そこで、政府の検討会では、そのような働き方に対して、“雇用類似”という言葉を使っています。または、“準従属労働者”とも言いますが、彼らに対しては「労働法の保護が必要になる」という議論をしているところです。
——平田さんは政府に対し、政策提議を続けられているそうですね。
平田:はい。数ある問題の中でも特に、「ライフリスク」の部分を改善していきたいと考えています。実態調査のアンケートでも、「出産や介護に関するセーフティネットがない」ことを不安に感じている人が多いんです。国民健康保険においても、健康診断や人間ドックといった予防医学の観点がないため、「働き方に中立な社会保険の仕組みが欲しい」という声が上がっています。
フランスでは、フリーランスが会社員と同じ医療保険に加入できたり、アメリカのカリフォルニア州では、ギグワーカーを保護するギグエコノミー法(AB5)が制定されたりしているので、日本政府もそういった事例をベンチマークとして、真剣に議論しているところです。だいたいのコンセンサスは取れてきていますが、財源が絡む話ですので、息の長い議論にはなるかなと思います。
「自己裁量」がない働き方をしていると、家族が不幸になることも…
——平田さん自身も、フリーランスとして働かれていますが、何か感じることはありますか?
平田:私は、この働き方がすごく好きなんです。フリーランスとして10年ほど働いているのですが、出産も保活も2回ずつ経験しました。今、子供たちは、6歳と3歳ですが、1人目が小さいときは、週3日だけ働いて、週4日は専業主婦という形で、少しずつ仕事のボリュームを増やしていきました。
ただ、フリーランスは保活が不利なので、2人目が小さいときは、待機児童になってしまって……。1年間は、抱っこひもで仕事先に連れて行く“カンガルーワーク”をしていましたね。それを理解してくれるお客さまとだけ仕事ができたと思いますし、そういう柔軟性はフリーランスならではの魅力だなと感じます。
——最後に、家族との時間について教えてください。
私は、ワーカホリックなので、どんどん仕事を入れてしまうタイプなんです。でも、子供と語り合ったり、触れ合ったりする時間は本当に大事ですよね。そこで、1日1回は、「子供たちと大笑いをする」ということを自分の中で決めています。そういう時間は、自己裁量があるからこそ、つくれる部分だと思います。この映画のように、自己裁量がない働き方をしていると、家族が不幸になってしまうことがあるんだろうなと感じています。
■映画情報
『家族を想うとき』公式サイト
12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
【配 給】ロングライド
【写真コピーライト】photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
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情報元リンク: ウートピ
自己責任論はナンセンス フリーランスが幸せに働けるために必要なこと