自分の持つ魅力(特に容姿に関して!)をポジティブに語るのは難しい……と感じている人は多いのではないでしょうか。
「だったら、外見をみがく努力すればいいんじゃないの?」と、美にまつわるコンテンツは時に私たちを息苦しくさせます。その居心地の悪さを超えて、私たちが「私は私でいい」と思うにはどうしたらいいの?
長年女性誌を中心に美容記事を担当し、初の単著『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)を上梓した、ライターの長田杏奈(おさだ・あんな)さんに聞いてみました。
「美容」の2文字の圧
——『美容は自尊心の筋トレ』、女性に美しくなることを強いるのではなく、「セルフケア」の大切さを教えてくれる優しい本でした。はじめに、で長田さんは、ご自身の「美容ライター」という肩書きに対する葛藤も書かれていますね。
長田杏奈さん(以下、長田):肩書きについては、約15年間、美容に関する記事を書いてきて、はじめは「美容ライター」を名乗れることが嬉しかったんですけど、警戒されてしまう場面も多いな……と感じるようになって。
——警戒?
長田:目の前に「美容ライター」が現れた! さあ、一体どんなダメ出しをされるのか……という感じというか。瞬時に「人を見た目でジャッジする側の人間がやってきたぞ!」という誤解が生まれてしまうように思いました。私自身は、プライベートの場で、人を見た目だけでジャッジすることなんてありません。でも、それだけ「美容」という二文字の圧は強いんだろうなと。
——たしかに、美人じゃないと「美容」を語っちゃいけないとか、きちんとした生活をしている人の特権のようなイメージもあります。
長田:私自身、ずっと美容記事を書いているけど、じゃあ美容がきっちりできているかというと、そんなことはない。ライターの生活って地味でハードなものなんですよ。美容に対する誤解を解いて、自分自身がラクになりたい気持ちもありました。
——美容に対するコンプレックスがある人を救ってあげよう、みたいなことではなくて?
長田:はい。大勢の人に届けたいとか、誰かを救いたいというよりも、ぼんやりと「めちゃくちゃ頑張っているのに自信が持てないあの子を、ちょっとでもラクにしてあげたいな」と何人か知人の顔を思い浮かべながら書きました。ちょっとおしゃべりするだけでは、伝えきれないことをすべて詰め込みました。
美に浸かりすぎて不安になった
——でも、結果的に本作は、売り切れ続出で、早いスピードで重版がかかるなど、多くの人に届いて、話題となっています。
長田:この本がこんなにたくさんの人に読まれるとは思っていなかったし、美容業界の人から「全員美人なんて言ったら、元も子もないじゃん」と、干されるんじゃないかという不安もあったので、ホッとしています。美容に関して、自分の意見がいっぱいたまっていたので「ここで全部出してしまおう!」と思い切って書きました。
——15年以上、美容ライターとしてアッパーな美意識に関わることを発信してきたんですよね。長田さんの思考が変わったきっかけは?
長田:3年くらい前かな。仕事で美に浸かり過ぎて、叫びたくなることがあったんですよ。年末進行で、雑誌の記事をいっぱい書きながら、ブックライターとしても2冊担当していたんですね。ずっと「これが美の正解」「こういうのはダメ」みたいな、美意識が高い人のメッセージを自分の中にインストールしすぎて、ちょっと疲れちゃったんです。言われた通りに書いているけれど、「じゃあ、自分の顔はどうなのって?」って、わからなくなってきちゃって。「もしかして、お目汚しをしている?」みたいな。
——他人の美意識に接しているうちに、不安になってしまったんですね。
長田:でも、そこから自分なりの美に対する気持ちがわいてきて「人間、みんな美人じゃない?」って強く思ったんですよ。そもそもそれを前提として持っていないと、メッセージがちゃんと伝わらないなって。美容って、ハードに修行してストイックにやる宗派もあるけど、私の場合はそこまでしなくでも、全員素敵だよね、みたいなゆったりさです(笑)。みんな綺麗だし、みんな美しい!
タイトルの「筋トレ」に込めた想い
——タイトルの「筋トレ」というマッチョなワードと、文章の優しさのバランスが素敵な本でした。
長田:私、書店で美容本の棚の前に立つと、欲深さに引いてしまうんですよ。綺麗になって、幸せになって、愛されて、夢を全部叶えて、若く見えて、みんなに憧れられて、常に女として現役で……それを手にできれば幸せなのかもしれないけど、そういう世界とはまた違う方向の美容の本が書きたかったんです。
——美容系やモテ本って、どこか自分の裸の欲望を見せられているような気もします。
長田:美容の棚の前に立つのが気まずいタイプ人も手に取れる本にしたいなと。書式もゴシック体で、カバーイラストも程よくシュールだし、「自分を好きになる」系のタイトルも避けました。というのも、「自分に自信がない人を助けたい」っていう教祖みたいな気持ちではなかったから。
「助けたい」って、ちょっと傲慢な気もするんですよ。私にはそんな力もないし。ただ、2歩くらい後ろの方から背中を押す感じになれたらいい。「筋トレする気があるなら、ちょっと私の話を聞いてほしいな」くらいの感覚なんです。「自信がなくて、自分が嫌い」のままで生きる自由もあるし。
まずは「傷つけられた」ことを自覚することが大事
——自分に自信を持ちたくても、幼少期や思春期に他人からの言葉でダメージを受けて、自信を失ってしまった人も多いはず。そこから抜け出して、自尊心を高めるためにはどうしたらいいと思いますか?
長田:「目が小さい」とか「太っているね」とか「痩せすぎ!」とか。自分の容姿を否定された経験のある人って多いですよね。親、好きな人、学校の友達。近い人から受けた言葉は根深いです。傷つけられたものを完全に直すことはできないけど、「それ、他人から受けた傷だよ」「あなたは悪くないよ。槍を投げた人がいるんだよ」っていうのを意識できれば、相対化することはできるなと思っています。
——他人を下げることによってコミュニケーション取ろうとしてくる人もいますよね。どうかわしたらいいんでしょうか。
長田:そんなの、真に受けなくていいんです。真面目な人はいちいち受け止めちゃうけど「言ってる方が間違ってるよね」って、気がつくだけでいい。本当は、人を傷つけるような矢を放った人に怒ることができればいいんだけど、私が代わりに言いに行くことはできない。とりあえず、傷ついた人に「あなたは悪くないよ」と伝えるしかない。
——間違っているのは相手だよ、と?
長田:はい。この本を書いてから「私は自尊心が低くて……」って、よく話しかけられるんですけど、みんな私から見たら美しくて頑張っている賢い女性なんです。自尊心が低いのは、絶対にその子たちのせいじゃないんですよ。教育や環境、外的要因によって何かしら傷つけられているんです。「その傷はなぜついたのか」ということを、これからももっと書きたい。自尊心すり減りシステムについて考えていきたいと思っています。
(取材・文:小沢あや、撮影:大澤妹、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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