「まさかの糖尿病予備群…健診で指摘されたら」と題し、読者のお悩みの声について糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師に連載でお尋ねしています。
前回・第11回では、糖尿病の何が怖いのかについて、三大合併症があることを教えてもらいました。今回は、その1つの「神経障害」について詳しく伺います。
なお、これまでの内容の「糖尿病の診断基準」「血液検査のどこを見て判断するのか」「3年後に糖尿病になるリスク」「内臓脂肪と皮下脂肪のどちらがどう体に悪いか」「体重を3カ月で3%ダウンする方法」「腹やせウォーキング」「ゆるいスクワット法」などについては、文末の一覧からリンク先の記事を参考にしてください。
足がしびれる、アリがはうように感じる
——前回、糖尿病の三大合併症には、「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症(眼)」「糖尿病性腎症(腎臓)」があるということでした。そのうち、神経障害とはどういう症状が起こるのでしょうか。
福田医師:お話ししてきたたように、血液中のブドウ糖である血糖が必要以上にあふれる状態が慢性的に続くと糖尿病を発症します。やがてこの糖が体のすみずみの大小の血管や神経細胞にしみ込み、さまざまな障害を引き起こします。中でもまず、体の末端である足先に症状が現れることが多いのです。
その症状とは、「足の裏がしびれる」「足の先がじんじんする」「足や手がとても冷たい」「足の裏に薄い紙が貼りついているよう」「頻繁に足がつる」「足の表面をアリがはっているように感じる(蟻走(ぎそう)感)」などで、いずれも足先に強い違和感を覚えます。また、日によって症状が違うなどの感覚が生じる場合もあり、それを「多発性神経障害」といいます。
日本臨床内科医会の2001年の調査で、「医師が神経障害があると判断した症例は糖尿病患者の37%にのぼる」という報告があります。網膜症は23%、腎症は14%であり、神経障害は糖尿病の三大合併症の中でもっとも高率です。また神経障害は、加齢に伴ってさらに高率になる傾向が網膜症や腎症より顕著であることも示されています。
——その神経障害は、前回のお話しでは「糖尿病を発症してから早ければ3年ぐらいで現れる」ということでした。
福田医師:糖尿病は予備群や初期の間は痛くもかゆくもなく、症状が現れないので、健康診断や医療機関で血液検査などを受けない限り、発症していても気づかないのです。何のケアもせずに3年ほど経つと、こうした症状に見舞われることになります。ただし、3年で自覚症状が出るのは早いほうで、5年以上を経て急につらい症状が現れる場合もあります。
そうした経緯から、神経障害に気づいてすぐに治療を開始した場合は、糖尿病の重症化や、ほかの合併症の進行を予防するきっかけともなります。
靴の中に石ころが入っても気づかない
——神経障害が進行すると、どうなるのでしょうか。
福田医師:だんだんと手足の冷たさやしびれを感じなくなります。低温やけどということばを聞いたことがあるでしょう。こたつや湯たんぽ、カイロを使っていても、患者さんは温熱を感じないので、加減ができずに気づいたらやけどになっている、という状態です。
また、靴の中に小さな石ころが入ると、普段は痛くてすぐに取り除きますが、神経障害が進むと痛みを感じなくなります。靴ずれや切り傷で皮膚が破れても気づかずに、つらいケガにつながります。
——痛みを感じなくなるので、足の傷が悪化しても放置することになりかねないわけですね。
福田医師:そうです。みず虫にも気づかないことが多くなるため、小さな傷やみず虫から細菌に感染して化膿することがあります。すると皮膚組織の細胞が死滅します。これが神経障害が進行した「壊疽(えそ)」と呼ばれる状態です。
下肢の切断を回避する治療法がある
——足先は心臓からもっとも遠いので、血液循環が悪くなるといった悪循環もあると聞きます。
福田医師:糖尿病が進むと動脈硬化も進行するため、心臓から足の先まで新鮮な血液を届けることが難しくなります。神経障害にそうした血流悪化も重なって、傷が治らずに短期間に潰瘍(かいよう。皮膚や粘膜の表層がただれ、くずれて欠損した状態)になることがあります。さらに壊疽が進行すると、もっとも怖い下肢の切断が必要となる場合もあるのです。
——そうした足の重い症状にはどのような治療法があるのでしょうか。
福田医師:最近では足に壊疽が起こった場合に、足の血管のつまりを拡張する治療法が確立されて、切断を回避できるケースも増えてきています。少し前まで、血管が細くて難しいと言われていた膝から下の血管にも治療が可能になっています。
——神経障害の症状が現れる前にいち早く糖尿病に気づいて改善することが、怖い段階に進まないためのカギのようです。
福田医師:その通りです。糖尿病の状態、すなわち血糖値が高い状態を表す検査にHbA1C(エイチビーエーワンシー。ヘモグロビンA1C。血液検査で判明する。第1回参照)がありますが、HbA1cの数値が1%上昇するごとに、足の神経障害の発症率は25%増加するという調査報告もあります。
糖尿病の人が足の異変に気づいたときは、神経障害が起こっている、またほかの合併症である網膜症や腎症も生じているサインだととらえましょう。
それ以前に、糖尿病予備群だと指摘されたら、「早くわかってよかった」と考えて、血糖値をコントロールする生活を実践していきましょう。
足の異変をチェックしよう
——福田先生は以前から、糖尿病にはフットケアが重要だ、と繰り返し述べておられ、先生のクリニックでもフットケアを重要視されていますね。
福田医師:予備群の方や足の症状がない初期の患者さんにも、足の異変の予防のため、フットケアについて常にお話ししています。毎日、入浴中や風呂上がりに足のすみずみまでチェックすることを習慣としましょう。そのコツは、みず虫やウオノメ、タコ、靴ずれ、ツメの周囲の小さな傷や皮膚の変色、妙な腫れなどの前兆を見逃さないことです。
これは自分でできる糖尿病ケアであり、進行の予防法となります。予備群の人には、進行するとどうなるかという現実をぜひ知っておいてほしいと考えています。
聞き手によるまとめ
糖尿病による神経障害では、足が冷える・しびれるといった違和感が、やがて靴ずれや低温やけど、みず虫にも気づかなくなり、壊疽が起こると切断を余儀なくされることもあるということでした。日ごろの血糖値のコントロールと、進行の予防、そして自分でできる方法として「日々の足のチェック」がいかに重要かがよくわかりました。糖尿病予備群と言われたら、フットケアに注視が必要です。
次回・第13回は、糖尿病の合併症のひとつで失明が怖い「網膜症」について伺います。
■これまでの連載を読む
【第1回】私がまさかの糖尿病? 血液検査のどこを見ればいい?
【第2回】肥満とメタボの計算式で体型を確認! 脱・糖尿病予備群のためにできること
【第3回】3年以内に糖尿病になる…? リスクをセルフチェックする方法
【第4回】おなかのぜい肉は内臓脂肪? 皮下脂肪? 体に悪いのはどっち?
【第5回】脂肪が気になる体型はリンゴ型?洋ナシ型? メタボの診断基準は?
【第6回】3カ月で体重3%ダウンを目標に…内臓脂肪の減らし方
【第7回】内臓脂肪を減らしたい! 腹やせウォーキング法
【第8回】「かるゆるスクワット」で内臓脂肪を減らし、腹やせを実現!
【第9回】内臓脂肪も減らせる! 家事・生活動作の「ながら筋トレ」の消費カロリーは?
【第10回】基礎代謝が下がるいくつもの理由…上げるにはどうする?
【第11回】まさかの糖尿病予備群と言われた…何が怖いかを専門医に聞く
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)
- 内臓脂肪を減らしたい! 腹やせウォーキング法【糖尿病専門医に聞く】
- ウォーキングはいつする? 脂肪が燃焼しやすい時間帯【糖尿病専門医が教える】
- 3年以内に糖尿病になる…? リスクをセルフチェックする方法【専門医が教える】
- 糖尿病の三大合併症のひとつ…神経障害が怖い理由【専門医に聞く】
- お菓子は1日にどれぐらい食べていいの? 糖尿病専門医が教える「手ばかり法」とは
- 夜遅ごはんの太りにくい食べ方は? 糖尿病専門医が教える12のポイント【後編】
情報元リンク: ウートピ
糖尿病の三大合併症のひとつ…神経障害が怖い理由【専門医に聞く】