臨床心理士のみたらし加奈さんによる初の書籍『マインドトーク』(ハガツサブックス)が6月30日に発売されました。“自分との対話”を意識したエッセイで、自身の生い立ちや家族、パートナーとの関係、“顔出し”する臨床心理士としてSNSを中心に発信する理由などをつづっています。
現在はフリーランスとして活動しながらSNSやYouTube、メディアなどに出演してメンタルヘルスやLGBTQなどの情報を発信しているみたらしさんに、初の著書執筆の経緯を聞きました。全4回。毎週火曜更新。
言葉を届けようと思ったきっかけ
——本を執筆された経緯を教えてください。
みたらし加奈さん(以下、みたらし):私は臨床心理士で文字のお仕事やライターの経験はありませんでした。でも、本の冒頭にも書いた通り、ある日渋谷駅で妹を待っているときに統合失調症の方と話す機会がありました。そのときに感じたことや考えたことをSNSで発信したところすごく反響をいただいたんです。それをきっかけに私の文章はもしかしたら誰かに届けられるのかもしれないという希望もあってSNSで発信し始めました。
そのあと、勤めていた大学病院を辞めてハワイに10カ月間、語学留学をしたのですがそのときにこの本の担当となる編集者さんから連絡をいただきました。(版元の)「Hagazussa Books(ハガツサブックス)」の名前の由来は「魔女」で、垣根を越える存在、境界線を越えていく存在という意味があると伺って惹(ひ)かれたのと、メンタルヘルスに限らずLGBTQやフェミニズムなど、担当さんと私が感じている問題意識に共通点がたくさんあり、一冊の本にまとめることにしました。
——本の装丁もすてきだなあと思いました。左開きで横書きというのは珍しいなあと思いました。
みたらし:インスタグラムで「本を作ることになったのですが、どんな本にしてほしいとかどんな形がいいとかご要望はありますか?」とフォロワーの方に聞いたところ「普段あまり本を読まないので読みやすくしてほしい」「大事なところは太字にしてほしい」などのメッセージをいただきました。また、心理学の専門用語も入れるつもりだったのですが、専門用語が縦書きに書いてあると難しそうだと思われて、読むのをやめてしまうかなと思い、横書きにしました。
——フォロワーの皆さんと意見を交わしながら作った本なのですね。
みたらし:当事者意識を持って、一緒に作り上げたいと思いました。自分たちの意見が反映されたり、意見を聞いてもらったほうがフォロワーの方たちは手に取りやすいし、自分事として捉えてもらいやすいと思ったので、ご意見を賜りました。
——やはり本を作る上で意識したのは「当事者意識」ですか?
みたらし:そうですね、当事者意識については本当に意識をしました。あとはもう一つ、言葉のあやで自分に悪意がなかったとしても誰かを傷つけてしまったり、読み手がそこに書かれている文章や言葉を見て疎外感を感じてしまったりすることがたくさんあります。
例えば、女性がテーマの話をしていたとしても、男性に当てはまる場合もあります。「性別やセクシュアリティに限らずこういう問題はあるよね」と担当さんと話し合いながら、できる限り全方位に気を配りながら書き上げました。
間違った解釈で広がっている言葉を正確に伝えたい
——本を読んでいい意味で教科書みたいだなと思いました。専門用語もきちんと分かりやすく説明されていてスッと入ってきました。
みたらし:心理学の用語って注目度が高くて手に届きやすい分、間違った解釈をされることが多いんです。例えば、最近雑誌やネットで多く見かける「自己肯定感」という言葉もそうなのですが、「自己肯定感=自分をすべて疑いなく愛している」「自分のことを大好きでいなければいけない」のような強迫的な意味合いを含んで使われることが多いと感じていました。
心理学用語としての「自己肯定感」は、自分の好きなところも嫌いなところもきちんと手綱を握って把握しておくという意味もあります。“真ん中の自分”をしっかり持っておくというのが本来の自己肯定感なのですが、メディアでは本来の意味とは違った意味で取り上げられることもあります。臨床現場で培った経験や大学院で学んだことを分かりやすく、でも正確に伝えることを意識して書きました。
——SNSでは臨床心理士の「みたらし加奈」としてメンタルヘルスに関すること、YouTubeの「わがしChannel」ではKanaとしてパートナーのMikiさんとの“同性カップルのありふれた日常”について発信されています。また、みたらしさんが理事として関わっている、性被害や性的合意についての情報やメッセージを伝えるためのメディア「mimosas(ミモザ)」でも活動されています。みたらしさんが発信をし続ける理由について改めてお聞かせください。
みたらし:mimosasの理念の1つに「知ることで変えられる未来がある」というものがあります。自分や自分の大切な人が性暴力の被害に遭ってしまったときに、「知っている」からこそ選択肢が広がったり、助けを求めることができるかもしれない。そんな思いを込めて、このメディアは立ち上がりました。
インターネット社会って本当にいろんな情報が溢(あふ)れていて、だからこそ本当に大切な情報は、自分の気力や体力のあるときにしかつかめなかったりします。特にメンタル面でしんどさを抱えているような場合って、それがなかなか難しくなってしまうし、どの情報が正しくて、どの情報が偽物かということすら見分けることも苦しくなってきてしまうと思うんです。だからこそ、みんなが手に取りやすいSNSを上手に使いながら、正しくて分かりやすくてエンパワーメントされるような情報を発信していくことに意義を感じています。
——この本を読む人へのメッセージをお願いします。
みたらし:『マインドトーク』は、私を知らない方にも知っている方にも向けて、まずは私が今やっていることや活動、幼稚園時代からこれまでの生い立ち、家族やパートナーのことについて話をして「あなたはどんな感じ?」と問いかけているものです。そして、私のことを知ってもらった上で日本の未来や自分が暮らしている世界のこと、こんなふうになったらいいよね、というように読者の方との関係を築いていく構成にしています。もしかしたら、「この章は読めないな」「ここはしんどいな」と人それぞれ思うところがあるかもしれない。ぜひ本を手に取っていただいて、読みながら自分の中の気づきを最後のページに書き込んでもらったり、発信してもらえたらすごくうれしいですね。
※次回は9月15日(火)公開です。みたらしさんに「自己肯定感」をテーマにお話を伺います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
私が“顔出し”する臨床心理士として発信し続ける理由【みたらし加奈】