連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。
今回は、精神保健福祉士・社会福祉士で、著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『小児性愛という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)などで男性の“加害者性”について深く考察してきた斉藤章佳さんをゲストにお招きしました。
第1回では、斉藤さんが指摘する「男尊女卑依存症社会」をテーマに、なぜ私たちは男女間の歪な関係性から逃れられないのかお話いただきます。
Contents
“男尊女卑”に依存するってどういうこと?
——お二人は実は初対面だそうですね。
斉藤章佳さん(以下、斉藤):はい。以前、アルテイシアさんのコラムで私の著書『男が痴漢になる理由』を取り上げていただき、うれしくて共通の友人にSNSでつないでもらいました。そこからのご縁ですね。
アルテイシアさん(以下、アル):ご著書を読んで、斉藤さんとお話ししたいなと思っていたので、小躍りして喜びました!今日はよろしくお願いします。
斉藤:お願いします!
——対談のテーマは「ジェンダー問題」です。斉藤さんは「日本は“男尊女卑依存症社会”である」と指摘されていますよね。これはどういうことなのでしょうか。
斉藤:“男尊女卑依存症社会”は、昨年発売された対談集『さよならハラスメント』の小島慶子さんとの対談の中でとっさに私の口をついて出た造語です。男らしさ・女らしさ的なジェンダー差別を無くしていこうとする運動が活発化する一方で、日本には「男性は女性を下に見ることが当たり前」という刷り込みが依然として残っていると感じています。
男性も女性も、男尊女卑に苦しんでいるのに、結局その仕組みで社会が「うまく回っている」ように感じるから苦しいけど手放せない。まさにわかっちゃいるけどやめられない依存症のようだな、と。
アル:「変わるよりもラク」と思っている人は多そうですよね、男性は特に。
痴漢本を書いた「章佳」は女性だという思い込み
斉藤:私は2017年に『男が痴漢になる理由』という書籍を出版したんですが、読者の反応が、男女で面白いくらいに分かれたんですよ。
アル:どんな反応が?
斉藤:女性からは、「よくぞ男が書いてくれた」と共感のコメントが多く寄せられました。一方、男性からは、「どうせまた男を貶めるような内容に違いない」といった批判が大量に届きました(苦笑)。
アル:わかる! せめて読んでから批判してほしいですよね。私も男性からのクソリプに「“アンダルシア”のコラムは…」とか書いてあって、ろくに読んでないんですよ。
斉藤:興味深かったのが、批判コメントの中に、著者の私を女性だと勘違いして怒っている人が結構な割合でいたんですよ。表紙に書いてある「章佳」が女性の名前のように見えるようで。
「男性を責めるようなテーマで本を書くような人間は、フェミニストか女性に違いない」という自動思考が働いたんでしょうね。
アル:そもそも先入観があるんでしょうね。あの本を読んだ私や周りの女性陣は、「ありがてえ!!」と歓喜の膝パーカッション*でした。
「すべての性暴力の根底には支配欲が隠されている」「男女間のジェンダー格差が大きい国ほど性犯罪が多い」「痴漢は男性優位社会の産物である」とか、本当によくぞ言い切ってくれた! と。
*膝パーカッション…共感して膝を打ち鳴らす、という意味
斉藤:ありがとうございます。
アル:加害者治療の専門家で、なおかつ“男性である”先生が書いてくれたことにすごく意味があると感じました。ジェンダー問題に関しては、女性は徐々にアップデートしていると感じるけど、男性もこういった本を読んで変わってもらわないと困るんだよ、と。
指摘されるまで気づかない態度の変化
斉藤:私は20年ほど前から榎本クリニックで依存症の臨床に携わり、15年前からはDVや性犯罪の加害者臨床を専門に実践・研究・啓発活動を行っています。加害者臨床の現場では、自分の中にもある、「認知の歪み」に鋭敏になり新しい価値観を日々アップデートしていかないと、私も彼らと同じ男性だから加害者寄りの思考にどんどん引っ張られてしまう自分がいることに気づくことがあり、危機感を覚える瞬間が多々あります。
アル:それはどんな時に?
斉藤:向かい合うのが男性か女性かでスイッチを切り替えるように態度が変わるのを目の当たりにするときです。プログラムでは、必ず男性と女性2人のセラピストがセッションを担当します。これは、男女がお互いに尊重し合い、対等なコミュニケーションを築く姿をロールモデルとして見てもらうのが目的だからです。
しかしここで、加害男性の男尊女卑的な反応が如実に現れるんですよ。男性である私が話しているときには前のめりで真剣にメモを取るんですが、女性と交代した途端に急にふんぞり返ったり、腕を組んでみたり。時には無意識に舌打ちする参加者もいました。
アル:ボディランゲージとして現れてしまう、と。日常生活でも、そういう態度を取る男性をよく見かけます。たとえば、タクシーの運転手さんが、客の性別によって接客態度を変えたりとか。SNSの「失礼、男性でしたか」というのも、ミソジニー(女性蔑視)仕草ですよね。
斉藤:無自覚なんですよ。彼らも真剣にプログラムに参加しているつもりなのですが、体の動きを指摘されないと気づかないし、無意識に繰り返してしまうんです。
アル:感覚が麻痺してしまってるんですね。
斉藤:そんなたくさんの加害男性たちと日々向き合っていると、よほど意識して自分の中にある感情や生理反応に対して鋭敏にならないと、無自覚に女性を上から見てしまう傾向がでてくると怖くなることがあります。私も幼少期は本家の長男として、男尊女卑的価値観を日々インストールしながら育ちました。それを学生時代体育会系で洗練させてきた過去があるため、常にバランスボールにのっている感覚で自分のなかにある「古い価値観」と「新しい価値観」の整合性を取りながら、日々の臨床に向き合っています。
「あいかわらずおっぱい大きいね」
アル:普段はまともな常識人と呼ばれる男性から、唐突にセクハラを受けてギョッとする場面が多々あります。たとえば、同期会で20年ぶりに会った男子から「あいかわらずおっぱい大きいね〜」「俺、全然イケるわ」みたいなことを言われたりする。本人たちはそれで女性が気分を害する可能性があるなんて、想像すらしてなくて。完全に無自覚なんですよね。
斉藤:ひどいですね。
アル:むしろ本人は褒めてるつもりなんです。そんな彼らも子煩悩なパパだったりするんですよ。20年前からアップデートしてない感覚に「タイムマシーンで来たんやっけ?」と思いました(笑)。
そのエピソードを記事にしたところ、大学生や20代の女性からも、「わかる!」と膝パーカッションが寄せられました。おじさんだけじゃなく、若い男性からも無自覚なセクハラを受けている女性がたくさんいるんですよ。
斉藤:共感して膝を打ったわけですね(笑)。その記事に対して、男性からの反応はいかがでした?
アル:「言われるお前のほうに原因があるんだろ」みたいな、被害者を叩くクソリプが赤潮のように発生しました。女性が声を上げること自体が気に食わない、声を上げる女性を叩きたくてしかたない男性陣から、金太郎飴みたいなクソリプを受け続けて、もうすっかり飽きてます(笑)
男尊女卑が刷り込まれるきっかけは?
——男女の間にそこまで価値観のズレがあるのは、なぜだと思いますか?
アル:やっぱり、幼少期からの刷り込みは大きいと思います。昨年、ほとんどのコンビニから成人誌が撤去されましたが、以前は子ども達が初めて目にするエロコンテンツってだいたいコンビニのエロ本コーナーでしたよね。
そこには「レイプ」「痴漢」「盗撮」みたいなワードが並んでいました。女性を(男の性欲を満たす対象として)モノ化する、という感覚が日常の中に「当たり前」に溢れている。それによって、性暴力とセックスの区別がつかなくなる可能性もあると思うんです。
罪悪感を覚えることなく、女性をモノ扱いする感覚が刷り込まれているから、「風俗に行ったらブスが出てきてチェンジした(笑)」みたいな話で盛り上がる大人になってしまう。
ちなみに、その同期会で男性陣が「目標達成した時に上司が風俗に連れていってくれた」みたいな話をしていて、またもやタイムスリップ気分でした。生身の女性を「ご褒美」「トロフィー」のように見ているんですよね。
斉藤:私は男尊女卑的価値観を学ぶきっかけは、特に同性の親から刷り込まれるジェンダーバイアスの影響が大きいと考えています。いわゆる「男らしさ」や「女らしさ」のインプリンティング(刷り込み)です。子どもは、男女のコミュニケーションの仕方をたいてい両親から学びます。父親が母親を「お前」や「おい」と呼んでいれば、無意識のうちに男性は女性を目下の存在として扱ってもいいと刷り込まれるでしょう。
さらに父親による母親へのDVを日常的に見ていたとしたら、言うことを聞かない女性は男性が暴力をもって支配してもいいものだと学習してしまうことにも繋がります。
アル:「誰が食わせてやってるんだ!」と妻に怒鳴るとか、昭和のお父さんあるあるですよね。家庭という場所が、男尊女卑を学ぶ最初の場所になってしまうと。
斉藤:その後、学習の場は学校、メディア、社会、と広がっていくわけですが、どの環境においてもやはり男尊女卑のループは断ち切れない。私が非常に問題だと思っているのは、男性にとっての性教育の教科書が、AVだという点なんです。これは加害者臨床のあるあるで「AV」でそうしていたから、レイプもセックスのひとつだと思っていたと本気でいう加害者がいます。
本来であれば親から学ぶべきだと思いますが、日本の父親は、性について語る言語を持っていないケースがほとんどですよね。自分の子どもの頃の経験とか、AVはあくまでフィクションであって、実際にはあんな行為はしてはいけないんだよ、といった話を子どもにすることができない。
アル:テレビでエッチな場面になると無言で新聞を広げるとかも、お父さんあるあるですよね。性の話題をタブー視する家庭は多いと思います。学校の性教育でも、ほとんど実践的な性の知識は学べないのが現状ですし。
斉藤:リアルな知識は自然と身につけるものとされていて、誰も介入しようとしてこなかった歴史があります。我々は、子どもの頃から男尊女卑のシャワーを浴び続け、男も女も感覚が麻痺したまま大人になってしまう。新しい価値観にアップデートする機会がない限り、古い価値観のアンインストールは難しく“男尊女卑依存症社会”は続いてしまうという危機感を持っています。
(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
“男尊女卑依存症社会”って何ですか?【アルテイシア・斉藤章佳】