逆流性食道炎に悩む人が増えています。その実態や謎の症状、またセルフケアに関する疑問について、兵庫医科大学病院の副院長で消化器病指導医・専門医、内科指導医の三輪洋人(みわ・ひろと)医師に連載でお尋ねしています。
前回の第10回では、就寝時の胃酸の逆流を軽減するケアについて紹介しました。今回は、日中の生活動作や運動についてお話を伺います。なお、これまでの内容は文末のタイトル一覧からリンク先の記事を参考にしてください。
猫背は逆流性食道炎の大敵
——逆流性食道炎を改善するために日ごろから自分でできることはありますか。
三輪医師:いくつもあります。まずは姿勢の改善です。自分の全身を鏡に写して見つめてみてください。猫背や前かがみの姿勢になっていませんか。年々、猫背がひどくなる、またスマホやパソコンの操作中、食事中に背中が丸くなっているなど、思い当たる人は多いと思います。
猫背や前かがみの場合、おなかのあたりが圧迫されています。すると胃の内部の圧力が高まって、胃の入り口より少し上にある下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん。第1回・第10回参照)がゆるみ、胃から食道のほうへと胃酸が逆流しやすくなるのです。
また、猫背や前かがみの姿勢は、横隔膜の働きにも影響します。横隔膜には、食道が通る食道裂孔(れっこう)という通り道が開いています。ちょうどこの部分が食道と胃のつなぎ目にあたり、下部食道括約筋がある場所です。つまり、姿勢が悪いと横隔膜の機能が低下するので、下部食道括約筋のゆるみにつながります。
——猫背など姿勢の改善はすぐにできそうで、実はなかなか難しいように思います。
三輪医師:姿勢は無意識の動きで矯正が難しいと思いがちですが、姿勢への意識を高めることや軽い筋トレを続けることで必ず改善されます。まずは、パソコンやスマホの操作中の自分の姿を誰かに写真に撮ってもらって確認してください。ぎょっとするぐらいに猫背になっていることに気づくでしょう。その認識だけでも、改善へのモチベーションがアップします。
そして、壁に足から背中、頭をつけて立ってみてください。肩の力を抜いてあごを引き、自然に後頭部、けんこう骨、おしり、かかとが壁につくようにしましょう。全身を映す鏡があれば、左右の肩が傾いていないかもチェックします。その姿勢を毎朝確認するだけで意識が高まり、日中もことあるごとに背中を伸ばすようになるでしょう。
腹筋運動はNG、スクワットが良い
——姿勢を良くするには腹筋を鍛える必要があると聞きます。しかし腹筋運動をすると胃酸が逆流しませんか。
三輪医師:猫背の原因には腹筋や胸の筋肉のゆるみが考えられるので、腹筋を鍛えることは重要です。ただし、おっしゃる通り、腹筋運動をすると、おなかに圧力がかかって逆流性食道炎の症状が現れることがあります。
そこで腹筋と背筋、ふとももの筋肉を同時に鍛えることができるスクワットをゆっくりと5~10回ほど行ってください。きつい場合は無理をせずに、壁や椅子の背もたれを手で持ちながら、体を支えて行いましょう。
また、ヨガのコブラや猫のポーズなどを適宜、実践してみてください。呼吸を深めながら行うと横隔膜の強化にもつながります。
改善や予防によい運動は?
——運動は逆流性食道炎の改善にとって効果があるのでしょうか。あるとすれば、どのような運動が良いのでしょうか。
三輪医師:逆流性食道炎と運動の強度の関係を研究した報告はたくさんあります。
「強度が低いウォーキング、腹圧を高めないゆるいヨガ、軽い筋トレは有用」ということ、また一方で、「強度が高い運動、例えばランニングや動きが激しい球技、瞬発力が高い筋トレは悪化の可能性がある」ということがわかっています。軽い運動を毎日実勢しましょう。
深呼吸がケアになる?
——深呼吸が逆流性食道炎の改善になると聞きます。本当でしょうか。
三輪医師:本当です。その理由はまず、深呼吸とは、先ほどお話しした横隔膜を鍛えることになり、下部食道括約筋の機能の向上につながるからです。次に、逆流性食道炎を悪化させる要因のひとつであるストレスの改善にも働くからです。
横隔膜は呼吸によって上下します。鼻から息を吸ってみてください。胸部がふくらむでしょう。このとき、横隔膜は収縮して下がります。鼻から息を吐くと、胸部が縮んで横隔膜は緩み、上がります。
次の腹式呼吸と胸式呼吸をゆっくりと静かに、自分のペースで無理のない程度に数回くり返すだけで横隔膜の運動になります。
腹式呼吸……鼻から息を吸いながらおなかをふくらませる。息を吐きながらおなかをへこませる。
胸式呼吸……鼻から息を吸いながらおなかをへこませる。息を吐きながらおなかをふくらませる
いずれも、手をおなかに添えておなかの動きを感じながら行うと効率的です。
聞き手によるまとめ
猫背の改善、ウォーキング、ゆるいヨガや軽い筋トレ、マイペースの深呼吸が逆流性食道炎の改善になり、一方で、腹筋や強度が高い運動、きつい筋トレは症状を悪化させる可能性があるということです。有用な運動のほうは毎日の習慣にできそうな方法ばかりなのでほっとしました。ぜひ継続しながら改善と予防を心がけたいものです。
次回・第12回は、逆流性食道炎を改善するために気を付けたい日常の動作などについて紹介します。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)
■これまでの連載を読む
【第1回】燃えるような胸やけ、重苦しい胃痛…逆流性食道炎の症状
【第2回】太りぎみ、食べ過ぎ、猫背…逆流性食道炎の原因を消化器病専門医に聞く
【第3回】炎症がないのに痛みがある!? 「非びらん性胃食道逆流症」とは
【第4回】逆流性食道炎で心臓発作!? 何が起こっているのか消化器病専門医に聞きました
【第5回】逆流性食道炎が悪化するとどうなる? 軽症の場合は?
【第6回】コーヒーやチョコ、酒でごまかせる? 逆流性食道炎の勘違い食生活
【第7回】野菜・タンパク質・油、何がいい? 逆流性食道炎の胃にやさしい食事とは?
【第8回】逆流性食道炎に牛乳がいいのは本当? 水は? ミントティーは?
【第9回】のどがイガイガ、耳が痛い…謎の症状の正体は逆流性食道炎?
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情報元リンク: ウートピ
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