キャリア、人間関係、自分、家族……現代を生きる誰もが、さまざまな不安や葛藤を抱えています。11月20日に全国公開される映画『滑走路』(大庭功睦監督)は、非正規雇用やいじめ、過労といった問題と向き合いながら、希望を求めてもがく人々の姿を描いた物語。
本作で主演を務める水川あさみさんは、将来のキャリアと夫婦関係に悩む切り絵作家・翠を演じます。
インタビュー初回の本記事では、翠というキャラクターとどのように感じたのか。役にどう向き合い、演技をつくりあげていったのかを伺いました。
その日常や幸せは、自分で選んだものなのか
——映画『滑走路』は、いじめや非正規雇用を経験しながら、それでも生きる希望を歌に託した歌人・萩原慎一郎さんによる「歌集 滑走路」が原作です。脚本を読んで、どのような印象を持たれましたか?
水川あさみさん(以下、水川):歌集のなかにある、視界に少しもやがかかったような、薄暗いグレーのなかをさまようような空気感が、脚本にもしっかり反映されているなと感じました。世の中の人の不安や悲しみだったり、本当は抱きたくない絶望だったりを、すごく代弁していて……そういう気持ちに寄り添える映画になるんじゃないかな、と思いましたね。
——水川さんが演じた翠は、将来のキャリアや夫との不和に悩む切り絵作家。彼女のことを、どんなふうに感じましたか。
水川:翠は、とても不器用な女性だなと思います。子どものときからずっと、自分の言いたいことや思っていることを、主張してこなかった人。だけど、それなりに自分のやりたいことをやらせてもらえていて、切り絵アーティストとして芸術にも携わっているし、結婚もしている。両手からあふれるほどの幸せではないけれど、日常を生きるなかで自分が「充実している」と思えるくらいの幸せは、ちゃんと手にしている人なんですよね。
でも「その日常や幸せを、すべて自分で選択してきたの?」とも感じます。彼女自身は、これまでそんな疑問すら抱かずに生きてきたんじゃないかな、という印象です。
——確かに、物語の序盤ではそんな女性でした。でもクライマックスでは、みずから大きな決断をくだす場面もありましたね。
水川:物語が進んでいくなかで、翠に少しずつ自我が芽生えていくんです。そして、最後にすべてを置いても向き合わざるを得ない出来事が起きて、いままでしてこなかったような決断ができた。それは、翠にとってとても大きな成長だし、大きな一歩だと思いながら演じました。決断には悲しい側面もあるけれど、それでも彼女にとって、ポジティブな出来事だったと思っています。
翠はきっと、いろんな女性が共感できる人物
——自分を表現する仕事があって、結婚もしていて。翠の環境は水川さんと重なる部分も多くありますが、生き方や心情には、似ているところはありましたか。
水川:心情的には、自分と重なる部分は正直ありませんでした。でも、すごくいろんな女性たちが共感できる人だろうな、とは思いましたね。女性が抱える悩みや不安、葛藤を寄せ集めたのが翠なんじゃないかな、と。だから、多くの人に共感してもらえるように演じたいとは思ったんです。
——そんな役を、具体的にはどんなアプローチでつくっていったんでしょうか。
水川:たとえば、私自身も翠は不器用な女性だと感じたけれど、監督からも「器用じゃないように見えたい」と言われました。でも、私自身の印象や雰囲気では、所作がなんとなく器用に見えてしまったため、佇まいからつくりあげる必要があったんです。なので、おっとりというか、あまり早く動かないというか……ゆっくりしている人に見えるようには気をつけていましたね。
——なるほど……! いまここにいらっしゃる水川さんと翠で、ぱっと見でもずいぶん印象が違う理由がちょっとわかりました。
水川:あ、本当ですか? よかったです(笑)。
気持ちを伝えることの難しさを、あらためて感じた
——翠も不器用だけど、夫の拓己(水橋研二)も同じように不器用な人だなと感じました。どんなときも翠の選択を尊重する、優しい人に見えるけれど、じつは夫婦で向き合うことを避けているというか。
水川:そうですね。翠も最初のうちは、彼が事あるごとに「翠はどうしたい?」と尋ねてくれることを、優しさのように感じていたと思います。自分の気持ちを押しつけず、答えをこちらに委ねてくれるのは、実際にひとつの優しさだと思うし。
でも、人生の大きな決断を迫られたり、自分の気持ちが埋もれてしまいそうになったりするなかで、そうやって尋ねられることの意味が変わってきて。同じ言葉なのに、受け取り方が違ってきてしまったんですよね。
——二人の夫婦関係が、作品のなかで少しずつ変化していくのがわかりますね。
水川:そうですね。だからこそ、日常は面白いし怖いものだなと思いました。それに、言葉ってすごく難しい。相手に何かを伝えるとき、どんな言葉をチョイスしてどんなふうに伝えるのかってことが、本当に大切だなと改めて思いました。私自身はわりと気持ち先行型だから、そのときの感情をバーッと言ったりしがちですけど……(笑)。それでも本当に大切なことを伝えるときは、伝わる言葉をきちんと選びたいし、選ぶように心がけています。
■作品情報
(取材・文:菅原さくら、撮影:面川雄大、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
水川あさみ「本当に大切なことは、言葉をきちんと選びたい」 映画『滑走路』