付き合いだからと自分を無理やり納得させてしぶしぶ行く飲み会、流行っているからなんとなく買ってしまった洋服——。
「なんか違うな」と思っても、義理やしがらみ、習慣に縛られて我慢したり、違和感をなかったことにしたりしているうちに、自分が本当に好きなことややりたいことがわからなくなってしまうことは誰にも思い当たることなのではないでしょうか。
「自分に正直に」ってどういうこと? 本来の自分を取り戻すには? このほど『「違うこと」をしないこと』(KADOKAWA)を上梓した、吉本さんに3回にわたってお話を伺いました。
【第1回】吉本ばなな「自分の中の“違和感”を大事にして」
【第2回】吉本ばななさんに聞いた、傷との向き合い方
平成を振り返って思うこと
——あと1ヶ月あまりで「平成」も終わります。吉本さんは昭和62年(1987年)に『キッチン』で作家デビューされました。吉本さんにとって「平成」はどんな時代でしたか?
吉本ばななさん(以下、吉本):やっぱり忙しかったな。見聞を広める時代だったなと思います。したくないことをしたり、したくないことでもしてみたり、行きたくないところでも行ってみたり、やりたくないことでも一応やってみて、自分は何がしたいのかを一個一個見極めていく時代だったなと思います。本当に精一杯経験して良かったなと思います。(平成は)ちょうど私のキャリアとイコールですからね。
——次の時代はどんな時代にしていきたいですか?
吉本:次は、やっぱりある程度は合わないことはしないことが許される年代だなって思っています。
でも、今の若いお嬢さんたちは、もうちょっと見聞を広めないと、本当に大変なことになるんじゃない? とは思いますね。
例えば、生き物を育てたことがなかったり、植木鉢が枯れちゃったから捨てちゃったみたいな感じで生きてきていて、急に子どもを産んじゃうと本当に大変だろうなっていう気はします。
「自分が全然知らない世界がある」と思っておく
——20代、30代の読者に伝えるとしたら「見聞を広めて」というところでしょうか?
吉本:そうですね、やっぱり何でもやってみないと止まっちゃうんじゃないかな。50代、60代になったら、だんだん終末に向って収束していくわけだから、あまり自分に合わないことをしなくてもいいんじゃない? と思うんですが、40代までは最初から「私に合わない」と決めつけたり、食わず嫌いをしたりしないほうがいいんじゃない? と思いますね。
私は「これで安心」「これが心地よい」というのは、そんなに早く見つかるはずがないし、時代によっても変わる気がするんですよね。すごくおばさんくさい意見ですけど、本当にそう思います。
——そんなに早く“境地”には達しないぞ、と。
吉本:この前、テレビで色彩コーディネーターの方がカウンセリングをやっているのを観たのですが、自分が思っている自己イメージと他人から見た自己イメージって全然違うんですよ。
例えば、「私はどちらかというとハキハキしているほうだと思う」と思っている人が「あなたはすごくおとなしそうで保守的に見えますよ」と言われていて、確かにそうだったんです。
それに似ている感じがします。おそらく、「私はこんな感じで、人からもこういうふうに見えている」と、イメージが一致しているほうが流れに乗りやすいんじゃないかな。
それがだいたい定まってくるのは、50代、60代だと思います。だから、その前の年代で「自分はこう!」と決めつけすぎちゃうと「大丈夫?」って気もしますね。
——それまでは、自己イメージと他人からの評価がなかなか一致しないのですね。
吉本:心の中では、自分が知らない全然違う世界があるんだということをわかっていないと、すごく変な人になっちゃう。他者への拒絶になっちゃうんですよ。「私はこうしないけど、こういう人は世界にはいるんだろうな」といつも思ってないと、自分じゃないものイコール拒絶になっちゃう。
——それは心当たりがあります。自分で思っている自己イメージと他人からの評価の間に大きな乖離があると生きづらい気がします。それに「自分はこう思うけれど、そうではない考えもあるんだろうな」と想像する余裕がないとただの攻撃的な人になっちゃいますね。
吉本:自分とは違う世界があると想像するだけで余裕が生まれると思います。「許容」というところでしょうかね。
(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子、撮影:宇高尚弘)
「違うこと」とは、“その人の生き方の中で、今ここでするべきではない”こと——。
吉本ばななさんが、かけがえのない自分の人生を生きるために大切なことをつづっています。白井剛史(プリミ恥部)さんやCHIEさんとの対談、吉本さんへのお悩み相談も収録。定価:1,512円(税込)。
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情報元リンク: ウートピ
最初から“自分”を決めつけすぎないで…吉本ばななさんが女性たちに伝えたいこと