夏のかんかん照りが続くころは暑さ対策ばかりに気持ちが行きがちですが、女性の不調に詳しい臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長によると、「実のところ、女性の夏の疲れの悩みとして多いのは、夏バテとともに、『夏の冷え』が挙げられます」ということです。思いあたる女性は多いのではないでしょうか。そこで、夏の冷えの原因と対策について、尋ねてみました。
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低い温度設定の冷房に長時間身を置くことが原因
はじめに正木医師は、夏の冷えの原因について次のように指摘します。
「もっとも多いのは、自分で温度設定が調整できない冷房の効いた空間に長時間、身を置くことです。オフィスや通勤電車、街のショッピングセンターやスーパー、レストランでは、利用者に暑いと思われないために、低めに温度設定をしています。短時間なら快適に思う場所でも、長時間の滞在では、足からじわじわと冷えてきます。とくに毎日長時間を過ごすオフィスでは、冷えて当然だと想定しておきましょう。
次に、冷たいドリンクや食事です。熱中症対策として冷たいスポーツドリンクを適量飲むのは推奨されますが、朝から晩までいつも冷たいドリンク、冷たい麺類などの食事ばかりを食べていると、内臓が冷えます。すると、胃腸など消化器官から熱が奪われて、本来持っている消化吸収の機能がダウンし、夏の冷えによるつらい症状が生じます。
また、皮膚の露出度が高いファッションは冷えに直接的に影響します。冷房のもとでは皮膚の表面が冷気にさらされ続けるため、抹消血管の血流を悪化させます」
女性は筋肉の量が少ないので冷えやすい
「夏の冷え」は女性に多いと言うことですが、どうしてでしょうか。
「1日に消費するエネルギーの約60%は、筋肉が作り出しています。その筋肉量は、女性は男性より約10%少ないため、その分、熱を発しにくいわけです。
また、27歳の女性の患者さんの例ですが、オフィスのユニホームがひざ丈のスカートと半そでブラウスで、冷房設定温度が25度の中、終日デスクワークに従事していると言います。『スーツを着た男性の社員が多くて外出先から戻ってくる人は汗だくのため、冷房の設定温度を高くしてほしいとは言い出せない』と悩んでおられます。こういった環境の女性は多いと思われます」と正木医師。
室内外の気温差に自律神経が対応しきれずに疲れる
「夏の冷え」では、どういう症状が出るのでしょうか。正木医師は次のように挙げます。
「症状は夏バテや冬の冷えと同じで、けんたい感、眠気、疲労感、足のむくみ、下痢、便秘、頭痛、肩こり、腰痛、それに、手足は冷えるが顔は熱い冷えのぼせなどが特徴的です。夏バテでは体温が高くなりすぎで同様の症状が現れますが、冷えの場合は夏も冬も血流の悪化がおもな原因となります」
冷房による環境でなぜそのようなことになるのでしょうか。
「室内外の温度差が大きくて、体温調整をする自律神経が働ききれていないことによります。自律神経は手足の先まで、抹消の血管を開く、閉じるといった活動を調整していますが、対処できる温度差は、5~7度ぐらいと考えられています。
猛暑の日だと屋外では35度、室内が23度ぐらいで12度ほどの差があるでしょう。自律神経は、室内外の出入りのたびや冷たい飲食物で冷えた内臓に瞬時に対応しようとして、汗や体温、血圧、心拍、抹消血管の収縮や拡張を調整します。しかし、気温や湿度の差が大きいと対応しきれずに、複雑な不調が現れます」と正木医師。
すぐにできる夏の冷えケア「頭寒足熱+おなか」を守る
ここで正木医師に、セルフケアについて教えてもらいましょう。「冬と同じく、夏も冷えは足元からです。頭寒足熱とおなかの冷え予防を意識しましょう。オフィスやレストラン、飛行機、新幹線、長距離バスなど、冷房が強い場所で長時間滞在するときはとくに、次のことを実践してください。コツは、冷えたなと思う前に予防することです」(正木医師)
・靴下を履く
足元は心臓からもっとも遠いので、血流が行き届きにくいのです。また、体内の熱は足先から放熱されます。熱中症かも、と思うときはすぐに靴下を脱ぐべきですが、冷えが気になる場合は、足首から先を覆って熱を逃がさないようにする必要があります。ストッキングの上からでも着用しましょう。おしゃれではないからと履かない人は多いようですが、冷え対策の筆頭は靴下だと覚えておいてください。
・ひざ掛けを活用する
夏向きのひざ掛けを持ち歩き、冷気が強い場所ではさっと使ってください。靴下とひざ掛けで、冷気から下半身とおなかを守りましょう。
・カーディガンやショールを活用する
半袖は屋外では体温上昇を避けるために有用ですが、冷気のもとでは冷えをまねきます。腕の露出を避けるために、カーディガンやショールをひざ掛け同様に持ち歩き、いつでもどこでもさっと羽織りましょう。
・使い捨てカイロを貼る
夏にカイロ!? と驚かれるかもしれませんが、長時間、冷房空間にいる場合には意外にも暑くはなくて抜群に役に立ちます。近ごろは一年中、ドラッグストアで販売していることが多いようです。腰の後ろやおなか側のおへその上か下に貼るとよいでしょう。
・常に足を動かす
冷気が漂う空間で長時間座っている、じっとしていると、血流が悪化します。足首や手首、けんこう骨を回す、膝(ひざ)から下を水平に持ち上げてから降ろす、かかと落としをくり返す、足指でグーチョキパーをする、腹筋に力を入れてへこませる・ゆるめるをくり返すなど、その場でできるストレッチを実践しましょう。
・38~40度のぬるいお湯につかる
バスタイムをシャワーだけですませると、内臓まで温めることはできません。抹消血管の血流や代謝をアップするために、毎日面倒でも、ぬるめのお湯に5~10分ほどつかってください。数分ずつ2~3回に分けて合計でそのぐらいの時間をつかるのも有用です。
・就寝時は、夏向きの足首ウォーマーを着用する
猛暑のときは、熱中症を予防するために就寝中も冷房をつける必要があります。その際は、足元が冷えないように、薄手の足首ウォーマーを着用しましょう。
寝るときに靴下を履くと、足先から放熱がうまくされないため寝つきが悪くなる、目が覚める、眠りが浅くなることがあるので、足首だけを冷えから守るタイプを選びましょう。古い夏用靴下の足先を切って活用するのもお勧めです。就寝中の足のつりの予防にもなります。
夏の冷えの原因は、低い温度設定の冷房が効いた空間に長時間身を置くこと、冷たい飲食物で内臓を冷やすこと、それらによって抹消血管の血流が悪化することによるということです。頭寒足熱とおなかを冷気から守るように、自分でできることは今すぐ実践したいものです。
(構成・文 藤井 空 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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