今年は8月から9月にかけて豪雨、台風、地震と災害が次々と日本列島を襲いました。いざという時に本当に役に立つ「防災グッズ」とは? 「防災ガール」の創立者であり代表理事を務める田中美咲(たなか・みき)さんと、防災士の資格を持つ防災デザイナー・三島大世(みしま・たいせい)さんの対談後編では、新しい「防災グッズ」にあり方について考えていきます。
防災グッズってダサくない?
三島大世さん(以下、三島):前回は防災に対する考え方のお話をお聞きしましたが、既存の防災グッズについて田中さんはどうお考えですか。
田中美咲さん(以下、田中):率直に言って、市販されている防災グッズは非現実的かつダサいものが多いですよね。
三島:たしかに(笑)。だからこそ、僕らデザイナーが頑張らないといけないのですが、被災した方々に市販の防災グッズを使ったかどうかをお聞きしたところ、なんと使わなかったと答えた人が9割以上。既存のグッズはデザインの方向性が間違っていることの証明ですよね。
田中:性別や年齢、環境に関係なく普遍的な防災グッズ、という視点では使えるプロダクトの開発は難しいと思います。人によって備えるべき防災グッズが異なるのは当然。だけど、販売されているのは画一化されたものばかりです。
例えば、都心でバリバリ働いている女性であれば、自分でできる防災として普段からヒールを履かないという選択肢もありますが、デザインする側は「スーツにもマッチし、避難もしやすく、日常的に履けるかわいいデザインのパンプスがあったらどうだろう」など、両立できるアイデアを提供すべき。今後、防災グッズをデザインするうえで、ターゲットの細分化は必要な視点になってくるのではないでしょうか。
普段使いのかっこいい「防災グッズ」が欲しい
三島:「防災グッズにもなるけれど、普段から使える」、僕もこれはプロダクト化するための重要なキーワードだと思っています。実は大学の卒業制作で赤ちゃん用の防災バッグを作ったんです。白い人工皮(防炎・防水)を使い、普段からピクニックや旅行で使えるデザインにしました。
田中:かっこいいですね。市販の防災バッグは、日常では持ち歩きたくないデザインですからね(笑)。ちょっと厚みがありますね。
三島:災害時に不足するオムツやミルクなどはもちろん内蔵できますが、最大の特徴は広げると赤ちゃんのベッドになることです。混みあった避難所で誤って蹴られたり、ほこりが入ったりしないように設計してあります。万が一、浸水被害に遭ったときには、浮き輪にもなります。
田中:デザイン性にも機能性にも富んだ防災バックですね。
三島:ちょっと重量があるのでもう少し持ち運びがラクになるような改良は必要ですが、僕なりに「被災時も活躍するけれど、普段から使える」という防災バッグの概念を形にしました。
中身の防災グッズについては、実際に被災した方々にお話を聞いて、重要なのはなるべく水を使わない衛生用品ということがわかりました。そこで、顔や体のふき取りシートやドライシャンプーシート、歯磨きシートをキットにしたらどうだろうと考えました。これなら、3日程度の普段の旅行にも使えます。
田中:防災グッズを考えるうえで、「3日程度の旅行に持っていく」という視点はすごくいいと思います。日常で使えるものは、緊急時にも使い易いものですから。
三島:「防災ガール」でも、オリジナルのグッズを開発しているとお聞きしました。
田中:はい。ひとつは熊本県産のみの材料で作った無添加のレトルト玄米粥です。熊本地震で被災された女性の方々に「非常食はどうでしたか?」と聞いたところ、「食べなかった」と。「普段食べていないものは、緊急時にも食べたくない」という意見を聞いて、なるほどと思いました。
三島:普段から、できる限り体に良いものを取り入れたいと考えている女性は多いですよね。被災した時ほど、そう感じるはず。
田中:女性が普段から必要なものは、被災時にはより不足しがちになります。だから、「被災時」という発想からのスタートではなく、普段から常食できるうえに、被災したときにはより活躍するという設計が必要です。ターゲットの細分化というお話をしましたが、まさに食品においては多岐に及んだものが必要になってくると思います。
三島:今後防災グッズをデザインするうえで、その先にある販売ルートにも興味があるのですが、この商品は、紀伊国屋や成城石井、LOFTなど、売り場を限定して販売しているそうですね。
田中:ターゲットを都心で働く20〜30代の女性に絞っているので、防災グッズ売り場や非常食売り場ではなく、日用品として売りたいと考えています。
三島:やはり、「防災グッズにもなるけれど、普段から使える」が重要になるわけですね。
田中:もうひとつのオリジナルプロダクト、「パラコードミサンガ」も、機能性とファッション性を満たした商品です。普段はミサンガとして使えるように、色やデザインにもこだわりました。ファイヤースターターや笛もついているのですが、ヒモにパラシュートコードを使うことで防災グッズとしての機能を高めています。ほどけば2mの布になるので、怪我をしたときの止血や腕の固定、個室のない避難所では着替える場所にもなるし、物干しにもなる。知恵さえあればいろいろな使い方ができます。
三島:ヒモは役に立ちますよね。しかもデザインがかわいい。
「防災グッズ」もアップデートすべき
三島:最後に、今後こんな防災グッズがあったら便利というものがあれば教えてください。
田中:先ほど三島さんからもお話が出ましたが、水が使えずお風呂に入れなくなるケースがほとんどなので、においがストレスにならないグッズや、水で落とせるメイク用品の開発などは、普段から使えるし、被災時にも重宝すると思います。しかも、制汗剤やデオドラントを持ち歩くのではなく、最近は叩くといい香りがする柔軟剤がありますが、ああいった持ち物を増やさないための工夫も必要ですよね。
三島:なるほど、持ち物を増やさないためのグッズ、これはアイデアを考えるうえでおもしろいヒントですね。
田中:食品の場合は雪国に行くと多くのヒントがありますよ。冬は保存食がないと生きていけないので、漬け物文化が多岐にわたっているし、乾物の種類も豊富です。雪国はそれこそ日々防災なので、日常の暮らしにすでに防災の意識が浸透しています。
それと、建築物はまさにその地域の防災を反映しています。沖縄は台風が多いため屋根には重い瓦が使われているし、インドネシアの家は流される前提で作り直しやすい藁(わら)でできています。地域ごとに起こりやすい自然災害に対する意識がライフスタイルの中に根づいていて、災害が起こるたびに適応進化させてきたことがよくわかります。
三島:画一化された現在の防災グッズセットは、ひと昔前からアップデートも適応変化もしていない。だから、防災とデザインが現代の状況と混じり合っておらず、備えても使えないということですよね。課題は多々ありますが、防災グッズをデザインするうえで、新たなアイデアをたくさんいただきました。ぜひ、形にしていきたいです。
田中:進化した防災グッズ、しかもおしゃれなデザインを期待しています。銀色のリュックを背負って黄色いヘルメット被るのは嫌ですからね。普段から使えて、持っていて恥ずかしくない防災グッズを、ぜひお願いします!
(取材・文:塚本佳子、写真:大澤妹)
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情報元リンク: ウートピ
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