車も電車も(もちろん飛行機も)ないなかで、突然、徒歩で都道府県を越えて引っ越しをすることになったら——? そんな今では考えられないようなことが行われていた江戸前期。
その引っ越し(国替え)をテーマにした映画『引っ越し大名!』(犬童一心監督)が8月30日(金)に全国公開されます。
土橋章宏さんの時代小説『引っ越し大名三千里』を実写化した本作。幕府から7回もの国替えを命じられた実在の大名・松平直矩(まつだいら・なおのり)のエピソードを元に、藩士たちが知恵と工夫で難題を乗り越える物語が描かれます。無茶ぶり上司や、仲間、恋愛……中には現代を生きる私たちでも共感できるシーンがもりだくさん。
直矩役を演じた及川光博さんに、本作についてお話を聞きました。完成披露試写会の前に行われたこのインタビュー。「ゆかた似合いますね」というと即座に「分かります」と早速“ミッチー節”が飛び出しました。
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籠の中は、狭い!
——今回、お殿様という役柄ですが、直矩とご自身には何か共通点があると思いますか?
及川光博さん(以下、及川):松平直矩は実在した人物ですが、ご本人に会ったことは当然ないので、今回はエンタテインメント作品として役に向き合いました。ただ、チームをまとめる、リーダーであるというところは共通点と言えるかもしれませんね。
直矩よりも規模は相当小さいけれども、僕もある意味一国一城の主。ミュージシャンとして全国ツアーをするときには、最高のステージのために50人ほどのスタッフ・メンバーの士気を高めて統率し、まとめあげていく役割を担う。その気苦労は共通していると思います。とは言うけど、江戸時代の藩主との共通点なんて、まあなかなかないよね(笑)。
——たしかに。歴史に詳しい人でも、直矩や国替えのことを知っている人は少ないのではないかと思います。
及川:そうだよね。僕も最初に台本をもらって、「直矩」ってなんて読むんだろう、炬燵(こたつ)の、こ? なんて思いました。国替えも、数千人の大移動があるって時代劇では描かれない部分ですよね。例えば、織田信長の時代に前田利家が能登の藩主になる。そういう史実は知っていても、付随して何が行われていたか、道中までは描かれないじゃないですか。
——直矩のことはどのような人物だと思いますか?
及川:「悲運のお殿様」だと理解しました。父親に先立たれて7歳で家督を継いで、それから生涯に7回も国替えを命じられて。大変苦労した人だなと思います。劇中にも出てきますが、徒歩ですよ。徒歩。荷物を全て自分たちで持って、数千人が姫路から大分まで移動する。さらには、大分から山形もありますからね。
——過酷すぎる……。
及川:殿様は籠に乗って移動するのですが、まあ、狭い! あの籠に何日も乗って旅をしていたら、うんざりしますよね。そんな過酷な引っ越しのさまを楽しく描いているのが今作です。
品をよくするには?
——監督、原作者ともに、直矩役は及川さんにと熱烈オファーだったそうですね。
及川:僕、その話知らなかったんです。「早く言ってよ!」って(笑)。僕はデビューした当初から中性的と言われていますけれども……。ああ、そうだ。男色ではないとまずはっきり否定させていただきます(笑)。
——男色のお殿様役でしたからね。
及川:ええ。ただ、オファーを受けたときには、謎めいたというか、自分に備わっているミステリアスな魅力をフルに活用したいなと思いましたね。自分で言うのもなんですが(笑)。
——王子キャラとしても有名な及川さんですから、お殿様役には自信が?
及川:自信はあったかもしれない。会社員の世界で言えば、お殿様は平社員ではないですよね。画面上でその説得力を出すには何が必要かと考えたら、僕は気品だと思った。ギャグであれ、真剣であれ僕は気品を意識して活動してきたので、それが伝わってオファーに繋がったのならば、嬉しいことですね。
——気品とはどうすれば身につくものなのでしょうか?
及川:「多くの人のために自分を犠牲にできる、これが上品であって、自分のために人を犠牲にする、それが下品である」と。人から聞いた話ではありますが、なるほどと思いましたね。
——ちょっと難しい。崇高な人間であれ、ということですか?
及川:というよりも……、忍耐力と笑顔かな。我慢できなくて、居酒屋で店員に怒鳴るとか、横柄な態度を取る人も多いじゃないですか。僕の話をするならば、当然、大声を出したりもしないし、店員さんに対しても「ありがとう」と笑顔で声をかけるようにしています。そういう程度の行動ですけれども。
それから、リーダーを任されるような場面では求心力を大切にしています。カリスマ性があれば人はついてくるのかもしれませんが、全てのリーダーにカリスマ性があるとは思えない。じゃあ、どうするか。やっぱり、多くの人の心を動かす情熱。それを的確に表現する求心力が必要なのではないかと思います。
——カリスマ性は持って生まれたものでも、求心力はその後の自分の努力次第で?
及川:そうです。僕なりに言わせてもらえば、愛される努力。それがないリーダーって結局は陰口を叩かれたり、派閥によって足元をすくわれたりということがあるのではないかと。会社勤めをしたことはないけれども、高校時代に運動部のキャプテンをしていた経験はあるので、通じるものはあると思う。
「笑顔で毒を吐く」
——愛される努力……。愛されることに執着してしまって、苦しんでいる人も多い印象です。“ミッチー流”の正しい愛される努力について聞かせてください。
及川:そうだな……。間違えると媚びへつらう人生になりかねないよね。あと、サービス過剰になると心が摩耗していく。
——あるある……。
及川:あるある……。さて。愛されたいと願うのなら、まず自分から愛するっていうことですかね。例えば、己の個性を認めてもらいたいと願うならば、相手の個性も認めなくてはね、という話。そして清潔感。表情筋も大事。やっぱりしかめっ面で人の陰口ばかりを言っていたらそういう顔になります。表情筋は形状記憶していくので。人の陰口、悪口を言うにしても、微笑みながら。笑顔で毒を吐く!(笑)。
——笑顔で毒を!
及川:女子たち、表情筋の話ですよ。
——キリッと言った!(笑)。
及川:ふふふ。
*明日公開の後編では、50代になった及川さんが今思うことについて語っていただきます。
■作品紹介
『引っ越し大名!』
監督:犬童一心
原作・脚本:土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
出演:星野源 高橋一生 高畑充希 小澤征悦 濱田岳 西村まさ彦 松重豊 及川光博 ほか
配給:松竹 クレジット:ⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
公式サイト:http://hikkoshi-movie.jp
公式Twitter:@hikkoshi_movie
(取材・文:安次富陽子、撮影:大澤妹)
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情報元リンク: ウートピ
映画『引っ越し大名!』で悲運のお殿様を好演 ミッチー流、愛される努力とは?