体温を超える気温、災害と言われる熱波にさらされる日が年々増える日本の夏。多くの人が夏バテや体調不良に苦しんでいるのではないでしょうか。
「その疲れの原因は、実は目から入る紫外線であることが多いのです。紫外線は肌のダメージだけではなく、脳疲労をもたらす大きな危険因子です」と指摘するのは、ベストセラー『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)シリーズの著者で、大阪市立大学医学部大学院特任教授の梶本修身(かじもと・おさみ)医師。
詳しいお話を聞いてみました。
紫外線が目から入って脳疲労を引き起こす
紫外線といえば、シミやシワの元、美肌の大敵として多くの女性がケアの必要性を理解しています。外出時には、紫外線カットのクリームや日傘、衣類などで対策には万全を期しているつもりですが、梶本医師は、「それでは、紫外線の悪影響に対して十分にケアできているとはいえません。重要な点を見逃しています」として、次のように説明します。
「紫外線の肌へのダメージは、日焼けやシミ、ソバカス、ツヤやハリの劣化となって現れるので見た目にわかりやすく、対策法も広まっています。しかし、紫外線の深刻な影響は、脳疲労をもたらすことにあります。こういった紫外線によるダメージを「光老化」と呼びますが、そのとおり、紫外線は老化を促すのです。
夏バテのみならず極寒の日でも、仕事の残業でも、対人関係による精神的ストレスでも、激しい運動をしたときでも、われわれが感じるすべての疲労の原因は脳にあります」
そして、疲労の正体については、
「脳で活性酸素が大量に発生し、神経細胞(ニューロン)が酸化ストレスを受けることです。脳の細胞がサビるとイメージするとわかりやすいでしょう。
紫外線が体に吸収されると、体内では活性酸素が生じます。紫外線は動物にとって、自分の遺伝子を壊す大敵であり、目は紫外線の侵入をいち早く察知する重要な器官なのです。実際、われわれは太陽の光を長時間直視することはできません。一瞬でも見ると、目や頭が疲れるでしょう」と梶本医師。
つまり、目が無防備では、夏バテ、疲労に拍車がかかるということです。
海で泳がなくてもぐったりするのは紫外線が原因
そういえば、海やプールに出かけたとき、泳がずにビーチで寝ているだけでもぐったりと疲れたり、眠気に襲われたりすることがあります。梶本医師は、こう説明を続けます。
「それは紫外線が原因です。たとえば、マラソンランナーやアスリートらは屋外での運動時にはサングラスをしていますが、その目的はまぶしさを軽減することだけでなく、目から入る紫外線をブロックして脳疲労を防ぎ、パフォーマンスを向上させることにあります。
目から紫外線が入ると、角膜で活性酸素が大量に発生して炎症反応が起こります。すると、『紫外線が吸収されました!』という警報が脳に送られます。脳は、戦うためにメラノサイトという色素細胞を活性化し、日焼けやシミになる茶褐色の色素(メラニン)を分泌して日焼けをつくり、表皮の細胞を守ります。
つまり、日焼けは、紫外線によるダメージから表皮を守る生体反応 ですが、この臨戦態勢をとることが脳にとって大きな疲労となるため、紫外線を浴び続けると疲労は蓄積されていくのです」
さらに、日焼けについて、
「これらの反応から、目に紫外線が入ると、紫外線を浴びていないほかの部位の肌まで日焼けやシミができることになります」と梶本医師。
光老化とは、脳にも全身の肌にも、想像以上に激しいダメージであるようです。
紫外線99%以上カットのグラス、日傘、帽子は必須
「目から侵入する紫外線をいかに防ぐかが、夏バテ対策のコツのひとつです」と話す梶本医師に、そのポイントを教えてもらいましょう。
(1) 紫外線は一年中、どんな時間帯でも降りそそいでいる
紫外線には、初夏から盛夏にかけて、日差しの強い日中だけに注意が向きがちですが、朝夕や曇り、冬でも、太陽が出ている間はずっと降りそそいでいます。そこで季節に関わらず、「紫外線99%以上カット」のメガネやサングラスの着用は必須です。選び方は(3)で説明します。紫外線の量は、朝や夕方、冬は減りますが、このころは低い角度からも差し込むので、目から入りやすくなります。
(2)日影や屋内にも降り注いでいる
紫外線はアスファルトやガラスに反射、散乱する性質があるので、日影でも降り注いでいることに注意してください。
また、地上に降り注ぐ紫外線にはUVA(紫外線A波)とUVB(紫外線B波)の2種類があります。UVAの方は波長が長いのでガラスを通過し、屋内でも光が入る部分では紫外線を浴びていることになります。紫外線カット99%以上のカーテンやブラインドで防ぎましょう。
(3)メガネ・サングラスは「紫外線カット99.9%以上」で「薄い色」を選ぶ
メガネやサングラスは必ず、紫外線カット率99.9%以上、紫外線透過率0.1%以下のタイプを着用しましょう。
色は薄いめを選びます。濃い方が紫外線カットになると思っている人は多いのですが、それは間違いです。目には、暗いところでは瞳孔(どうこう。黒い瞳の部分)を開いてより多くの光を取り込み、明るいところでは瞳孔を小さくして取り込む光の量を減らすというしくみがあります。濃い色をかけるとより多くの紫外線が網膜まで達することになって危険です。
また、目が長く紫外線にさらされると、中高年がなりやすい「白内障」という目の病気の原因になることもわかっています。
さらに、レンズと顔のすき間から反射や乱射の紫外線が入るので、できるだけ顔に密着したタイプがより安全です。
(4)コンタクトレンズは紫外線カット用でも不十分
コンタクトレンズの紫外線カットタイプを装着していても、実は、レンズで覆われている部分以外の白目から吸収される紫外線は防ぐことができません。(3)で説明したメガネやサングラスを併用しましょう。
(5)紫外線カット99%以上の日傘、帽子は必須
メガネやサングラスと顔にはすきまがあり、紫外線はどうしても入ってきます。また、肌を守る必要もあるため、日傘や帽子の紫外線カット99%以上のタイプを着用して防いでください。
さらに梶本医師は、肌への予防にも注意を促します。
「紫外線対策は、脳疲労を抑えるため。目と肌からの侵入の両方に気を配る必要があります。目のケアを十分にすることに加えて、肌には日焼け止め用のクリームを塗り、紫外線カット用の長そでのウエアを活用して守りましょう」
脳のダメージは目には見えないだけに、衝撃的なお話しでした。夏バテ、脳疲労を予防するには、肌だけではなく目を紫外線から守る必要があるということです。紫外線は一年中、降り注いでいることを忘れずに、外出時は効用があるメガネかサングラス、日傘、帽子、ウエアを着用して、肌にはクリームを塗ることを生活習慣にしたいものです。
(取材・文 ふくいみちこ・藤井 空 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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