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料理が先で原稿は後から 『カレンの台所』制作の意外なポイント

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「やれやれとボッタリくつろぐ鶏肉に、上からいくつかかけ流していきます。まずリーダーとして先に流れるのは、お醤油を全員に気づかれるくらいの量、お酒も同じく全員気づく量、乾燥しきった粒に見える鶏ガラスープの素を、こんな量で味するか? との程度にふります」

『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)より

『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)より

これは、モデルでタレントの滝沢カレンさんのレシピ本『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)に掲載された、鶏の唐揚げのレシピの一部です。

一事が万事この調子で、細かな分量や端的な工程なんて出てきません。

まさに規格外のレシピ本ですが、4月7日に発売されるや否や大きな反響を呼び、現在15万部を超える大ヒットを記録中。

どのようにして、このユニークな本ができたのでしょうか。サンクチュアリ出版でこの本の企画・編集を担当した大川美帆さんに、見どころや制作秘話を伺いました。全3回の2回目となる今回は、本を作る過程を中心に聞きました。

料理に正解はない

——前回、この本は料理をしない人に手にとってほしいという思いを伺いました。でも、構成が独特すぎて料理初心者向けではないんじゃないかとも思うんです。分量も明記されていませんし、手順も端的に書かれているわけではないですよね。

大川美帆さん(以下、大川):おっしゃるとおりです。分量や手順が簡単に書かれているほうが絶対にわかりやすい。でも思い切って、それはあえて載せないと決めてつくりました。普通のレシピ本って、お手本通りに料理をつくるのがゴール。でも、「料理に正解はない」というのがカレンさんの考え方なんです。答えのない料理を「自分の感覚で」楽しんでもらうことを、この本のゴールに決めました。だからあえて普通のレシピ本のルールは取っ払ってしまおうと。

——なるほど。物語みたいになっているのもそういう理由ですか?

大川:はい、カレンさんの頭の中をなるべくそのまま紙面にしたいと思いました。カレンさんがインスタグラムにあげていたレシピに、「絵本みたいですね」「食材たちの物語が、絵本みたいに目に浮かぶ」というようなコメントがあったので、イラストを入れて絵本風に仕上げました。

——食材たちのイラスト、かわいいですよね。巻末に、メニューごとに食材や調味料の一覧がついていますが、それらを「CAST&STAFF」として紹介しているのも面白かったです。そうか、食材たちは物語のキャスト(登場人物)で、調味料やキッチンペーパーなどのアイテムはスタッフなのかと(笑)。

大川:そうです、キャストとスタッフなんです(笑)。ちなみにあのページは料理初心者には便利ですよ。私も初心者なのでわかるのですが、たとえばアルミホイルを持ってないのに、いきなり必要になることがあるじゃないですか。そういうことがないよう、必要なものは全部あのページに書き出してあります。買い物に行く前に見ておけば、買い忘れも防げます

——掲載されている30のレシピは、どういうふうにセレクトしたんですか? カニクリームコロッケとか、ちょっと難しいのも入っていますが。

大川:カレンさんが家で普段よくつくっているものと、これを機に挑戦してみたいもののリストをもらって、バランスを見て話し合いながらラインナップを決めました。けっこうレベルの高いレシピもありますけど、そういうお料理のほうがカレンさんの文章の面白さが活かされるので、あえてちょっとだけ入れました。

『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)より

収録されているアクアパッツァ『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)より

食材たちの気持ちを文章に

——ちなみに(誤字や脱字を正確な文字に直したりする役割の)校正さんはかなり困惑したんじゃないでしょうか。

大川:誤字脱字はもちろん校正していますが、いわゆる正しい日本語ではないけれど、あえて残しているものもあります。完全に校正してしまったら、この本の良さはなくなってしまうと思ったので。校正さんもその趣旨を理解してくれていました。さすがに料理初心者にこれは想像できないんじゃないかという表現については、ブレストしながら違う表現に変えてもらったりしましたが、基本はカレンさんにおまかせです。

——料理はすべてカレンさんが作っているのですか?

大川:はい。今回、撮影したものは全部作っていただきました。それでビックリしたんですけど、普通のレシピ本って、まず料理家さんがレシピを書いて、そのレシピをもとに撮影するのが基本だと思うのですが、カレンさんの場合は逆なんです。料理を作って、完成して食べながら「あのとき玉ねぎはどんな感じだったかな?」と、食材たちの気持ちを思い出してレシピを書いていくそうなんです。

——えっ!?

大川:今回、メニュー数が多かったので何日間かかけて撮影したんですけど、1日に何種類ものお料理を手際よくパパパパっと作ってくださるんです。それで撮影が終わったら、その場で原稿を書いていくんです。その場じゃないと、そのときの気持ちを忘れてしまうからって。食材たちとどんな会話をしたかを思い出しながら、基本はその場で書いていただく流れでした。

——へえええええ!!

大川:瞬間瞬間に湧き出る言葉を、すごいスピードで書かれていて、ほんとうにビックリしました。

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料理は失敗あってこそ

——いやあ、驚きました。レシピはあと。調理が先。

大川:私たちスタッフはどんなレシピかわからないまま、カレンさんの仕切りで調理がスタートするんです。そして、どんどん手際よく料理ができていく。とても面白い体験でした。

——現場の仕切りまで!

大川:そうなんです。メニュー選びから調理、原稿、そしてデザインやイラストをどうするかという提案も含めて、イチからカレンさんが携わってくださいました。頭の中で、「こういうふうにしたい」というイメージが明確にある方なんです。だから、製作する側としてもありがたいし、すごくやりやすかったです。

——楽しそう……。

大川:カレンさんの手料理を食べられるのも楽しかったです。全部すごくおいしくて。

——カレンさん、料理の知識がすごいですよね。

大川:本当にすごい。独学で、基本的に自分で試しながらできるようになっていたとおっしゃっていました。ネットなども見ながら自分でいろいろ試して、「こうやって失敗したから次はこうしよう」という経験を蓄積されてきたそうです。

——やっぱり失敗して当たり前なんですよね。レシピ本って「正しく作る」ことが求められていますが、別に失敗したっていい。次回はその点についてお聞きしたいと思います。

(文:須田奈津妃、聞き手、編集:安次富陽子)

情報元リンク: ウートピ
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