『週刊SPA!』にて2011年に連載がスタートしたマンガ『アラサーちゃん』。主人公の“アラサーちゃん”はじめ、“ゆるふわちゃん”“ヤリマンちゃん”“オラオラくん”“文系くん”など個性的なキャラクターに自分や自分の周りの人を投影し、思わず引き込まれていったという人も多いのではないでしょうか。
2019年11月、約8年の連載期間を経て、ついに最終巻が刊行。自身もアラサー期間を漫画とともにかけぬけ、現在35歳になった、著者の峰なゆかさんにお話をうかがいました。
「妊娠してませんでした☆」で済まないのが現実
——約8年の連載期間を経て、ついに最終巻を迎えた『アラサーちゃん』ですが、書き終えての率直な感想というか、完走してみていかがですか?
峰なゆかさん(以下、峰):毎週7本ネタを出さなくていいっていうのが、本当に最高です!
——即答ですね(笑)。やっぱり、ネタ出しは大変でした?
峰:そうですね、常にネタを考えていないと間に合わないので……。プレッシャーでうつマンガを描き始めるところでした。
——『アラサーちゃん』の登場人物、“アラサーちゃん”も“ゆるふわちゃん”も“ヤリマンちゃん”も、病み期がありましたね。“ヤリマンちゃん”の病み方は、「あーわかる」というリアルさがありました。
峰:ずっと長く病んでいたのが“ヤリマンちゃん”なんですけど、本当のうつを患っている人から怒られそうなカジュアルな病み方で。読者も誰も同情しない病み方というのかな。“ゆるふわちゃん”が病んだときは、「ゆるふわちゃん、大丈夫なの?」と心配の声が寄せられたのですが、“ヤリマンちゃん”はキャラ的に、隠し切れない生命力みたいなのがにじみ出ていたからかな? そのおかげか、あまり暗くなく描けて、そこは良かったかなとは思います。
——テーマ的に重くなりがちなところをポップに描いてらっしゃるのはすごいと思いました。特に“サバサバちゃん”が妊娠して中絶する回は、「え……。こんなに少ないコマ数で中絶って描けるものなの……? こんなにライトに?」って。
峰:ほんとですか? 軽かったですか?
——はい。「過ぎたことより前を向いていきましょう」みたいな落としどころにしたり、修羅場エンタメにしたりするのが定石な中、『アラサーちゃん』ならではの見せ方はこれか、と思いました。ちなみに、モテや結婚だけでなく、妊娠、中絶もテーマに選んだのはなぜですか?
峰:アラサー女子のリアルだからです。そこは外せないと思いました。私、昔から周りの人に「妊娠した」って相談されることがめちゃくちゃ多かったんですよ。『アラサーちゃん』の中でネタとしても描いたんですけど、「たぶん峰さんなら1、2回堕胎してるだろう」みたいな感じで相談されて(苦笑)。
話を聞いていると、中絶後にまた彼氏とセックスしたとか、しかも中絶後のセックスでまた避妊してないとか、そういう話も多くて! 世の中に出てくる妊娠・中絶の話って、あまりそこまで描かないじゃないですか。「結局、妊娠してませんでしたー☆ ちゃんちゃん♪」で終わるのではなくて、妊娠・中絶は女の人にとってリスクだし、ダメな男とは簡単には切れない。そういうことを描きたいと思ったんですよね。
結婚も離婚も気軽に考えてもいいと思えた
——“専業ちゃん”が妊娠中にもかかわらず離婚したのには驚きました。専業主婦は経済的な面からなかなか離婚できないと聞きますが、“専業ちゃん”に離婚を決断させたのはなぜですか?
峰:最初は離婚させるところまでは考えてなかったのですが、連載を続ける中で、私の周囲に離婚する人がけっこういたんですよ。担当編集さんも連載中の10年間に結婚して離婚して。中には再婚する人もいましたね。それで、「(離婚を)軽く選んでもいいかも」みたいな気持ちになったのかもしれません。
——結婚も離婚も、重く考えすぎて枷にするより、気軽に考えたほうがいいかもしれないですね。
峰:そうなんです。結婚も「絶対に失敗できない」とか「絶対にこの人と幸せになって、死ぬまで一緒に過ごさなきゃいけない」と思っているとなかなかしづらいですけど、「まあ、ダメだったら離婚すればいいよね」って感じだったら、気軽に結婚したりしなかったりを選べるじゃないですか。
結婚したいのにできない人って結婚後のイメージがワンパターンしかないような気がします。だからまず、うまくいかなかったら離婚してもいいやってハードルを下げる。そうすると結婚のハードルも下がるのではないでしょうか。
——“アラサーちゃん”のお母さんも離婚を考えている節がちょっとありますよね。女性好きなお父さんのせいで。描かれがちな母と娘の確執や、アルハラ・モラハラ・DVの毒親ではなく、お父さんの(家庭を壊すつもりのない)不倫をクローズアップしたのは、何か理由があるんですか?
峰:そもそも私、親が出てこない話があまり好きじゃなくて。(ハーレム系作品の)主人公の両親が海外出張中みたいな設定が嫌いなんです。だから、もともと“アラサーちゃん”のお父さんのキャラクター設定は初期段階からあって、最終話までに出せてよかったなと思っています。
——見事なまでの女好きっぷりでしたね。「気色悪っ」て思ってしまいました。
峰:私はそんなにクズだとは思ってないんですよ。女好きという筋が通っているから。私がクズだと思うのは、自分の欲望すらちゃんと自分で理解できていない人。
たとえば、経験が豊富なことが(男として)優位であると考える人は、周りにも「もっと女とヤリなよ。経験値が上がらないよ」なんて言いますが、本当にセックスがしたい人は競合相手をむやみに増やさないはずなんですよ。
——確かに。経験人数を競いたい人って、ポケモンでも集めているのかなって思うことがあります。レアなポケモンをゲットしたとか、数が多いとか、そういうことを半径数メートルの社会の中で誇るためにナンパしたりモテに勤しんだりして、本当はセックスが好きじゃないのかも。
峰:そうなんですよね。
フェミニズムは描かざるを得ない
——最終巻で驚いたのは、“ヤリマンちゃん”がフェミニストになったことでした。変わったなぁ……って。
峰:“ヤリマンちゃん”はわかりやすく変化しているんですけど、私としては“文系くん”の変化にも気づいてほしい。描いているうちに気持ち悪さがどんどん出てきて(苦笑)。
——あー。最初は表面的なところしか見えなかったから気持ち悪さが薄かったのに、だんだん本性が出てきちゃったっていう。
峰:そう、そうです!
——“文系くん”については読み返してみます。“ヤリマンちゃん”をフェミニストに「キャラ変」したのには、どういう意図があったんでしょう?
峰:連載を続けるうちに、フェミニズムについては絶対入れなくてはいけないと思っていたんです。中絶と同じで、アラサー女性の大きなテーマですよね。フェミニズムに賛同している人でも、そうでない人でも、アラサー女性が集まればそういう話題がめっちゃ出てくるから、それをないフリして描かないのはよくないと思って。
それで、じゃあ誰が一番フェミニストに近いんだろうなって考えたときに、“ヤリマンちゃん”だなって、スッと思ったんですよね。
——フェミニズムについて描くことで、男性読者からの反応はどうでしたか? 「俺たちの“なゆゆ”(峰さんの愛称)が、フェミ化してしまった!」とか、そういうのはなかったですか?
峰:“ヤリマンちゃん”の主張を、私の主張としてネタにして描いていたら、たぶんそういう反発もあったんでしょうけど、そういうわけでもないので。ただまあ、『アラサーちゃん』嫌いな男の人は多いですよね。「なんか責められている感じがする」とか。
でも、その責められている感じを「ほんとに男の人はダメだよね」って言われてると解釈して喜ぶ人も多いですよ。
——えっ気持ち悪い……。
峰:「それ、読み方間違ってるよ!」と思うんですけど、そういう性癖の方の枠はけっこう大きいので、まあ単行本買ってくれるのならオッケーって感じですよ(笑)。
——峰さん、たくましい……。
(取材・文:須田奈津妃、撮影:面川雄大、編集:安次富陽子)
- 壇蜜型女子がオフィスにいたら…「セクシー」という鎧は彼女の何を守っているのか
- 映画『パッドマン』がインドから日本にやってきた経緯を聞いてみた
- 男と女の間のあれこれ…#MeTooよりファミレスの空気感で伝えたい【鈴木涼美】
- 「正しさ」から解放されないと恋愛なんてできない…【鈴木涼美】
- 男にも女にも平等な扱いはできないけどフェアではいたい【鈴木涼美】
- 「夫の実家に行くのがつらい問題」とは? “フェミ友”と語る
情報元リンク: ウートピ
彼女が『アラサーちゃん』で中絶とフェミニズムを描いた理由