「周りに求められるまま振舞っていても、時代はよくなりません」
柚木麻子さんの小説『マジカルグランマ』(朝日新聞出版)に登場するのは「理想の日本のおばあちゃん」だ。元女優の主人公・正子は75歳。きれいな白髪&着物姿に柔和な笑顔を浮かべて芸能界に再デビューするものの夫の死をきっかけに仮面夫婦だったことがバレ、世間から手のひらを返すような仕打ちを受ける……。
冒頭のセリフは「理想のおばあちゃん(マジカルグランマ)」から脱皮し、本当に自分が望む人生を突進する正子の言葉。
私たちもいつの間にか、「母親らしく」「老人らしく」「女らしく」と、他者が望む「~らしく」という理想像を引き受けて、周りや世間に都合良く振る舞ってはいないだろうか?
これまでも、今の社会や女性が直面している問題を物語に落とし込んで描いてきた柚木さんに、3回にわたってお話を聞きました。
ジャンヌ・ダルクが高枕で寝ている話が必要
——柚木さんの作品には、今の社会や女性が直面している問題を物語に落とし込んだものが多いですよね。文学を通して問題提起をしなければという義務感のようなものをお持ちなのですか?
柚木麻子さん(以下、柚木):やっぱり、110位だからじゃないでしょうか。男女格差指数110位の青空が今日も広がっているから、目がいってしまう。
『82年生まれ、キム・ジヨン』が売れましたが、日本でも私と同世代や上の世代の女性作家は、何かしらキム・ジヨン的なことを書いてらっしゃる気がします。声高にフェミニズムを謳(うた)っていない方でもそう。「怒り」みたいなものが共通認識として、恋愛小説を書いている方にもあるし、みんなつながっている。
今回の直木賞の候補になった方たちは(柚木さんも『マジカルグランマ』で第161回同賞の候補に)、皆そういう怒りみたいなものを秘めて書いているなという気はしているので、お会いしたことはないけれど、みんな同志だと思っています。
——最近は、特にハリウッド映画などエンターテインメントの分野で強い女性キャラクターが目立つようになりました。
柚木:弱い女性が散々ひどい目に遭う話は世界に1億個ぐらいあって、それに対して強い女性の話は200個ぐらいしかないので、まだまだマイノリティだと思いますよ。ただ、強い女性は目立つので「最近、女性が強くなったよね」と言われるけど、「強い女性が勝利して死なない話」というのは、まだ少ない。歴史上、強い女性はだいたい死んでるんです。
——ジャンヌ・ダルクみたいに焼かれたり……。
柚木:みんなのために死ぬとか。強い女性が勝ちを収めたうえで、高枕でぐーぐー寝てる話はまだすごく少ないと思います。だから私は、そういう話を書きたいんです。
——強い女性ヒーローが主役になるとメディアが取り上げるから目立ってしまうだけ。
柚木:まだ全然少ないし、しつこく、しつこく言ってもまだ全然足りないと思いますよ。
うるさいくらい世界の中心で“フェミ”を叫んでいい
——東京にいて、こういうインタビューなどをやらせてもらっていると、「社会は大きく変わってきてるんだな」という錯覚をするのですが、地方に行くと旧態依然としていて驚くことがあります。
柚木:地方都市の同族企業とか、農家の専業主婦、1970年代くらいとちっとも変わってなかったりしますよね。
私の周りで「この人、すごいな」と思うフェミニストって、九州出身の方が多いんですよ。冠婚葬祭の時に母親たちが死ぬほど働いていたりした光景が目に焼き付いていて、女性文学に救われてきたという人が多い。
私も女性の作品ばかり読んでいると「世の中良くなったし、もう言うことないや」と思っちゃうけど、それは近視眼的な話なので、「もう男女差別なんてない」と言ってる人って、半径5メートルくらいの友達としか会ってないのではないかなと思います。
だから、マスコミがもっとブーブー言わないとダメですよ。隅々まで届かないですよ。
——朝ドラのヒロインもシニアとかフェミニストにすればいいのに。
柚木:めちゃめちゃフェミのものを「うるせえな!」と言われるくらい放送しないとダメなんじゃないですかね。
だから、『マジカルグランマ』は「月9」ドラマにするべきなんですよ。「恋に仕事に手いっぱいの29歳、がけっぷち!」じゃなくて、「月9最高齢、75歳!年金に雇用にがけっぷち!」みたいなヒロインじゃないとダメ。渋谷109のシリンダー広告に主演・吉行和子さんが出て、サカナクションとかが主題歌じゃないと!
「月9」レベル、CMレベル、電通レベルから変わらないといけない。言って言い過ぎることはないと思うんですよね。
(聞き手:新田理恵)
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情報元リンク: ウートピ
強い女がまだまだ足りない…月9、CM、電通レベルから変わらないといけない