逆流性食道炎の悩みを訴える読者の声にお応えし、そのセルフケアの疑問などについて、兵庫医科大学病院の副院長で消化器病指導医・専門医、内科指導医の三輪洋人(みわ・ひろと)医師に連載でお話しを聞いています。
前回の第9回では、のどがイガイガする、耳が痛い、鼻水がのどに流れる、就寝時に苦しいといった謎の症状と逆流性食道炎がどう関係するのかについてお尋ねしました。今回はそのうち、就寝時のセルフケアについてレクチャーしてもらいましょう。なお、これまでの内容は文末のタイトル一覧からリンク先の記事を参考にしてください。
就寝中の姿勢を変えて逆流を軽減
——前回、逆流性食道炎は睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群と影響し合うことがあるということでした。少しでも悪影響を軽減するセルフケア法はありますか。
三輪医師:就寝中は、1日のうちで食後2~3時間と同じぐらいに逆流性食道炎が起こりやすいタイミングです。寝ているときに酸っぱいものが食道やのど、口まで込み上げてきて目が覚める、咳(せき)が出るなどでつらいことがあります。寝るときの姿勢などについて、次の4つのことを実践してください。
(1)寝るときは上半身を高くする
姿勢によって胃が圧迫されると、胃酸の逆流が起こりやすくなります。極端な例ですが、逆立ちすると重力で胃から胸、のど元へと胃が逆流することをイメージしてください。
寝ぐせで背中が丸まっていると、胃が圧迫されて胃酸が逆流する可能性が高くなります。それを避けるために、腰から頭に向かって徐々に傾斜をつけて高くして寝てください。バスタオルの積み重ね、寝具やクッションを利用、マットを折り曲げるなど工夫しましょう。リクライニングができるベッドなら上半身を少し起こしてください。
ただし、高さがある枕を使用するとのどから上が高くなるだけなのと、のどがつまるなどすると寝苦しいのでNGです。傾斜をつけることがポイントです。
どれぐらいの高さがいいかというと、床から一番高い頭部までが10~20センチ、角度なら15度ぐらいという目安はありますが、熟睡するためにも自分であれこれ試してみて、ちょうど良い高さを見つけましょう。
(2)左側を下にして寝る
横向きに寝る場合、右側を下にするか左側を下にするかは不調別に多様な意見がありますが、逆流性食道炎の場合は、胃の形を考えて左側を下にすることが推奨されています。
胃は食道からつながって袋状になっていますが、約4分の3は体の中心より左側に寄っています。そのため、胃の内容物は左側のほうがたまるスペースが広く、左を下にする方が逆流が軽減すると考えられています。
一方、右を下にして寝ると、食道と胃の境界の少し上にある下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん。第1回参照。食べ物を飲み込むとこれが開いて胃に届くようにする。通常は閉じている)の圧が低下して開きやすくなるともいわれます。
腰から頭部まで傾斜をつけた枕や、横向きに安定して寝やすい抱き枕が市販されているので試してみるのも良いでしょう。
(3)うつぶせで寝るのはNG
うつぶせで寝ると、自分の体重による重力で胃やおなかが圧迫されます。すると、(2)で話した下部食道括約筋がゆるんで胃酸が逆流しやすくなります。うつぶせで寝るのは避けて、あおむけか、(2)の左側を下にして寝るのが良いでしょう。
(4)締め付けがきついパジャマは避ける
小さくなったパジャマやウエストがきついズボンなどは、胃やおなかを圧迫して胃酸の逆流をまねくことがあります。パジャマにはゆったりしたタイプを選んでください。
深夜に胸やけで目が覚める
——では逆に考えると、就寝中に「胸やけや口が酸っぱくて目が覚める」場合は、逆流性食道炎の疑いがあるということでしょうか。
三輪医師:そうです。思い当たるときは、早めに消化器内科や内科を受診してください。そして、前回も触れましたが重要なことなのでくり返しますと、睡眠時無呼吸症候群の人は逆流性食道炎を発症する場合が非常に多いことがわかかっています。治療の現場では、睡眠時無呼吸症候群を治療すると逆流性食道炎も改善することをしばしば経験します。
睡眠時無呼吸症候群は日中の眠気がひどいなどで仕事や生活に影響をおよぼすだけでなく、心臓疾患や脳梗塞(こうそく)、糖尿病などのリスクを高めるので、気になる人はぜひ専門医を受診してください。
そして、就寝中の逆流性食道炎を改善するにはまず、寝る前3時間は食事をしない、お酒やコーヒー、緑茶、紅茶などカフェインが豊富に含まれる刺激的な飲み物を避けてください。
また、よく眠れるように、休日でも寝る時間を毎日同じにして規則性をキープする、寝る直前までスマートフォンやパソコンの操作、テレビを観るなどで光による脳への刺激を避けるなど、生活習慣を見直すことが重要です。
聞き手によるまとめ
寝ているときに、吐き気や胸やけ、口の酸っぱさなどで目が覚めるというのはとてもつらいことでしょう。しかし、逆流性食道炎の場合は姿勢次第でそれらの軽減が可能ということです。上半身を高くする、左向きで寝るなど、すぐに試してみてください。
次回・第11回は、逆流性食道炎を改善するための運動について紹介します。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)
■これまでの連載を読む
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【第2回】太りぎみ、食べ過ぎ、猫背…逆流性食道炎の原因を消化器病専門医に聞く
【第3回】炎症がないのに痛みがある!? 「非びらん性胃食道逆流症」とは
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情報元リンク: ウートピ
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