平成最後の夏、思い思いの夏を過ごしていると思います。もっと記憶に残る時間を過ごしたい! という人は、「女子マンガ」を読んでみるのはいかがでしょうか。
子どもの頃に憧れた王子様が迎えに来てハッピーエンドのような少女漫画よりも、リアルでほろにがい「女子マンガ」は、いろいろな経験を積み重ねてきたオトナ女子だからこそ楽しめる最高の娯楽。
「女子マンガは人生の参考書」だと話す、早稲田大学の助教で少女マンガ研究者のトミヤマユキコさんに、ウートピ読者へオススメの女子マンガを選んでいただきました。
後編は、家族編。女子マンガを通して見える新しい家族のカタチとは?
幻想をぶっ壊した先にある希望
『違国日記』(祥伝社)/ヤマシタトモコ
主人公の「槙生」は35歳。ひとりぐらしの小説家です。姉夫婦の葬式に出向いた彼女は、そこで遺児となった15歳の姪っ子「朝」と出会います。親戚の間でたらいまわしにされかけていた朝を引き取ることに決めた槙生ですが、実は亡き姉との関係は最悪。単純な優しさから朝を救ったわけではありません。
「わたしは大体不機嫌だしあなたを愛せるかどうかはわからない でも わたしは決してあなたを踏みにじらない それでよければ明日も明後日もずっとうちに帰ってきなさい たらいまわしはなしだ」
血が繋がっているから家族で、家族だから仲がいいなんて、はっきり言って幻想です。しかし幻想をぶっ壊した先にこそ、希望がある。本作を読むことは、その希望をこの目で見ることなのです。
何にも染まりたくない14歳の静かな戦いの行方は…?
『逢沢りく』(文藝春秋)/ほしよりこ
オシャレでかっこいいけど、会社のアルバイトの女と浮気しているパパ。いわゆる「意識高い系」だけど、なんだか差別的なところがあるママ。14歳の「りく」にとって、両親とは矛盾に満ちた、厄介な生き物。しかし、かといって、無視することもできません。なんたって、まだ子どもですから。
ママのわがままに振り回される形で、大阪へ転校することになったりくは、親戚一家と暮らす中で、家族の形がひとつではないことに気づいてゆきます。実家のようにオシャレじゃないし、冗談ばっかり言ってるザ・関西人な家族をバカにしていたりくも、やがて彼らの飾らなさにちょっとずつ染まっていって……。
家族のあり方に正解はありませんが、ときに人は家族に理想を求め、裏切られるもの。「ママって本当にすごく手間がかかる」と言いながら、それでもがんばるりくの孤軍奮闘ぶりには、何度読んでも泣かされてしまいます。
愛し愛され系男子の初恋に胸キュン必至
『町田くんの世界』(集英社)/安藤ゆき
物静かなメガネ男子である「町田」くん。勉強ができそうに見えますが、はっきり言ってぜんぜんダメ。ついでに言うと、運動も得意じゃないし、料理もあんまり上手くない。でも、人間を愛し、人間に愛される才能だけはひと一倍あります。そんな町田くんにとって、唯一よくわからないのが、恋愛。人を好きになるとはどういうことなのか……ゆっくりと展開していく町田くんの恋模様には、本当にキュンキュンさせられます。
高校生の恋愛モノであるにもかかわらず、家族がかなり大切な位置を占めているのが本作の特徴。恋愛=ふたりの世界、かと思いきや、案外自分の生育環境が影響しているものですよね。ちなみに町田家は、ガールフレンドさえも家族の一員。ゆるやかな家族観は、わたしたち読者をも優しく包み込んでくれます。ごく自然に人を思いやり、温かい言葉をかけてくれる町田くん、最高にイイ男だ……こんな男と結婚したい!家族になりたい!既婚者のわたしですらそう叫びたくなります。
家族の当たり前ってなんだっけ
女子マンガを読んでいると、家族の描かれ方が年々複雑化しているなあと感じます。
一見ふつうそうに見える家族の闇を描いたり、血縁によらない家族の温かさを描いたり。そのいずれもが、家族の「当たり前」を疑問視しつつ、より風通しのいい家族像を提示しようとしています。
あらゆる「らしさ」は呪いですが、その中でも「家族らしさ」は。「男/女らしさ」や「大人/子どもらしさ」、あるいは「夫婦らしさ」を含み込んだ、たいへんに複雑なもの。しかしだからこそ、解体し甲斐がありますし、マンガの数だけ、解体方法が違うことそれ自体がおもしろい! そんな気持ちで女子マンガを読んでもらえたら、あなたの世界はさらに大きく広がっていく。そう信じています。
(トミヤマユキコ)
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情報元リンク: ウートピ
家族らしさって…? 平成最後の夏に読みたい女子マンガ3選