「食中毒は、一年のうち梅雨から夏、残暑にかけて、気温も湿度も高いときにもっとも多く発生します。原因となる細菌やウイルスが活発に増殖するからです」と話すのは、臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長。
そこで自炊での食中毒の対策について、3回シリーズで詳しく聞いています。今回は自分たちでバーベキューや焼き肉をする際の注意点について教えてもらいましょう。次の第1回、第2回の記事と合わせて参考にしてください。
【第1回】梅雨から夏に急増する食中毒…自炊で防ぐコツは?
・食中毒細菌は、湿度や温度が高いと急増する
・食中毒予防の三原則「細菌をつけない・増やさない・やっつける」
【第2回】自作弁当でまさかの食中毒…予防のための10のコツ
・自作弁当ではチェックが甘くなる
・不潔、水分、素手、残り物、混ぜ詰め、ムラ焼け、常温保存はNG
高温下での野外バーベキューでは食材に細菌が繁殖しやすい
正木医師はまず、バーベキューや焼き肉をする際の環境について、こう注意を呼びかけます。
「バーベキューでは食材を焼くので、食中毒予防に無頓着になりがちですが、山や海、キャンプ場、自宅でも庭など屋外でするでしょう。その場合、気温は昼なら30度を超える、夜でも25度以上のことが多く、高温の中での調理になります。
これは、食材に食中毒細菌が繁殖し、自分の手や調理器具に移って口に入りやすい環境です。とくに、バーベキュービギナーや同行の子どもたちは、楽しさが先行してそういったことに気付いていない場合が多いでしょう。
まずは高温のもとでの調理であることを認識して、第1回で紹介した食中毒予防の三原則『細菌をつけない、増やさない、やっつける』をバーベキューに即した方法で実践しましょう」
生肉は食中毒細菌が付着していると考えて厳格に取り扱う
次に正木医師に、具体的な食中毒撃退ポイントを挙げてもらいました。
(1)生鮮食品は低温で保存
食中毒の原因となる細菌を増やさないために、肉や魚、野菜などの生鮮食品は冷蔵庫から出したら、また購入したらすぐに、10度以下の低温で保存しましょう。屋外に持ち運ぶ場合は、保冷力が高いクーラーボックスに、保冷剤や保冷用の氷を適切な分量を入れて使用してください。
そのうえで、焼く直前までクーラーボックス内で保冷しておきましょう。外に出したまま置いておくと、食材に細菌が急速に繁殖します。
(2)生肉や生魚は、別々の使い捨て用保存袋に入れる
細菌が多いと考えられる生肉や生魚は、別の使い捨て用の保存袋に入れて、野菜などほかの食材と接触しないようにしましょう。
(3)食材にさわる前後には手を十分に洗う
食材にさわる前、さわった後、またトイレに行ったあとは、手についた細菌を食材や調理器具につけないために、手を石けんを使って流水でもみ洗いしましょう。その後に、手指消毒用のアルコールスプレーを使ってください。アルコールスプレーは屋外での調理の際にはとても有用です。
さらに、生肉や魚をさわった手で、野菜や包丁、まな板やボウルなど、ほかの食材や調理器具に触れないようにしましょう。
同じタオルやハンカチを何度も使う、何人かで使いまわすなどすると、細菌が移り、手を洗ったにもかかわらず、手に細菌がつきます。使い捨てのペーパータオルやウエットティッシュを用いましょう。
(4)けがをしたら、直接食材にさわらない
第2回の自作弁当編でも伝えましたが、食中毒の原因となる「黄色ブドウ球菌」は、ヒトの皮ふや口・鼻の中、また、けがをしたときにできる傷や膿(うみ)などに存在します。例えば、屋外でけがをした際に、小さな傷であってもその手で食材をつかんで食べると、細菌を口に入れることになります。
屋外ではけがをしやすいので、小さな傷の場合はバンソウコウで手当てをし、手を石けんを使って流水でもみ洗いをし、手指消毒用のアルコールスプレーを使用しましょう。けがをした手で調理をする場合や、手洗いに少しでも不安がある場合は、使い捨てのビニール手袋を着用してください。
(5)食材の加熱前と加熱後のまな板、包丁は別のものを使う
サラダなど加熱しない食材を切るときと、生の肉や魚を切るときは、まな板と包丁は別のものを用意しておき、別々に使いましょう。けっして同じまな板や包丁を使ってはいけません。もし、ひとつしかない場合は、先に加熱しない食材を切ってから、生肉や生魚を調理しましょう。
(6)食材を十分に加熱する
細菌をやっつけるために、食材は中心部まで十分に加熱しましょう。肉は、鶏、豚、牛の順に、食中毒の原因となる病原体が多く付着しています。肉類は75度で1分以上の加熱で病原体は死滅することがわかっているので、それを目安に加熱してください。
また、カキ、ホタテ、ハマグリ、赤貝などの二枚貝の場合は、ノロウイルスを避けるために、中心部まで90度で90秒以上加熱してください。
中心部まで加熱できているかを確認するには、数百円で市販されているクッキングデジタル温度計を利用するか、肉やハンバーグを切って、中心部が表面と同じように均一に茶色く焼けているかを見てください。中心部がピンク色や、生焼けのままで食べることはけっしてしないでください。調理途中のつまみ食いも危険です。
(7)生肉を取り分けたトングや箸、皿で食べない
生肉にふれたトングや箸には、肉に付着していた細菌が移っています。調理後の肉をそのトングや箸で食べると、細菌を口に入れることになります。トングや箸は、生肉を扱う用と、調理後に食べる用を分けて持参し、使用しましょう。
同様に、焼く前の生肉を乗せていた皿には、調理後の肉を入れないでください。屋外で食べる際には、清潔な使い捨て用のお皿などを使用するとよいでしょう。
(8)焼いた料理を1時間以上放置しない
焼いた後の食材でも、夏の屋外で冷蔵しないで置いておくと、その間に細菌が増えます。1時間以上放置したものは食べないでください。気温が32度以上の場所では、料理を1時間以上放置すると危険だと考えてください。十分に加熱したら、できるだけ早く食べましょう。
(9)食材を切った調理器具はよく洗う
細菌が残って繁殖しないために、調理後はすぐに、洗い残しがないよう十分に、包丁やまな板、調理器具を洗剤で洗いましょう。可能ならば熱湯をかけるか、キッチン用の除菌剤で除菌しましょう。屋外でそうもいかない場合は、あらかじめ、できるだけ使い捨ての調理器具を用意し、使用後は速やかに処分しましょう。
(10)髪をまとめる
調理中に髪をさわったり、髪が食材に落ちたりすると、髪についた細菌が食材に移ります。それを避けるために、髪はヘアゴムで結ぶ、ピンでとめるなどしてまとめておき、帽子をかぶりましょう。
正木医師は食べるときについても、こうアドバイスを加えます。
「よく焼いたからと安心をせずに、少しでもにおいや味に違和感があれば、食べるのをすぐにやめて、吐き出して処分しましょう。とくに免疫力が低い子どもや高齢者には、食事前にそう伝えてください。焼けていると思い込んで、完全には焼けていないものをうっかり食べてしまって食中毒を起こすというケースはよくあるのです」
どの方法も、常に実践しているかと言えばあやしい……と気づきました。気温が高い中で行う野外バーベキューを楽しむために、いっそうと食中毒細菌を「つけない・増やさない・やっつける」を意識した予防法を徹底したいものです。
【第1回】梅雨から夏に急増する食中毒…自炊で防ぐコツは?
【第2回】自作弁当でまさかの食中毒…予防のための10のコツ
(構成・文 品川 緑 藤原 椋/ ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
夏のBBQで食中毒を防ぐ10のコツ【専門医が教える】