地震、豪雨、台風などと大きな自然災害が続きます。そのたびに、不安を覚える人は多いのではないでしょうか。
心身医学専門医で心療内科医、野崎クリニック(大阪府豊中市)の野崎京子院長に尋ねると、「災害への不安感で体調不良になる人はとても増えています。自分で対処できる次元を超えていると感じ、強いストレス状態で不眠や憂うつ感が続きます」ということです。
災害不安を和らげる方法はあるのか、考え方などを聞いてみました。
「予期不安」は誰にでも起こる正常な反応
日本は災害大国だと言われるこのごろ、どこかで災害発生のニュースに触れるたびに、「次は自分の身に起こりうることかも」と身構えて不安にさいなまれることがあります。野崎医師はまず、このような不安感について、次のように話します。
「予測できる困難な事象を想定して混乱し、漠然とした不安感を抱くことを『予期不安』と呼びます。予期不安は誰にでもあることで、病気ではありません。災害が原因の場合は、発生時から時間が経過して日常生活を取り戻すとともに不安感は薄れていきます。
ただ、災害がこうも続くと断続的に予期不安に見舞われるため、しんどい、苦しい、病気になるかもと思う頻度が高まり、回を重ねるごとにつらさが増長するようになります。実はそういった感覚もまた自然なことであり、どうしてそのような反応が自分に起こるのかを知っておくようにしましょう」
次に、その反応が起こる理由について教えてもらいましょう。
自律神経の働きで「闘争と逃走モード」になる
災害に直面して緊急速報(エリアメール)が鳴り続けると、誰しも緊張し、不安が強くなって食事ものどを通らなくなると思います。その際の心身の状態について野崎医師は、こう説明をします。
「それは生物としての正常な反応です。ヒトの内臓や器官、血管の活動を調整している自律神経の1つの交感神経は、緊張や興奮したときには、心拍、血圧、体温を上げて瞳を見開くように働きます。災害時は食事をしている場合でも寝ている場合でもなく、逃げるか対抗するかする必要があります。そのため、食欲や眠気、胃腸の活動は抑えられるわけです。
そこでこの交感神経は、『闘争と逃走の神経』とも呼ばれています。外敵が近づいてくると、心身を集中させて対抗する、あるいは逃げるために交感神経が自動的に働いて、脳と体にこのような反応が起こります」
「いまは不眠が普通」と自覚する
たしかに、緊急速報が鳴ると、心臓がドキドキして体が熱くなり、脳がカッと緊張します。そうした場合、食欲不振や不眠はどのぐらい続くものでしょうか。野崎医師は、その目安についてこう話します。
「その人の環境、性格、状況によって一概に言えませんが、緊急速報が鳴るような状況下では、3日~5日ほど食欲ががくんと落ちる、10日~2週間ぐらいまでの不眠は普通のことと言えるでしょう。災害発生直後は食事がまったくできない、一睡もできないこともあるはずです。
それは『強い災害が起こったら逃げなくてはいけない』という心構えであり、脳と体がすぐに反応できるように準備をしているのです。
有事においては、『いまは、この眠れない状態が普通なのだ』と自覚し、自らにそう言い聞かせ続けましょう。やがて、状況や環境が冷静に見えてくるでしょう」
続いて野崎医師は、自律神経のもう1つの副交感神経について説明を続けます。
「一方で、災害がおさまって平穏な環境になると、副交感神経が働くようになります。これは休息時に優位になるため『リラックスの神経』と呼ばれて、24時間、交感神経とバランスを取り合って体の機能を安定的に維持するように作用します。
よく知られているように、自律神経は自分の意思ではコントロールができません。不調を改善するには、平穏であればできるだけリラックスして、副交感神経を優位にすることがカギになります」
備える、話す、想像する、寄付をする
では、不安感がいつまでも続くのは、リラックスできずにずっと闘争と逃走の交感神経が優位になっているということでしょうか。
野崎医師は、「そうです。自律神経のバランスが乱れているのです。そうなると、夜眠れない状態が続きます。災害時ではなくても、悩みごとやストレスがあって眠れない原因はそこにあります」と話します。
ここで、そのような場合に自分でできることについて、野崎医師に教えてもらいましょう。
(1)災害に対して備える
まず、「不眠の原因は災害だ」と明らかなことを自覚しましょう。そのうえで、「備え」をしてください。備蓄についてはよく提唱されていますが、本当にしているかどうかを見直しましょう。たとえば、水や食料、電池などを備蓄する、家具の転倒予防や配置の工夫をする、持ち出し用バッグを作っておく、家族や親しい人と打ち合わせをしておく、家族の電話番号を数件分は暗記しておく、自宅から避難場所までや職場から自宅までの経路を歩いて確認しておくなどでしょう。
不安感が強いと行動力が鈍ります。何もできなくなって、夜になると「なんだか怖い」という感覚に襲われることがあるでしょう。ですが、昼の間に、バッグに懐中電灯や水を入れておくなどすると、「自分で備えをした」という安心感が夜の恐怖感を軽減するように働きます。「備えあれば憂いなし」を今こそ行動に移しましょう。
(2)同じ不安感を持つ親しい人と話をする
一人で憂うつになるばかりという状況は不安感をつのらせます。予期不安は誰にでもあるものです。似た境遇、同じ心情の人と話をしましょう。ストレスや不安の軽減につながることがあります。
(3)厳しい状況の人のことを想像する
被害にあった人、周囲のつらい人たちの境遇や心情を想像してみましょう。周囲の状況を把握しながら、自分の境遇や心身の状態が見えてくることがあります。
(4)寄付をする
無理のない範囲で被災地に寄付をするなどの行為は、予期不安を緩和することにつながります。困っている人に何らかの行動を起こすと自分の思考や心情は変わります。金額の大小ではなく、コンビニやスーパーのレジにある募金箱に、買い物時のお釣りを入れることを数日続けるなど、身近な行動範囲内でできることはあるでしょう。可能なら、ボランティアに参加するのもいいでしょう。
また野崎医師は、不安感がおさまらないときについて、こうアドバイスをします。
「目安として1週間ほど経っても食事ができない、不眠が続く、災害の映像がフラッシュバックして悪夢が続く、激しいけん怠感に襲われる、集中力の低下が著しいなど、いつもと違うと感じた場合は決してがまんをせずに、心療内科か精神科を受診して医師に率直に相談してください。また、身近に苦しむ人がいたら、受診を促してあげましょう」
災害不安を感じるのは自然で正常な反応であること、またそれを緩和するには、無理のない範囲で自分自身に対して備え、また困っている人に対して寄付などの行動を起こすことにあるようです。夜にはできるだけ眠ることができるよう、昼間に少しでも行動をしておきたいものです。
(取材・文 海野愛子 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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