風邪をひいて、咳(せき)が出はじめると、なかなか止まらない、夜間にひどくなるなどで苦しくなります。セルフケアとして漢方薬を服用する人も増えているようですが、西洋薬とはどう違うのでしょうか。
漢方専門医で臨床内科専門医でもある吉田裕彦院長によると、「咳が出る状態そのものが必ずしも健康を害しているというわけではありません。しかし、長引くと体に多くの不調をもたらします。咳やたんの種類、体力によって適した漢方薬で咳の改善ができるので、試してみるのもひとつの方法です」ということです。
そこで、漢方薬での咳のケア法について聞いてみました。
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咳はのどから入る異物を押し出すための防御反応
はじめに吉田医師は、咳が出る原因について、次のように説明をします。
「咳が出るのは、チリやホコリ、花粉、食べ物や飲み物、ウイルスや細菌などの異物がのどから気道、肺に入るのを防ぐためです。
異物がのどや気道、気管支の粘膜を刺激すると、防御反応として異物を含んだ空気を一気に外へ押し出そうとして咳が出ます。これを医学的には、『咳反射』と呼びます。
その役割がある咳を、むやみに止めてはいけませんが、風邪や気管支炎など病気の場合は、ウイルスや細菌と闘うために頻発して、一度出るとなかなか止まらずに苦痛を伴うでしょう。
体力が消耗し、眠れない、のどや胸が痛くて負担が強い、激しい場合はろっ骨が折れることもあります。苦しさやつらさをがまんすると、違うトラブルを併発することもあるため、タイミングを見て治療をしましょう」
漢方では、水(すい)のバランスを整えて咳を改善する
次に吉田医師は、咳を改善する方法や考え方として、西洋医薬と漢方薬の違いについてこう説明を続けます。
「西洋医薬の場合、鎮咳薬(ちんがいやく)を用います。鎮咳薬とは、咳反射を抑える薬で、いわゆる咳止めのことです。
一方、東洋医学では、咳がひどい場合は、体をめぐる水分が少なくなっていると考えます。体は『気・血(けつ)・水(すい)』という3つの要素で構成されていて、それらがバランスを取り合って健康を維持するととらえますが、咳がひどく苦しいときは、『水(すい)』のめぐりが悪化して、『気・血(けつ)・水(すい)』のバランスが乱れているわけです。そのため、咳を抑えるには、体の内側から『水(すい)』を補う漢方薬を用いるとよいでしょう」
体力、咳の状態、伴う症状の3つを考えて選ぶ
ここで吉田医師に、「風邪で咳がひどいときに試したい漢方薬」について具体的に挙げてもらいました。
「選ぶポイントは3つです。まず、自分の『体力はどうなのか』で、体力がある方かまあまあか、弱い方なのか。
次に、『咳の状態』を見つめましょう。から咳なのか、激しい咳なのか、たんが出るならどんな様子か、のどが腫れているのか、痛みはあるかなどです。
さらに、『伴う症状』も考えます。咳以外に、熱はあるか、頭痛はするか、鼻はどうか、胃腸はどうか、関節痛はあるか、アレルギー性の鼻炎はあるのか。これらを考え合わせて選びましょう。次の薬は、体力がある人向きから順に並べています」
●麻黄湯(まおうとう)
体力があり、咳、気管支炎、寒気のある発熱、頭痛、鼻水、鼻づまり、ふしぶしが痛む(関節痛)などがあり、汗が出ていない場合の風邪のひきはじめに向きます。
●麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
体力が中等度以上で、強く咳こむ風邪、のどが乾く、気管支炎、気管支ぜんそく、よく汗が出る場合に向きます。
●五虎湯(ごことう)
体力は中等度以上で、せきが強く出る、黄色くて粘度があってたんがからむ咳が出る場合の風邪、気管支炎、気管支ぜんそく、痔の痛みにも向きます。
●小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
体力が中等度、またはやや虚弱で、水っぽいたんをともなう咳、さらさらとした鼻水、鼻づまり、体が冷えやすい、むくみやすい、胃腸が弱い場合の風邪、気管支炎、気管支ぜんぞく、アレルギー性鼻炎、花粉症に向きます。
●麦門冬湯(ばくもんどうとう)
体力が中等度以下で、コンコンとする咳、から咳、たんがきれにくい、のどが乾燥している、強く咳こむ、こみあげる咳の場合の気管支炎、気管支ぜんそく、咽頭炎、しわがれ声に向きます。体に水分を与えてのどの粘膜を潤すように作用します。
●桔梗湯(ききょうとう)
体力に関わらず使用できます。扁桃(へんとう)炎でのどが腫れて痛く、ときに咳が出る場合に。内服薬のほか、トローチのタイプもあります。
●銀翹散(ぎんぎょうさん)
体力に関わらず使用できます。風邪のひきはじめでのどが痛いとき、咳、のどが渇くとき、熱っぽいとき、頭痛がするときに向きます。
さらに吉田医師は、咳への対策について次のアドバイスを加えます。
「咳は湿度が高いと、出にくくなります。乾燥が気になる室内では、加湿器や濡れタオルを干すなどして加湿しましょう。また、なるべくホコリを吸わないように日ごろから部屋の掃除を心がけることや、のどを潤すために、水分補給を十分にする、濡れマスクをする、蒸気を吸う、のど飴をなめる、ガムを噛(か)むなどで咳が出る前や軽症の段階でこまめにケアを心がけましょう。
漢方薬の選びかたがわからない場合は、遠慮なく、薬局に常駐の薬剤師に尋ねてください。咳が長く続く、激しくて胸や背中が痛い、いつもの風邪とは違う異変を感じる場合は、風邪がこじれているか、何らかの病気が隠れていることもあります。早めに内科や耳鼻咽喉科を受診してください」
咳は、異物が体に入るのを防ぐ反応だということです。それを理解したうえで、咳の状態と自分の体格や体調、風邪の様子を見つめ、自分に合った漢方薬を選びたいものです。
(取材・文 藤原 椋 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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