寝ているときだけではなく、デスクワーク中やテレビを見ているときでも、無意識に口が開いて口で呼吸をしていることがあります。
口腔外科や口臭外来がある江上歯科(大阪市北区)の江上一郎院長によると、「口呼吸がくせになっていると、口臭、むし歯、歯周病などのほか、いびきやのどの乾燥、二重あごなどのトラブルが現れることがあります」とのことです。詳しいお話を聞きました。
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口呼吸は、口臭、むし歯、風邪の原因をまねく
——口呼吸は体にさまざまな悪影響があるとのことですが、それぞれ具体的に、その理由を教えてください。
江上医師:ヒトの体のメカニズムからして、呼吸は本来、鼻で行うものですが、近ごろ、口から息を吸って吐く口呼吸の人が世代を問わずに約8割以上いるという調査報告もありました。口呼吸の弊害を理解するためにはまず、唾液の役割に注目してください。次のような働きがあります。
・消化作用―唾液に含まれる消化酵素が、食べ物を消化します。
・咀嚼(そしゃく)作用―食べ物を飲みこみやすい大きさにくだく助けをします。
・嚥下(えんげ)作用―嚥下とは「飲み込む」ことです。消化、咀嚼した食べ物を、潤いで飲み込みやすくします。
・潤滑作用―口の中を潤して、食事や会話を円滑にし、ケガや傷を防ぎます。
・味覚作用―食べ物に含まれる物質と唾液が溶け合い、舌の「味蕾(みらい)」という味を感じる組織に届けます。
・洗浄作用―歯の表面や舌の上など、口の中の汚れを洗い流し、むし歯や歯周病、舌の汚れ、口臭を予防します。
・消臭作用―サラサラの唾液は、口臭のもととなる口内細菌を閉じ込めて胃に送り、臭いを防ぎます。
・抗菌、殺菌作用―口の中のばい菌が増えるのを抑え、口から入る細菌やウイルスに対抗します。
・歯の修復作用―初期のむし歯から溶け出したミネラルやイオンを、再び歯に沈着させて修復します。これを、歯の「再石灰化」と呼びます。
口を開けて口で呼吸をしていると、口内から水分が蒸発して口やのどが乾燥します。すると、こうした唾液の働きが衰えます。口臭、むし歯、歯周病などの口の病気が進行しやすくなるほか、風邪やインフルエンザなどの感染症にもかかりやすくなります。
口呼吸はいびきの原因になる
——口呼吸がいびきの原因になるとのことでしたが、その理由を教えてください。
江上医師:寝ているときに口がぽかんと開くと口呼吸になります。口を閉じているときに比べて、舌のつけ根が重力で落ち込み、気道の入り口の空気の通り道が狭くなります。そこを呼吸によって空気が通るときに、粘膜の振動や摩擦音で音が響き、いびきになります。
——では、鼻で呼吸をするほうがいびきへの影響は少ないのでしょうか。
江上医師:そうです。口を閉じて寝るため、舌の落ち込みがなくなるので、気道が狭くならない、また、鼻から直接気道に空気が通るため、音の響きがなくなります。
いびきが途中で止まる、また、これをくり返す場合は、寝ているときに呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性もあるので、注意が必要です。
二重あごになり、ほうれい線が深くなる
——口呼吸を続けると、二重あごになるのはなぜでしょうか。
江上医師:口呼吸になる原因は、口の周りの口輪筋や、舌の筋肉の衰えで口が開きやすくなるからだと考えられます。猫背や立てひざなどの姿勢でスマホを凝視していると、口やあご、のどの筋肉は弱くなります。
普段から口を開けて口呼吸をしていると、表情にも影響が現れます。顎舌骨筋(がくぜっこつきん)という舌につながる首の筋肉が萎縮して噛(か)む力が弱まり、噛み合わせが悪くなりがちです。すると、首の筋肉がたるんで二重あごになりやすく、また口元のほうれい線が深くなります。
舌の定位置は上あご。上下の奥歯はくっつかない
——老け顔になるとは、ショッキングな情報です。自分が口呼吸をしているかどうか、よくわかりません。セルフチェック法はありますか。
江上医師:まず、口を閉じてから、自分の舌の位置を確認しましょう。「舌の先が前歯の裏にあたっている」「上の奥歯と下の奥歯があたっている」、また、「舌の周囲に波のような歯型(圧痕)が付いている」場合は、口呼吸をしている可能性が高いでしょう。
舌の適切な位置は、舌先が上あごについている状態です。すると、上下の奥歯はあたりません。奥歯があたっていると、寝ているときやパソコン、スマホの操作中などに、無意識のうちに噛みしめていることがあって、むし歯や歯周病の原因になります。
また、自分のいびきの様子をパートナーや家族に聞いてみる、いびきの状態がわかるスマホの無料アプリを利用するのもいいでしょう。睡眠時に口呼吸をしているかどうかの予測がつきます。
意識をして自分の口呼吸に気づいて、鼻呼吸を実践するようにしましょう。
——鼻呼吸のほうが健康にとって良い理由を教えてください。
江上医師:鼻呼吸のほうが睡眠時に舌の落ち込みが少ないことは先ほどお話ししました。それに加えて、鼻の粘膜では細菌やウイルス、ホコリ、花粉などを取り除こうとする防御機能が働きます。さらに、鼻から吸った空気は鼻腔(びくう)で温められて加湿されたうえで肺に届くため、風邪や感染症にかかりにくくなります。
「あいうべ体操」で舌の位置を上げる
ここで江上医師に、口呼吸のケア法を次のように教えてもらいました。
(1)口閉じテープを貼る
睡眠時の口呼吸を防ぐ、いびきを軽減するために、市販の、唇の中央に貼って口を閉じるテープを利用してみてください。粘着力が弱い紙テープや、マスキングテープでも代用ができます。
眠っている間にテープがはがれる場合は、テープをV字やX字に貼るとよいでしょう。
(2)「あいうべ体操」をする
「あー」「いー」「うー」「べー」と口を大きく動かしましょう。環境が許すなら、発声もしてください。「ベー」のときには舌を押し出します。これをゆっくりと10回を1セットとし、1日に3セットを行いましょう。
舌の位置が上がって睡眠時ものどの奥に落ち込むことが減る、口内の緊張がゆるむ、かみ合わせがよくなるなど多くの点で有用なことがわかっています。
この体操は、みらいクリニック(福岡市博多区)の今井一彰院長が考案した口呼吸予防法で、多くの歯科医師会や医療機関、自治体の健康イベントなどで広く紹介されています。いつでもどこででも、気づいたときに実践してください。
(3)枕を高くしすぎない
枕が高すぎると、睡眠時に首が曲がって空気の通り道がつぶれやすくなり、いびきの原因になります。低めの枕を使用しましょう。
最後に江上医師は、
「女性のいびきは男性に比べて音が小さい傾向にありますが、それは肺気量が違うからです。音が小さいからと言って安心ではありません。まずは舌の位置に注意を向けて、ケアをしながら鼻呼吸を意識してください」とアドバイスを加えます。
口呼吸では、口、鼻ほか体の不調から、口まわりやあご、首の筋肉、表情、老け顔になるといった弊害があるということです。できるだけ自分でハッと気づくようにして、鼻呼吸が習慣となるように毎日意識してケアを行いたいものです。
(取材・文 藤原椋 /ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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