映画『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』などの作品を手がける今泉力哉監督の最新作『his』が1月24日(金)より全国公開されます。今作で描かれるのは、同性愛のその先。
自分がゲイだと周囲に知られることを恐れ、ひっそりと田舎暮らしをしていた迅(宮沢氷魚)と、自分を偽り女性と結婚し子どもをもうけたものの苦悩する、迅のかつての恋人・渚(藤原季節)。再び愛し合うふたりと、彼らを取り巻く人間関係の行き着く先は——?
主演を務めた宮沢氷魚さんと、藤原季節さんにお話を伺いました。
いきなり10日間の共同生活
——おふたりは初共演で、撮影期間中は、同じコテージに泊まって毎晩熱く語り合ったと伺いました。何か印象的なことはありましたか?
宮沢氷魚さん(以下、宮沢):季節くんが持ってきてくれた焼酎を飲みながら、鍋をつついていました。最初は10日間も共同生活なんて……と思ったのですが、撮影が続くにつれて居てくれてよかったと思うようになりました。
藤原季節さん(以下、藤原):センシティブなテーマだし、役と向き合うほど苦しくなることも多かったので、僕も氷魚くんが居てくれてよかった。
宮沢:うん。一緒に過ごすことで、じわーっと仲良くなったよね。
藤原:そうだね。特に迅と渚が再会してキスをするシーンを乗り越えてからぐっと深まった感じがあります。実は氷魚くんの“ファーストキス”だったんだよね(笑)、演技での。
宮沢:そうなんです(笑)。
藤原:そのシーンはけっこう撮影の初期段階にあって「撮ったね。やり切ったね。僕たち、」と。ふたりとも気持ちが昂ぶって、その夜はなかなか眠れませんでしたね。
価値観が古くなるのは悪いことじゃない
——迅と渚、それぞれ演じてみていかがでしたか?
藤原:渚を演じたことで、僕は以前より世の中にある「古い価値観」に敏感になりました。まだまだこんなにも古い価値観が残っているんだなと。でも、一番ショックを受けるのは自分の中にあるそれに気づいてしまうとき。自分が勝手に作った“当たり前”の中で判断していることに気づくとなんとも言えない気持ちになるんです。
宮沢:そっか……。
藤原:うん。それで(監修を務めた、弁護士の)南 和行さんに相談したんです。そしたら、「季節くんが今まで生きてきた中で培ってきた価値観があるから、それを無理に変える必要はないんだよ」とおっしゃってくれて。問題は、自分が古い価値観を持っていることじゃなくて、それは仕方のないことで、自分の価値観にないものを許容できない自分の弱さなのかもしれないと思うようになりました。氷魚くんと迅はそういうところがシンプルなんだよね。
宮沢:シンプル?
藤原:うん。どこか自由な感じがするというか。
宮沢:僕はどんなに考えてもキャラクターの気持ちや行動が理解できなかったら、わからないまま演じることがあります。自分の行動を振り返ってみても、説明のつかないことってけっこうありますよね。そこは迅とうまくリンクしたように感じています。答えが出ないなら、出ないまま向き合ってみようかなと。逆に季節くんはすごく悩んでいたよね。
藤原:僕はけっこう悩んじゃうタイプ。過ぎ去ったこととか、いま起きていることを、自分の中で受け止めてドンと構えていられない。ずっと考えてしまうんです。自分の弱さだなと思います。
弱さ、見せられますか?
——自分の中の弱さと向き合うって大変だと思うのですが、おふたりはどうしていますか?
藤原:僕は弱さと芝居で向き合っています。だから、俳優という職業があって本当によかったなと思っているんです。自分の弱さと向き合うことで、表現というものに昇華させられるから。それって幸せなことだなと思うんです。
宮沢:僕も、弱さを表に出すのは苦手です。
藤原:氷魚くんが弱音をはくところって見たことないね。
宮沢:「しんどいな」とか「まだまだ力不足だな」と思うことはもちろんあります。でも、人前で言うのはカッコ悪いと思ってしまうんですよね。弱さは自分で乗り越えられる気がして。僕の究極の理想は「弱さのない人」なんです。
——弱さがない、か。それはそれで苦しそうですけどね。
宮沢:ありえないことだとわかっているし、その理想が自分で自分を苦しめるときもあります。でも、弱さってどんどん出てくるじゃないですか。それを自分の力で乗り切ることで強くなれる瞬間もあると思う。僕はそうありたいんです。そこは迅と近いところがあるかもしれません。
主演のプレッシャーは?
——おふたりは今作が映画初主演ということで、気負う部分もあったのでは?
宮沢:プレッシャーはありましたけど、季節くんがいてくれたのであまり気負わないようにしていましたね。クランクイン前からみなさんの相当な熱量も感じていましたし、自分が無理やり引っ張っていく必要はないなと。途中からは自分が主演だということを完全に忘れるくらい、作品に溶け込めた感覚がありましたね。
藤原:クランクイン前はプレッシャーを感じることもありましたが、氷魚くんが居てくれたので撮影を乗り越えることができました。僕は氷魚くんの良さを引き出すことを目指していて、彼の心に触れてそこから出てくるものを大切にしようと思っていました。
——その手応えは?
藤原:撮影が終わった後にもこれだけリスペクトし合えているのは、触れられた証かなと思っています。
宮沢:先輩たちからも多くのことを学んだよね。立ち居振る舞いや作品への取り組み方。何よりも役者である覚悟。自分もそのつもりではいるのですが、まだまだ足りないなと思ったし、先輩たちはこんなにもエネルギーを注いでいるんだなって。それくらい本気になれる作品に携わることができて嬉しかったです。
藤原:本当にすごい先輩たちでした。例えば、握手をする演出があったとして、その握手ひとつからもいろんな気持ちを与えてくれるんです。演技や作品に対する強い信念を感じました。この作品は自分にとって、財産です。僕の成長と同時に、この作品も広がり続けるだろうと思っているので、一生宣伝します!
■映画情報
『his』
2020年1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
宮沢氷魚 藤原季節
監督:今泉力哉
企画・脚本:アサダアツシ
音楽:渡邊崇
配給:ファントム・フィルム
©2020映画「his」製作委員
(取材・文:安次富陽子、撮影:青木勇太)
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情報元リンク: ウートピ
共同生活では眠れなかった夜も…【宮沢氷魚・藤原季節】