コスメブランドのBA(ビューティーアドバイザー)を経て、現在は少女マンガ家として活動する、六多いくみさん。
百貨店の化粧品売り場を舞台にした『リメイク』(マッグガーデン)、『カワイイ私の作り方』(日本文芸社)、『メイクはただの魔法じゃないの』(講談社)など、BAの経験を活かしたテーマの作品を数多く生み出しています。
美容に憧れはあったものの、コスメカウンターデビューは社会人になってからという六多さんが、“コスメの沼”にハマりBAになるまで、そしてなぜ現在は少女マンガ家をしているのかキャリアの変遷についてお話を伺いました。
社会人でコスメカウンターデビュー
——六多さんはSNSでも積極的にコスメや美容情報を発信なさっています。最初にメイクに興味関心を持ったきっかけは?
六多いくみさん(以下、六多):興味を持つようになったきっかけは、マンガでした。小さな頃からずっとマンガが大好きで、キャラクターのヘアメイクに憧れを持っていたんです。私の学生時代はファッション誌『Zipper』や『CUTiE』でもマンガ連載があって、『ご近所物語』や『Paradise Kiss』『ジェリービーンズ』など、ファッション系の作品も多かったんですよ。
——懐かしいです。華やかなイラストが印象的でしたよね。
六多:そうですよね。ファッション業界での飛躍を目指す学生のキャラクターたちがマスカラを重ねたり、リップやネイルを塗ったりするシーンが、とても印象に残っています。たくさんの作品に触れていくうちに「私もメイクで変身してみたい」と思うようになりました。
ただ、その時は実際にメイクをしてキレイになろうというよりも、漠然とした変身願望に対する憧れにとどまるという感じで。しっかりメイクをするようになったのは、社会人になってからでした。
中高時代はコスメに詳しい友達もいなかったし、誰かに「こいつ化粧してる」と思われるのもイヤで……。「いつか自分もするんだろうな」くらいの感覚で社会人になったら、みんなきちんとお化粧するようになっていて、焦りましたね(苦笑)。
——わかります。焦りますね。
六多:だからお給料をもらえるようになってすぐ、地元のデパートのコスメカウンターに行きました。ブランドはDiorです。
——なぜDiorに? 美容初心者には敷居が高く感じられませんでしたか?
六多:「ファッション通信」(BSテレ東)で見た、Diorのファッションショーがあまりに美しくて。そのステージが頭から離れず、調べていくうちに「どうやらDiorはコスメも出しているようだぞ」と。それで迷わずDiorのカウンターに向かいました。
——ファッションショーのヘアメイクがきっかけで! 初コスメカウンターの感想は?
六多:どうしたらおしゃれになれるのか全然わからないから、BAさんに任せてフルメイクしてもらったんです。接客も素晴らしいし、鏡を見たら自分の顔なのに印象が完全に変わっていて驚きました。うれしくて、その日はベースメークを一式揃えて帰りました。
帰宅すると家族もメイクを絶賛してくれて。「メイクっていいな」、「褒められるって嬉しいな」と思ったのがきっかけで一気にコスメの世界にハマりました。オタク気質だったところもあって、あっという間にどっぷり。
——“コスメ沼”にハマったんですね。
六多:はい。自分で言うのも何ですが、もともと絵が得意で上達が早かったことも、コスメに対する気持ちを加速させたと思っています。プロに習ってアイランや眉毛を書くと、友だちが褒めてくれたりして。その頃から漠然と自分もBAになれるんじゃないかと思っていました。
派遣OLからBAに未経験転職
——実際、数年後にいきなり未経験からBAになったんですよね。転職には、どんな道のりがあったのでしょうか?
六多:BAになる前は、(男性同士の恋愛を描く)BLのマンガ家として活動しながら派遣OLをしていました。派遣社員は同じ組織で働けるのは3年までと決まっていて、私も契約更新のタイミングが迫っていて。次はどうしようかなと求人情報を見ていたら、未経験OKのBAの求人を見つけたんです。
これだ!と思って応募したのですが、面接で「メイク技術も上がるし、キレイになれる!」という自分本位な動機が伝わってしまい、結果は不採用。「自分がキレイになるんじゃなくて、お客様をキレイにする仕事ですよ」と指摘されたことはいまでも胸に残っています。その後、百貨店側の採用でどうにか別ブランドのBAとして就職することができました。
——BAといえば、美意識が高いメイクのプロ集団。未経験だけに、ルールや文化など戸惑うことも多かったのでは?
六多:そうですね。当時は今よりずっと、美しさに対する「こうあるべき」という空気が強かったし、自分も「BAとはこうあるべき」みたいな価値観にどっぷり浸かってしまったことはありました。でも、自分がコスメカウンターの内側にいたから気づけたこともあって。
——どんなことでしょう?
六多:みんな、基本「キレイになりたい、お客さまをキレイにしてあげたい」という気持ちを持っていること。美に対する探究心が強いので、休憩室では他のブランドの人たちと技術や新商品の情報交換が積極的に行われていました。世界が一気に広がりましたね。いろんな個性を持った人たちがいて、普通に暮らしていたらきっと出会わないだろうなという人たちと出会えたことも刺激になりました。
BA経験を活かしたコスメマンガで開花
——BLマンガを描きながらBAとして働いていたところから、少女マンガで独立。何が分岐点になったのでしょうか。
六多:実はマンガを描くのをやめようと思っていたんです。マンガ家として食べていける人は一握りだし、私も限界を感じていてBA一本に絞ろうと。でも、お世話になっていた編集者さんがフリーになるタイミングで「BAをテーマにした作品はどうですか?」と提案したら、企画が実現して。そこからどんどん次の仕事に繋がっていって、マンガ家を続けることを選びました。BAとして働いていたのは約3年です。企業勤めを続けると思っていたので、想定外の選択でした。
——どうしてBAをテーマにしようと?
六多:チーフや同僚たちの言葉がとても印象的だったので。最初はゴリゴリの「BAお仕事マンガ」を考えていたのですが、企画を考えているうちに新人BAの主人公がメイクを通じて、自分に自信をつけていく様子を物語にしたいと思うようになりました。カウンターにいらっしゃるお客さまもメイク初心者の方が多くて。メイクを通して、自信をもてるようになるところにフォーカスするのがいいかな、と。だから『リメイク』はテクニックを伝えるというより、主人公の成長、マインドチェンジが中心の話になりました。
何かしら頑なになっている子の心をゆるめていろんなことを受け入れて、生きやすくするにはどうしたらいいかな? と考えながら『リメイク』を書き始めたんです。『カワイイ私の作り方』では、リップやチークの色を変えるだけで「30分前の自分よりかわいい」と思える、その高揚感を伝えようと思いました。
——マンガで発信をしていて、よかったなと思うことはありますか?
六多:マンガだと「まずやってみよう」と思ってもらいやすいという良さがあります。美容雑誌だとキレイなモデルさんと比較してしまうなど、リアルな人の写真ではハードルが高くなりがちなようで。マンガのキャラクターだと想像の余白があるというか、「技術」だけを真似してみようかなと思えるみたいなんです。そうやって気軽に取り入れてもらうことで、社会人になった頃の私が感じた「自分の可能性」が伝わるといいなと思います。
(取材:小沢あや、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
元美容部員の私が、少女マンガ家になり“メイクの力”を描く理由