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偉大なるRBG。生涯をかけて法律家を全うした彼女から学ぶこと【小島慶子】

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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第34回は、9月18日(現地時間)、転移性すい臓がんによる合併症のために87歳で死去した、ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事について。

女性を代表して…というけれど

会議などの場で、女性出席者に向かってこんなふうに発言を促すのを耳にしたことはありませんか? 

「〇〇さん、ぜひ、女性の視点で」「主婦の感覚で」「ママ代表として」。

私もテレビに出るときなどによく言われます。その度に「小島慶子としてじゃだめなんかい」とモヤモヤします。

ある問題に対する私の視点が性別に依拠するするとは限らないし、主婦の感覚も人それぞれだし、ママ代表って、別に誰にも選ばれてないですけど。なんで男性には求めないのに、女性には「ぜひ女性として」というのかな。

この手の促しは、相手の属性にのみ価値を置いており、“脳みそ”へのリスペクトを欠いています。男性には専門的な知見や優れた意見を求め、女性には“女性による感想”を求めているのが明らかなのです。

そういう場では、“期待される女性らしさ”の範疇を超える意見は煙たがられ、またその範疇に収まるのであれば、どんなに物知らずな内容でも“価値ある意見”とみなされる傾向があります。「いやあ、さすが主婦の率直なご意見!」「女性ならではの感性ですねえ」などと。

残念ながら日本では、大抵の会議やシンポジウムなどにおいて女性は圧倒的少数で、大きな議場に一人しかいないことも珍しくありません。不幸にしてその発言者が不見識だったりすると、結果として「あれが女性の実力だ」「やはり女性はダメだ」という偏見が強化されることも。

話し合いの場には、多様な女性が数多く参加することが重要なのです。そうすれば、画一的な“女性ならでは・女性らしさ”を期待するのは難しくなりますし、一人の意見が全女性を代表するものではなくなります。

「いやいや、性別ではなく能力で選ぶべき!」と主張する人がいますが、その通り、能力のある人にはチャンスが与えられて当然です。でも、選ばれて当然の有能な女性たちに、今までチャンスが与えられてこなかったのです。ただ女性であるというだけの理由で。

最強の判事・RBGがいかにして誕生したか

「彼は、デートした若い男性たちの中で唯一、私に脳みそがあることに関心を示した人だった」

これは、先月18日に87歳で亡くなったアメリカ最高裁判所判事、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグさんの言葉です。

生涯をかけて性差別撤廃と女性の権利向上のために闘ったギンズバーグ判事は、トランプ政権下で保守化するアメリカで、リベラルな若者たちの熱狂的な支持を集めていました。日本でも、2019年に公開された映画『ビリーブ〜未来への大逆転』と、アカデミー賞にもノミネートされたドキュメンタリー『RBG最強の85歳』が話題になりました。

1933年生まれの彼女は、アメリカ史上2人目の女性最高裁判事です。亡くなるまで約27年間にわたって職務を全うしました。

あの言葉は、良き理解者であり献身的な伴侶であった夫・マーティンについて述べたもの。実際マーティンはルースに出会った時、彼女がとてつもなく聡明であることに惹かれたのだと、夫妻の息子が後年ドキュメンタリーの中で語っています。

性差別によって女性が法律家として能力を発揮することが極めて難しかった時代に、マーティンは彼女の知性を心から尊敬し、それを社会に生かすために文字通り人生をかけてサポートしました。

自身も優秀な税務専門の法律家であったマーティンは、ビジネスの拠点であるニューヨークから妻・ルースのキャリアのためにワシントンに引っ越したり、自らの人脈を使って彼女が最高裁判事にふさわしい人物であることを首都ワシントンの人々に訴えたりして、妻のキャリアを支えました。おそらくそれは妻を愛していたからという以上に、彼女の類稀なる優れた頭脳がアメリカという国家にとって必要なものだと信じていたからでしょうし、マーティン自身も性差別撤廃に対する強い思いがあったからでしょう。

もしルースが結婚した相手が「君は女性なのだから夫を立てて、仕事はほどほどにね」という人だったら、彼女はもっと多くの障壁と闘わねばならなかったはずです(でもきっと彼女なら、それらを乗り越えて世に頭角を現したでしょうけれど)。ちなみにルースは料理が非常に苦手で、料理上手なマーティンが食事を作っていたそうです。

RBGの死で危ぶまれるもの

ギンズバーグ判事の死が、今のアメリカにとってどれほど大きな損失であるかは多くの記事が出ているのでご存知かと思います。2016年以降、保守的な白人男性至上主義とも言える現大統領のもとで9人の最高裁判事のうち5人が保守派となり、そんな中でギンズバーグ判事は女性や少数者の権利の向上を重視する貴重なリベラル派の判事でした。

これまでの例に倣い、彼女の後任は11月の大統領選挙で選ばれた新大統領が任命するべきだとする民主党の主張を無視して、トランプ大統領は自身の価値観に近い保守的なエイミー・バレット判事を指名する方針だと発表しました。最高裁判事の任期は本人が辞めるという時まで、終生です。バレット判事は48歳。この先30年、判事でい続けることも可能です。

このまま共和党が多数を占める上院で承認されれば、最高裁判事9人中6人が保守派、そのうち3人がトランプ氏の任命した判事となります。中絶や銃規制、オバマケア(医療保険制度改革)やアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)などをめぐる判決が今後保守化する懸念だけでなく、もし11月の大統領選でトランプ氏が敗北しても結果を受け入れず、法廷闘争に持ち込んだ場合、司法判断がトランプ氏に有利に働くのではないかとも言われています。

よりによってこの時期に……と肩を落とし、なんとか生きていて欲しかったとギンズバーグ判事の死を惜しむ人はアメリカ国内にとどまらず世界中にいることでしょう。

私も昨年ドキュメンタリー映画で彼女の存在を知ったにわかファンですが、訃報はショックでした。アメリカで起きた変化は、他の国々のリーダーの振る舞いや社会の趨勢に大きな影響を及ぼすからです。

「女性、母親、ユダヤ人」彼女の前にあったいくつもの壁

ギンズバーグ判事の遺体は、27年間身を置いたアメリカ最高裁判所に安置されたのち、女性として初めて、またユダヤ系アメリカ人として初めて、首都ワシントンの連邦議会議事堂に安置され、葬儀が執り行われました。

生涯をかけて法律家として性差別の撤廃と女性の権利向上に尽力したギンズバーグ判事ですが、1930年代生まれの女性にとって、それは平坦な道ではありませんでした。ハーバードのロースクールからコロンビアのロースクールに移り、首席で卒業したにもかかわらず、彼女は女性であるというだけの理由で法律事務所や裁判所に就職することができませんでした。ロースクールで出会った夫マーティンのがん闘病を支えながら子育てと学業を両立させ、夫の学業のサポートまでしたという超人的な勤勉さと優秀さにも関わらずです!

その後、彼女は大学で教鞭を執りながら、アメリカ自由人権協会(ACLU)で弁護士として性差別撤廃のための多くの法廷闘争を経験し、1993年、60歳の時に、当時の大統領ビル・クリントン氏によって、女性として史上2人目の最高裁判事に任命されました。最高裁に就任初期に担当した裁判で重要なものに、「合衆国対ヴァージニア州」の訴訟があります。男性しか入学が認められていなかったバージニア州立軍学校の規定を違憲としたのです。その他にも、構造的な性差別をなくすために判事として尽力したことで知られています。

悪名高きRBGがヒット

2000年代に入ってから、そんな彼女に世間の注目が集まるようになりました。2013年にはシャナ・ニズニックという法学生が、性差別と闘うギンズバーグ判事の強い信念への敬意を込めて、往年のラッパーになぞらえた“ノトーリアスRBG(悪名高きルース・ベーダー・ギンズバーグ)という渾名(あだな)を付けます。それがSNSで一気に世に広まり、シャナは2015年にRBGの半生を描いた本を出版し、ベストセラーに。その後、映画『ビリーブ〜未来への大逆転』やドキュメンタリー『RBG最強の85歳』がヒットし、ギンズバーグ判事はグッズまで販売される人気者になったのです。

RBG現象とでも呼ぶべきこうした動きは、2016年の大統領選の際に取り沙汰されたトランプ氏の女性蔑視発言や性暴力疑惑、2017年にハリウッドの大物プロデュサー、ワインスタイン氏による性暴力を女性たちが告発したことを発端に世界に広がった#MeTooムーブメントなど、21世紀になってもなお世界中で女性差別が横行し構造化されていることへの抗議の声が上がり始めたのと時を同じくしています(ギンズバーグ判事は2016年の大統領戦でトランプ氏に否定的な発言をして、のちに謝罪)。

そしてコロナ危機が襲った2020年、トランプ再選なるかと注目されるアメリカ大統領選を目前にして、彼女はかねて患っていた膵臓癌の合併症で永眠。女性や少数者の権利のために闘ったその功績を世界中の人が悼みました。

コロナ危機によって、世界中で弱い立場で働いたり家族を支えたりしている女性たちが真っ先に大きな打撃を受けました。国連のグテーレス事務総長は、パンデミックで男女格差の問題が一層深刻化したことに強い懸念を示し、ジェンダー平等は持続可能な社会を実現するために不可欠であると強く訴えています。

パンデミックへの取り組みで評価されているリーダーには女性が多く、感染拡大が深刻化する国々には父権的でマッチョな価値観の男性リーダーが少なくないことも、非常に興味深い現象です。そうしたマッチョなリーダーは、地球温暖化問題への取り組みにおいても、人命よりも自身の支持率を優先する傾向にあります。

未知の危機に直面した時、人類は叡知を集結させなければ生き残れません。これまで長きにわたって全人口の半分の人々の頭脳が軽んじられてきた構造を変えなくては、難局を乗り切ることはできないのです。無数のヒーローたちがその能力を発揮する機会を得ることなく、船は愚かな船頭に率いられて沈むことになりかねません。

ジェンダー平等の実現はなぜ大事か。女性の脳みそを“発見”し、信頼し、その能力を発揮する機会を奪わないことが、なぜ重要なのか。それは人類が、これまでの2倍の人数の中から、より優れたリーダーを探し出し、絶滅を免れるためです。

大袈裟だと笑いますか?もう笑えない状況にあることにそろそろ気づかないと、残念ながら間に合わなくなりそうです。

情報元リンク: ウートピ
偉大なるRBG。生涯をかけて法律家を全うした彼女から学ぶこと【小島慶子】

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