【ニュース】11月6日、ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がヤフーニュースと本屋大賞が連携して運営する第2回「ノンフィクション本大賞」を受賞しました!
作家の西加奈子さんの小説『i(アイ)』(ポプラ社)の文庫版が11月6日に発売されたことを記念して、西さんとイギリス在住のライター・コラムニストのブレイディみかこさんが対談を行いました。
西さんは、ブレイディさんの最新エッセイ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)の帯に「絶対に忘れたくない、友達みたいな本」とコメントを寄せ、ブレイディさんとの対談を熱望していたと言います。
西さんとブレイディさんの対談の模様を3回に分けてお届けします。
日本に帰国するたびに思うこと
西加奈子さん(以下、西):『ぼくイエ』で、息子さんと帰国したときに日本人の中年男性から「YOUは何しに日本に?」と執拗に絡まれたというエピソードがありました。帰国するたびに嫌な思いもされていると思うのですが、日本に戻られたときに感じている変化はありますか?
ブレイディみかこさん(以下、ブレイディ):めっちゃギスギスしてきているなあというのは感じますね。窮屈な感じに考える人が増えている。
私は、若いときはイギリスに行ったり、日本に帰ってきたりとフーテンみたいな暮らしが長かったんですが、「何とかなる」という楽天性があったからやれてたんですよね。
でも、今の若い人って、私たちの頃に比べると、道を踏み外したら終わりみたいな感じでしょ? 時代のせいだとも思うのですが、楽天性がなくなっていますよね。それはすごく感じる。
西:これは本当に、経済と関係あるんですよね。
ブレイディ:緊縮財政で経済と一緒に人の心もしぼんでいる感じですよね。
西:今のところ、私は好きな仕事をして、ちゃんとお金もいただいて、とても恵まれていると思うんです。だから、物事を考えられる時間や余裕もあるけれど、一方で、余裕がなくて考えたくなくて、誰かのせいにしないと翌朝を迎えられない人もいる。
それがヘイトにつながることもありますし、自分だって余裕がなくなったらそうなる可能性が十分にある。でも、そんな人生は地獄ですよね。周囲のせいにして、スッキリしないとやってられないような世界って……。
ブレイディ:若い人は疲れている感じがしますね。
西:イギリスはまた違いますか?
ブレイディ:イギリスの若い世代の間では今、労働党のジェレミー・コービンがすごく人気がある。若い層がここ数年、目覚めている感じがするんですよね。
西:首相はわりと地獄系ですよね?
ブレイディ:首相は地獄系ですね(笑)。コービンが首相になれるかどうかはここでは明言しないとして、その下に育っている、彼の政策を支持する20代の若者が議員になったりしているのを見ると、これから変わってくるんじゃないかなと希望がありますね。
西:パンクスが生まれた国ですもんね。
ブレイディ:日本の若者は保守的だと言われていますが……。
西:でも、それもきっと彼らのせいだけではないと思います。生まれたときから、国が調子良かったところを一回も見ていないどころか、大人が過労死でバタバタ死んでいくところしか見てないわけだから。そしてちょっとでも目立つことをしたらたたかれる。
ブレイディ:それこそ地獄ですね……。
社会は「i」「i」「i」…でできている
ブレイディ:今の日本はすべてが自己責任とされて、なかなか社会のほうに批判の目が向かわないなあと思って見ています。「お前が貧困なのは、お前が悪いんだ。社会は悪くない」と。イギリスでいうと、典型的な保守派のモノの考え方ですね。
一方、イギリスの左派は「貧困な人は何も悪くない。ただ単なるか弱い犠牲者であって、社会が悪い」と主張しがち。もちろん、政治や社会に責任はあるし、それは声を上げて行かなきゃいけない。
でも、一方的に政治や社会に翻弄(ほんろう)される犠牲者だっていう話になると、それでも決して当事者は救われないわけですよ。だってそれは裏を返せば、社会が変わらない限り、自分を変えることもできない、という絶望にもつながるから。
西:両者が交わらないというかかみ合ってないですね。
ブレイディ:そうなんです。そういう意味で言うと、社会というソーシャルなものと、「i」の個人的なあり方の共存というか、バランスというのが、今一番興味があるところですね。「社会が悪い」「個人が悪い」という両陣営が石を投げ合っていつまでも言い合っているだけでは、当の貧困にあえいでいる人たちは何も救われない。
西:その話の中に、当事者はいないですもんね。周りで勝手にワーワーやっているだけで。
ブレイディ:そうなんですよ。当事者が置き去りになっている感じがすごくする。だから社会と個人の問題というのは、個人的にも考えていかないといけないと思いますね。
私はこれまで、どちらかというと「社会に問題があることに、みんな目を向けろよ」ということを書いてきた。「社会は右と左じゃなくて、上と下になっている」みたいな大きな言葉を使って言う事柄を多く書いてきたけれど、個人という基本の要素がいつしか抜けていたという気もする。だから、今後はその部分も書いていきたいですね。
西:むちゃくちゃ読みたい。
ブレイディ:次はどんなものを書かれるんですか?
西:今、小説新潮で連載しているのですが「若者の貧困」について書いています。ただ、書くテーマはあまり変わらないですね。やっぱり「i」、個人です。「あなたはたった一人のあなただ」ということと、社会との関係。
だから、ブレイディさんがおっしゃった「社会と個人の問題」というのはすごく分かります。「社会」という言葉にしたらでかいけど、結局は個人の集まりでバケモノではないですからね。
ブレイディ:私たちは、その一部でもあるわけだから。社会を構成している「i」「i」「i」の一人になるわけだから。
西:そうです。だから、社会も「i」「i」「i」……ということを、分かっておきたいという気持ちがあります。あとは本当に、社会をバケモノややたら大きいものにしがちだからそれに気を付けないとなって。
「私は私で生きる」が突破口に
西:「i」が大事、「まずは自分」というと「わがまま」と言われるかもしれないけれど……。
ブレイディ:わがままじゃないですよ。
西:「わがまま」という言葉は「我がまま」ということですからね。ネガティブに聞こえるかもしれないけれど、自分が自分のままで生きるということですからね。
ブレイディ:『女たちのテロル』(岩波書店)*の金子文子ではないですが、「私は私を生きる」ですよね。私が私を生きないと、誰も私を生きてくれないし、私は誰も生きられないから。私は私しか生きられない。
特に日本の女性は、私が私を生きていないから、生きづらいとかつらいという話になってくるんだと思うんですよ。『82年生まれ、キム・ジヨン』**はすごく売れていますけれど、あの本を読んで韓国の女性はすごく怒ったけど、日本の女の人はすごく泣いたという反応にもそれが表れていると思います。
西:え? 韓国の女性は怒ったんですか?
ブレイディ:そう。韓国の女性は怒ったけど、日本の女性たちはあれを読んでさめざめと泣いたっていうね。その反応の違いを聞いて、もっと「私は私で生きる」ことの重要性を言っていったほうがいいと思いました。「なんで21世紀にもなって、こんな状況なの?」と思いますよ。金子文子の時代は100年前のはずなのに。
ただ、デフレで経済も社会も人間の心もしぼむと、やっぱり他人の言う通りにしないと生きられない、食べられなくなるという不安が大きくなるのかもしれない。でも、逆にこういう時代だからこそ、私が私を生きないと、どこまでもいいように使われてしまいます。
「社会はしぼんでるわ」「自分もしぼんでるわ」じゃあ、やられっぱなしというか、共倒れというか、救いがないですよね。こういう時代こそ、私は私で生きたほうが突破口が見つかる気がする。自分だけじゃなくて、社会自体にも。みんなが、「私は私で生き」だしたほうが、良い方向に進みそうな気がしますけどね。
西:本当にそう思います。「i」は「i」で生きる、ですね。
*5月に書籍化されたブレイディさんの著作。
**2016年に韓国で発売され、大ベストセラーになった小説。日本でも2018年12月に発売され、完売する書店が続出するなど話題になった。
(構成:ウートピ編集部、堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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