コラムニストのジェーン・スーさんが、光浦靖子さんをはじめ、山内マリコさん、中野信子さん、田中俊之さん、海野つなみさん、宇多丸さん、酒井順子さん、能町みね子さんら8人と、テーマは設定せずに語り尽くした対談集『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)が3月に発売されました。
「女はキャリアが得にならない」「えん罪お局」「若くもきれいでもない女たちが東京では楽しそうに生きてる」「役に立つことのために生きてるわけではない」「極悪人に石を投げない」など、片っ端からマーカーを引きたい言葉ばかり。
「『私がオバさんになったよ』と言われると、少しだけ心がざわつく人に届いてほしい」とつづるジェーンさんに3回にわたってお話を伺いました。
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将来のビジョンより自分の軸を見つけること
——「まえがき」で「書籍化にあたりゲラを読んでいて、随所に蛍光ペンを引きたくなったのはこれが初めてだった」と書かれていました。ツイッターでの読者の感想を見ても「人それぞれのマーカーポイントがあるんだなあ」と読んでいて面白いのですが、今回はそんなマーカーポイントをピックアップしながらお話を伺えればと思います。
宇多丸さんとの対談で「将来のビジョン」について聞かれて「ない」と答えていらっしゃいました。この類いの質問をされると「何か言わないと」と思ってしまうので、ジェーンさんがキッパリ「ない」と答えていたのが新鮮でした。
ジェーン:考えてないですね。自営業になった時点で、「昇進」というのはもうないですからテーマにないし、会社に例えるなら、定款を書き直していけばどんな仕事もできるので、やりたい仕事が増えれば定款を書き直していくっていう……。
明確なロールモデルがもうない時代だと思うんですよ。昔みたいに、肩書きで、「これをやっていれば安心」とか「これをやっていれば大人」というのがなくなってくるんですね。
じゃあどうするか? と考えたら、私の場合は、後から振り返ってですけれど、自分の得意なことを嘘のない範囲で、人の期待に応えすぎず、自分が楽しめる範囲でやるということだけを決めて、その範囲の中だったら何をやってもいいと決めました。
だから、脳科学者の中野信子さんとの対談で、中野さんがおっしゃってた「自分で考えることを厭(いと)わない人のほうが今の時代は生きやすい」というのは、やっぱり自分をその都度相対化できるかどうかだということだと思います。その時代の価値観に合わせて、自分をうまく変容させていく。
自分の軸さえあれば、その時代の価値観に合わせた自分というのを見つけられると思うので、「どうなりたいか?」よりも、軸を見つけることのほうが大事なんじゃないですかね。自分のルールを。そのルールは変わってもいいわけだし。
他人の期待に応えすぎない
——「自分の得意なことを嘘のない範囲で、人の期待に応えすぎず、自分が楽しめる範囲でやる」と思い至ったのはいつですか?
ジェーン:多分、40歳過ぎてからじゃないですかね。やっぱり30代半ばまでは、それこそ「結婚しなきゃ」と思ってたし、サラリーマンのときは、昇進というか、「もっと稼がなきゃ」と思っていたこともありました。
けれど、だんだん自分に嘘のないように、あまり自分を裏切らない生き方をしていくということのほうが大事だなと思うようにはなりましたね。時間がかかることだから、もう待つしかないですよ。
——待つしかないんですね。40歳という節目の歳になったからそう思ったのか、それとも何かきっかけがあって、それがたまたま40歳だったのか、どちらですか?
ジェーン:たまたまこの歳になったってだけで、もっと早く気付く人もいるかもしれない。あとはやっぱり、私には子どもがいないというのもあるかも。子どもがいると全然変わってくると思うんですよ。「この子が成人するまでは」とか、目標が出てくると思うので。他者のために走るという時間ができれば、まったく変わってくると思うんですけれどね。
今の私は、考えることが自分と親とパートナーも含めた仲間のことくらいなので、そこが圧倒的に違うと思いますね。
——「人の期待に応えすぎない」ってどういうことですか?
ジェーン:歳をとってくると、まわりの人が自分に何を望んでるか感覚として察知しやすくなるんですよね。それに沿って応えていくと、喜ばれるし褒められる場所ができるので、それ自体は素晴らしいことなんですけれど、同時にそれをやり過ぎると「本当にこれは自分のやりたいことだっけ?」とわからなくなってきちゃうんです。
少し神経質になっていないと、気付いたときには「ずいぶん遠くまで来たもんだ」ということになりかねない。そこは気を付けるようにしてますね。
——そういう意味だったのですね。酒井順子さんとの対談で「30代の時より、40代のほうが忙しい」と書かれていましたが、そうなのですか?
ジェーン:私の場合は落ち着かなかったですね。その人の環境によると思うんですけど。あと、経済が右肩上がりというわけじゃないので、人がどんどん減ってますでしょ? そうすると、私たちが20代の頃に「管理職で暇そうな人がいるな」と思っていた40代がいないんですよね。今は40代もプレイングマネージャーみたいに働かないといけなくなってるので、昔の40代と、今の40代は違うんでしょうね。
——働き方改革もあって、私たち30代も20代に対して無理させられないから自分で仕事を抱えちゃう。
ジェーン:そうなんですよ。働き方改革も全員に適用されているわけではなく、40代とかには多少の無理をさせてるところも多いと思います。だから余計に忙しくなっちゃうんでしょうね。
信頼している人からの評価を信じてみる
——宇多丸さんとの対談に話を戻しますが、ジェーンさんは「やりたいことだけでここまで来たわけじゃない」「信用できる人から『やってみたら』と言われたら、また違うことをやっちゃうかもしれない」とおっしゃっていました。
ジェーン:30代中盤くらいになってくると、得意なこととやりたいことが必ずしも一致しないなっていうことがわかってくると思うんですね。できることと、好きなことも違う。自分では全然そこが得意だとは思ってなかったのに、他人から見たら「あなたはああいうことが上手いね」と評価してもらえることが出てくるので、そうなったときに、信頼してる人からの評価だったら、信じてやってみるのも手だと思います。
好きなことをやるのは、自分自身の満足につながりますけど、得意なことをやって他者から喜ばれたり、求められたりというのは、他者から授けられる満足というのを味わえるので。ただ、そのときに、さっきも言った「期待に応えすぎない」というのはありますけれど。何事もバランスかな。
——信頼できる人、というのは?
ジェーン:私の場合は、仕事をしていく中で出会ってきた人たちですね。誰でも一人くらいは「こいつスゲーな」と尊敬できる人に出会えると思うので、その人が言ったことを信じるってことかな。
——「この人すごい!」と直感的にわかるものですか?
ジェーン:目安としては、実績を上げてる人じゃないですかね。「仕事はそこそこだけど、すごくいい人」というのではなくて、実績を出してる人で信用できる人。人の成果を横取りしたりしない人ってことじゃないかな。
※第2回は5月21日(火)公開です。
(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子、撮影:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
他人の期待に応えすぎず、自分を裏切らないで生きていく【ジェーン・スー】