放送作家で吉本総合芸能学院(NSC)東京校の講師も務める桝本壮志(ますもと・そうし)さんによる小説『三人』(文藝春秋)が12月17日に発売されました。
放送作家と芸人2人の男性3人が暮らすシェアハウスを舞台にした青春小説で、芸人として売れないまま34歳になってしまった主人公の視点を通じて不安や焦り、友情と成長を描いています。
桝本さんと言えば、徳井義実さん(チュートリアル)と小沢一敬さん(スピードワゴン)と3人でシェアハウス生活をしている*ことでも知られ、朝のトーク番組『ボクらの時代』(フジテレビ)に出演したことも。自身初となる小説にも共同生活の体験が色濃く反映されていると言います。
*現在はコロナのため別居中
「加齢と成熟」をテーマに執筆したという桝本さん。小説の発売を記念して、『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビューし、現在はエッセイストとしても活躍中の燃え殻さんと「大人」をテーマに対談していただきました。前後編。
燃え殻さんとの出会いは、僕のターニングポイント
桝本壮志さん(以下、桝本):『三人』を書いた最初のきっかけは、小沢くんと燃え殻さんと一緒にご飯を食べたとき、「昔、大阪時代にバイト先で監禁されたことがあって……」という話をしたら、燃え殻さんが「それ、小説になりますね」とおっしゃって。「俺のトラウマみたいな黒歴史は、書くことで浄化されるのかな?」と思ったんです。
その食事会のあとに、燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』を読みましたが、面白くて2回読んじゃって。燃え殻さんの本の素晴らしさと、ふと言われた一言が頭の中でシンクロして、小説を書いてみたいなと思いました。だから、燃え殻さんは、僕の中で大きなターニングポイントの方なんです。
燃え殻さん(以下、燃え殻):うれしいです。僕は小さいテレビ美術制作会社にいたので、桝本さんのことはもちろん知っていました。でも、現場では雲の上すぎて、お会いしたことはなかったんです。放送作家って、なり方が分からないじゃないですか? なり方が分からない商売をしてる人って、格好いいんですよ。だから、テレビの裏方として、桝本さんのような人たちに会えたらいいなって。ただ、桝本さんと実際に会ってみると、「一緒だ! 感覚は近いかもしれない!」とおこがましくも思いました。
でも、僕はまだ桝本さんの小説を読んでないんです。だって桝本さんが送ってくれないんだもん。読んだことがない前提でする対談なんてないですよ。
桝本:小沢と徳井、燃え殻さんの3人には、本ができるまで見せないって決めてるんです。やっぱり、本の重みを感じてもらいたいじゃないですか。原稿をデータで渡されて読むと感覚的に仕事になっちゃうでしょ? 本を渡して読んでもらうのが友だちなんです。やっぱり、本の重みを感じながら、「まだ残りこれだけあんのかよ。めんどくせーな」って思いながら読むのが、本だと思ってて。
「三人」をテーマにしたのは、稀有な2人と一緒に住んでいるのと、僕らのシェアハウスは独特だと思ったので。3人ともテレビで仕事をしているけれど、結婚してなくていわゆる世間がイメージする「幸せ」とは違う生活をしている。そんな3人と読者が同居したら、面白いなって思ったんです。主人公に名前がついていないのは、そういう狙いがあります。
燃え殻:桝本さんは、特殊な世界にいて、特殊な仕事をして、特殊な人たちと一緒に暮らしていて。僕たちからしたら、「何、その仕事? 俺に関係ない人だ」ってなる。でも、「実は関係あるんですよ。これはみんなの話ですよ」ということを、桝本さんならやるんじゃないかなって。読んでないんですけど。
不安を口にするから人とつながれる
燃え殻:僕が本を出したとき、著名な方たちと対談をさせていただく機会が多かったんです。トークイベントだと、お客さんは対談相手のほうを見に来るだろうから、朝から嫌なんです。でも、その著名な人たちも、「一緒だ!」って分かってくる。みんなちゃんと緊張するし、自信がないまま突き進んでいる。それはすごいことですけど。
みんな、怖いと思ってるんです。自分が今いる場所に慣れきってない。いつも、「どうしようかな……」って考えてる。僕から見たら、エンタメを極めて有効期限がないパスポートを持っている人ばかり。でも、みんなパスポートじゃなくて定期券だと思ってて、「いつか切れる」って思っている。「どうやったら面白くなるだろうか? これでいいんだろうか?」って、試行錯誤を繰り返している。
桝本さんとの共通点でもあるのですが、いろいろな人たちと話す接点が、全部そこなんです。不安がエネルギーなんです。不安がなくなったら、人はダメだと思う。
桝本:不安って、全人類が持っている国際免許みたいなものじゃないですか。誰もが持ってるものなんだけど、その不安と向き合っているかどうかという違いはあるかもしれませんね。僕らは、不安と向き合うタイプなのかもしれない。
例えば、不安や失敗があったときにたいていの人は、「不安じゃない、失敗してない」というように自分で認めないし、暗示をかける。多分、そういうふうに逃げることで、不安や失敗を消化してると思うんです。
でも、僕や燃え殻さんのタイプは、「これって不安だよな、失敗だよな」というように、まず自分の中で認める。僕らは、「ヤバい。俺、不安だわ。失敗したわ」って割とオンで言っちゃうし、書いちゃう。実はそこに、世間で言う“成長”というものがある感じはしますね。
燃え殻:みんな不安だとしたら、それを口にすると絶対につながれるんですよ。例えば、「放送作家の桝本さんが本を出して今度対談するんだよ」って言ったら、「へー。すごいですね」で終わりですよ。でも、「俺、24歳まで童貞だったんだ。女性を意識しすぎて、話せなくなっちゃって……」という話をすると、「マジっすか? でも、その気持ちなら分かります」って。極端すぎる例ですが。
自分の不安をいかにプレゼンできるか。不安をちゃんと口にすることで、他人とつながれると思う。他人とつながらないで成功した人はいないから。
不安や失敗を話すと前のめりになってくれる
桝本:今の話を聞いてて、燃え殻さんが、なぜ若者世代に受け入れられているのか、その一端を見た気がしますね。僕は、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として若い子と向き合ってますけど、みんな不安を口にしないんですよ。なぜかと言うと、自分の心のあり方やよりどころを相手に握られそうだから。自分の本音や本当のことを言うと、大人たちが自分の心をギュッとつかむんじゃないかと思ってて、自分を出そうとしないんです。
でも、燃え殻さんがおっしゃったように、僕の不安や失敗を話すと、ちょっと前のめりになって聞くんですよ。「俺はテレビでこういうことをやってきた」という話をしても、まったく興味を示さないけど、「離婚してさ。冬なんて、便座しか暖めてくれないんだよ」という話をすると、同じ目線になってくれるんですね。そうすると、ポツポツと自分の不安を語り始めてくれるんです。「なぜはじめに不安を言わなかったの?」と聞くと、「言ったら、自分がバレちゃうじゃないですか」って。
そんな社会の中で、自分から不安を口にしていくような筆致と言動がある燃え殻さんって、やっぱり旗手ですよね。
燃え殻:僕はエッセイで、親も読むのに「親とすべては同意できない」って書いちゃうし(笑)。思春期のころと何も変わらず、ただ(親と)気が合わないだけなんですよ。47歳なのに、どうかと思うってなるじゃないですか。そうすると、若い子たちも「私も父親と口をきいてません」っと意見を言ってくれたり。こっちから傷口を見せれば、不安や失敗を明かしてくれるんだなって。
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※後編は12月19日(土)公開です。
(構成:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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