『キッパリ!』などの著書を持つ、上大岡トメさんの新刊『老いる自分をゆるしてあげる。』(幻冬舎)のインタビュー。
最終回は著者である上大岡トメさんが考える、「老いをゆるす」とはどういうことなのかをお聞きしました。
できることを伸ばしていく
——「40代まではめちゃめちゃ『老い』に抗っていた」とおっしゃっていましたが、具体的にはどんな感じだったのですか?
上大岡トメさん(以下、トメ):常にもっと動きたいという気持ちがありました。とくにバレエがわかりやすいのですが、痛くても疲れていても、自分の身体を顧みずにずっと練習をしていましたね。
——常に右肩上がりで伸びていくというのは、ある程度の年齢を超えると難しいですよね。
トメ:そうなんです。怪我も増えるしね。でも、それが「老い」からくるものだとは認めたくない。もっとがんばれば、もっとできるようになると、無理をしていたのが40代でした。
でも、「老い」について知れば知るほど、プログラミングされているものだから仕方がないと、受け入れられるようになっていきました。とはいえ、何もしないのは嫌だから、スローにしていく努力はしようと。もっとがんばれるではなくて、できないことも「ゆるそうよ」と思えるようになりました。
——世の中、ゆるされないことが多すぎるので、自分だけでも自分をゆるしてあげたいですよね。
トメ:この本が発売されてから、もう何年も会っていない友人から本の感想のメールがたくさん届きました。年代的に管理職の立場で、20〜30代の人たちの上に立って仕事をしている人がほとんどです。体力的な部分で無理がきかなくなってくる年代なのは仕方のないことなのに、それを努力が足りないからだと自分を責めていたと。でもこの本を読んだらみんな一緒なんだと気持ちがラクになったという感想ばかりでした。
——精神論でがんばるという考えは、世代的なこともあるんでしょうね。
トメ:たしかに、私たちがバリバリ働いていた20〜30代は、合理性よりも精神論が尊重された時代です。みんな寝る間も惜しんでがんばって、努力をすれば報われてきた世代とも言えるかもしれません。
もちろん、ときにはがんばることも大切ですが、50歳を過ぎたら、そろそろ「無理すればできるはず」ではなく、「やれることとやれないことを自分の中ではっきりする」ほうがいいと思います。できないことはさっさと諦めて、できるところを伸ばしていく。それでいいのではないでしょうか。
これからできないことがどんどん増えていくかもしれない。でもできることも絶対にあるはず。そこを優先順位としてやっていこうと、今は思っています。
——ついつい、できなくなったことばかりに目がいきがちですからね。具体的にトメさんができなくなったことはありますか?
トメ:バレエにおいてはたくさんあります。足が高く上がらなくなったとか、高くジャンプできなくなったとか、たくさん回転できなくなったとか。
でも、逆に手を伸ばした時のきれいな動きなど、表現力は年齢に関係なく伸ばしていける部分。そういったところを注視するようになってきましたね。
生物学的に50歳まで生きられたらそれだけでラッキー
——できなくなったことばかりをお聞きして恐縮ですが、仕事面でできなくなったことはありますか?
トメ:体力的にも気力的にも、スケジュールを詰め込めなくなりました(笑)。以前は東京にくるときは、打ち合わせや取材をみっちり詰め込んでいたけれど、今はそれをやると疲れてしまって何を話しているかわからなくなる(笑)。途中で休憩時間を入れたり、何もしない日を入れたりして調整しています。
——人間関係も疲れてしまうことのひとつかと思いますが、年齢を重ねたことで人との付き合い方に変化はありましたか?
トメ:私に限らずフリーランスには多いと思いますが、スケジュール表の空白が怖かったし、断ったら次がないかもしれないという思いが強く、無理をしてでも仕事を受けていました。でも今はできないときはできないと、「No」が言える日本人になりました(笑)。
そういう意味でもだいぶラクになりましたね。とくに『縁切り神社でスッキリ!しあわせ結び』(WAVE 出版)という本を描いてからは、人との距離を上手にとれるようになってきました。本当にご縁があれば一度関係が切れても、10年後につながってくるとわかってきたからです。
——「老いをゆるす」とは無理をしないということなのでしょうか。
トメ:それが一番だと思います。できないことに目を向けてもネガティブになっていくだけ。できることややりたいことに目を向けたほうが楽しいし、気持ちも前向きになります。ただしそれにはやらなくてはいけないことを、ちゃんとすること。適度な運動、筋肉のトレーニング、食事や睡眠などの「戦略的養生」です。50歳寿命説を知ったら、50歳まで生きられたらそれだけでラッキーなんですよね。そう思うと逆に何でもできる気がしてきます。
(取材、文:塚本佳子、撮影:大澤妹、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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